やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社



 最近の先進歯科技術の進歩には目覚しいものがあり,この新技術を用いる新臨床も着々と進展している.この新臨床を日々の診療にうまく採り入れるにはなんらかの動機づけが必要であり,必ずしも容易なことではない.
 しかし,新技術を導入して歯科医療に対する受診者のイメージアップを図ることは歯科医療を発展させるうえできわめて重要であり,不可欠のことといえる.
 わが国では,いま急速に高齢化が進み,健康への関心の高まりとともに,歯の重要性が強く認識されるようになってきた.他方ではマスメディアを通じて,歯科技術の最新情報が流されるようになり,受診者の医療に対する意識はかなり高くなっている.その状況のなかで受診してみて新しい先進歯科技術のイメージが感知できれば患者側は安心できるし,そうでない場合は失望することになる.
 近く21世紀になると,情報通信(マルチメディア),健康,医療,環境の問題に重心が移り,社会の状況は大きく変わる.そして,国民は保険の水準を超えた質の高い医療サービスを求めるようになるであろう.
 わが国の歯科医療は当面“8020運動“への対応と“高齢化時代”への対応が機軸になって新時代を迎えることになるが,そのとき先進歯科技術をどう採り入れていくかが重要な問題になる.
 本書はその新時代へのアプローチを意図して編集されたものである.
 第1章には受診者の加齢に対応して,成長期,成人期,高齢期に分け,新しい診療システムのプログラムが示してある.
 成長期には口腔保健に対する子どもの意識を高め,育てていくことが必要である.
 成人期には口腔検診制度や先進技術の展開などにより,歯科医療新時代のイメージを与えるようにしたい.
 高齢期には,補綴診療とともにインプラントのメンテナンス診療や有病患者に対する診療が重要になる.
 第2章には最も重要で基本的な問題,新しい歯科材料を用いて生活歯を保全する新治療システムが具体的に示してある.
 第3章には21世紀に普及する新素材チタン合金の性質,軽く安全な義歯,チタンインプラントの臨床病理,新しいインプラント治療の臨床実技などが示してある.
 第4章にはコンピュータ時代の到来により,21世紀の歯科診療システムがどのように変わるかが示してある.
 コンピュータ支援による新しいチェアー,ユニットの自動化,立体画像用X線装置,自動技工装置など限りなく進歩して,診療は合理化,能率化される.これにより歯科臨床教育の内容も診療システムも大きく変革されることになる.現在の歯科大学の教科は専門的に細分化されていて,新知識,新技術を総合的に,系統的に把握することがむずかしい.しかし,マルチメディア時代になるとこの難点は電子メディアでグローバルに解消されることになる.また,歯科医師と患者のインフォームドコンセントは,CD-ROMの使用などでビジュアルに容易になり,適確な治療処置ができるようになる.
 本書が歯科診療室に常備され,先進歯科医療の手引きとして役立てられれば編集者,執筆者の意図は報われたことになり,誠に幸いである.21世紀の日本の歯科医療が先進歯科臨床の普及によって,国民から信頼され,感謝されるようになることを願っている.
 最後に,本書の出版に際しご尽力いただいた医歯薬出版株式会社の方がたに厚く感謝の意を表したい.
 1995年8月吉日 増原英一
第1章 歯科医療新時代へのアプローチとプログラム/1
   はじめに 増原英一……2
   1 予防・早期治療のプログラム 大森郁朗……4
    齲蝕診療システム……4
    小児の咬合診療システム……6
    むすび……9
   2 矯正治療のプログラム 黒田敬之……10
    患者のニーズの変化……10
    治療のプログラミングにとくに必要な情報……10
    まとめ……15
   3 咬合治療のプログラム 藍 稔……16
    咬合治療の適応……16
    咬合治療に至る診断的過程……16
    咬合治療の対象となる咬合……17
    咬合治療の方法……18
    咬合接触の与え方……20
   4 歯の保全と審美歯科治療のプログラム 増田純一 清水義之 河原英雄……22
    MaSKの分類……22
    機能と形態の発達……23
    機能と形態の診査……24
    審美診査……26
   5 歯周病の診断と初期治療,再生治療のプログラム 石川 烈 小田 茂 木下淳博……28
    歯周病の診断と治療のプロセス……28
    従来の骨欠損の処置法28GTR法による膜を用いた再生療法……29
    これからの骨誘導因子を用いた再生療法……31
   6 移植・再植のプログラム 月星光博……34
    移植と再植の用語の違い……34
    移植・再植における治癒のメカニズム……34
    再植の臨床応用……35
    移植の臨床応用……36
    移植・再植を考慮に入れた診療プログラムの重要性……38
   7 歯科インプラントのプログラム 高森 等,野村 篤……40
    歯科インプラント患者の適応……40
    適応例かどうかを判断するための診査の要点……40
    適否の判断基準……41
    インプラント治療におけるインフォームドコンセントについて……42
    インプラント手術に必要なスタッフ,設備および器具・器材と消毒について……43
    インプラント手術の実施……45
   8 有病高齢者のための歯科治療 海野雅浩……49
    高齢者の生理的特徴……49
    高齢者に多い基礎疾患……49
    高齢者の血圧,脈拍……50
    高齢者の心電図……50
    有病高齢者の全身管理……51
第2章 歯科材料の進歩がひらいた新臨床/55
    はじめに 増原英一……56
   1 歯科用接着材料へのアプローチ 増原英一……58
    接着の基礎,なぜ接着するのか……58
    接着と水……59
    歯科用接着性レジンの要件……60
    プライマーとは何か,その機能……60
    接着の破壊と臨床技法……61
    歯科用接着材の臨床効果……62
    接着性レジンによる新臨床の展開……62
   2 フッ素徐放性レジンの性能 門磨義則……64
    フッ素徐放性レジンとは……64
    フッ素イオン徐放性ポリマーの構造と性質……64
    フッ素イオン徐放性ポリマーからのフッ素イオンの放出……65
    フッ素イオン徐放性ポリマーのレジンへの応用……66
   3 フッ素徐放性接着性レジンを用いる新臨床システム 大森郁朗……68
    烈溝内洗浄填塞法……68
    フッ素徐放性レジンシーラントの臨床69フッ素徐放性レジンコート材の臨床……71
    まとめ……73
   4 歯質とレジンの接着機構 中林宣男……74
    樹脂含浸象牙質が生まれるまで……74
    密着による接着ではない……74
    樹脂含浸層にレジンを接着しよう……75
    水も漏らさぬ樹脂含浸層……75
    樹脂含浸象牙質は齲蝕から歯を守る……76
    樹脂含浸象牙質はレジンで補強された象牙質……76
    樹脂含浸象牙質のなかのアパタイトはHCIに溶けない……77
    樹脂含浸象牙質は歯髄を術後疼痛や歯髄炎から守る新素材……77
   5 スーパーボンドの生活歯髄安全性 下野正基 宮越照一 井上孝……78
    スーパーボンドの細胞増殖能試験……78
    スーパーボンドの細胞毒性試験……78
    スーパーボンドのヒト歯髄への応用……79
    おわりに……80
   6 4-META/MMA-TBBレジン接着材を用いる歯髄保護法 眞坂信夫……82
    露髄歯の保存にSBを使用する理由……82
    露髄歯の保存……84
    齲蝕による露髄歯保存の処置要点……86
    まとめ……87
   7 4-META/MMA-TBBレジン接着材を用いる漏斗状歯根,根管穿孔歯,破折歯の新治療法 眞坂信夫……89
    崩壊の大きい無髄歯……89
    根管穿孔歯の保存……91
    破折歯の接着修復保存……93
    まとめ……95
   8 感染歯髄の新しい治療法 岩久正明……97
    歯髄の意義……97
    感染歯髄への新しいアプローチ……97
    齲蝕および継発疾患患部の細菌……97
    抗菌性薬剤の検討……97
    抗菌剤を患部に用いるための基材の検討……98
    病理組織学的検討……98
    臨床応用上の留意事項……99
    適応症……99
    薬剤の調合……100
    臨床術式……100
   9 レジンセメントの性質と接着性 山田敏元 北迫勇一……102
    レジンセメントの基礎的諸性能……102
    レジンセメントの接着性……105
    おわりに……106
   10 接着性レジン修復の新技法 山田敏元 原田直子……108
    診断と治療方針……108
    修復に用いる新材料の選択……109
    修復治療の術式,なぜそうするのか……109
    臨床経過と臨床研究の背景……110
    新世代のコンポジットレジン接着システム“クリアフィルライナーボンドII”による基本的修復操作……110
    クリアフィルライナーボンドIIと生活歯髄の保護作用……111
    おわりに……112
   11 超酸化水の殺菌効果と消毒 柏田聡明……113
    超酸化水の原理……113
    超酸化水の殺菌作用……113
    次亜塩素酸ナトリウムとの違い……113
    微生物に対する超酸化水と消毒剤の効力比較……114
    歯科臨床への応用……115
    超酸化水使用での問題点……116
    これからの展望……116
   12 臨床効果からみたセメント合着とレジン接着の相違 豊島義博 安田 登……118
    脱落の統計調査……118
    カリエスアクティビティと二次齲蝕……118
    樹脂含浸層の耐酸性……119
    セメントの耐酸性比較テスト……120
    臨床例の観察……121
    セメントの選択基準……121
    接着によって得られた新しい齲蝕治療法……122
   13 セラミックス・金属材料とレジンの接着 松村英雄……123
    被着体としてのセラミックス……123
    機械的維持のためのセラミックス表面処理……123
    プライマーやボンディング剤によるセラミックス表面処理……123
    セラミックス接着剤……124
    被着体としての金属材料……125
    機械的維持のための金属表面処理……125
    金属材料接着用プライマーと表面処理の関係……125
    金属材料接着剤……126
   14 セレックシステムを用いる新修復法 猪越重久……128
    セレックシステムとは……128
    適応症……128
    修復手順……129
    間接法修復への応用……130
   15 セレックシステムによるラミネートベニア法 中村隆志 丸山剛郎……131
    ポーセレンラミネートベニアの製作方法……131
    臨床術式……131
    適合性と色調……133
    まとめ……134
   16 オールセラミックスクラウンの新臨床 横 繁雄 高橋英登……136
    新世代ポーセレンジャケットクラウンの概念……136
    新世代ポーセレンジャケットクラウンの臨床応用上の要件……137
    新世代ポーセレンジャケットクラウンの製作・接着操作……138
   17 接着ブリッジの新臨床 田中卓男 熱田 充……142
    接着ブリッジの適応症例……142
    接着ブリッジの設計……143
    メタルの接着システムについて……144
    接着ブリッジの今後の期待……145
   18 磁性アタッチメントの性能と応用 水谷 紘……147
    構造……147
    性能……147
    技工操作……150
    臨床応用例……150
    おわりに……151
   19 軟質裏装材を用いる臨床 早川 巌……152
    軟質裏装材の種類……152
    軟質裏装材の適応……153
    軟質裏装材の適応か否かを判断するには……154
    軟質裏装材の特性と裏装形態……154
第3章 チタン合金の性能と臨床応用/157
    はじめに浜中人士……158
   1 チタンの鋳造と加工法 宮崎 隆……162
    チタン鋳造の問題点……162
    鋳造機の進歩……163
    埋没材の現状……163
    鋳造体の機械的性質……164
    鋳造体の適合性……164
    審美補綴への対応……165
    鋳造法からの脱却……165
    今後の展望……166
   2 チタン合金による義歯 若林則幸 藍 稔……165
    チタン床義歯の特徴……165
    超塑性チタン合金床義歯……167
    超弾性チタン合金クラスブ……168
    おわりに……169
   3 チタンインプラントの臨床と病理 井上 孝 下野正基……170
    チタンインプラントは自己になりうるか……170
    チタンは骨と結合するのか接着するのか……171
    チタン骨組織界面……171
    チタンインプラント表面の幾何学的効果171チタンインプラントの使い分け……172
    インプラントへの負荷時期……173
    おわりに……173
   4 チタンインプラントの種類と性能および上部構造 榎本紘昭……176
    近代歯科インプラントの変遷……176
    インプラントの種類……178
    インプラントに関心が高まっている背景……178
    インプラント義歯の設計および上部構造……179
    インプラント成功のために……181
   5 IMZインプラントを用いたリハビリテーション 渡辺文彦……183
    インプラント治療に対するニーズと評価……183
    長期の良好な予後を継続するためのインプラント治療にあたって……184
    内部可動機構を有するIMZインプラントシステム……186
    チームアプローチとインプラント修復の設計とインプラント埋入にあたっての生体力学的検討……189
    まとめ……192
第4章 コンピュータ時代の歯科臨床技術/193
    はじめに 荒木和彦 山田敏元 荒井敏夫 増原英一……194
   1 歯科技術を革新するエレクトロニクス応用機器 荒井敏夫……196
   2 画像診断装置の進歩篠田宏司……200
    ディジタル・デンタルX線撮影装置……200
    多機能パノラマX線撮影装置……201
    X線CT……202
    造影撮影法……203
    超音波断層映像法……204
    MRI(Magnetic Resonance Imaging)204
    内視鏡(顎関節鏡)204
    歯科領域における画像診断のこれから……205
   3 歯および顎骨の立体画像 佐々木武仁 倉林 亨 誉田栄一……206
    CT装置の進歩……206
    三次元立体画像の撮影と表示方法207三次元立体画像の代表例……207
    立体画像の歯科領域における利用……208
   4 咬合機能測定装置 河野正司……210
    新しい顎運動測定法……210
    新しい咬合接触分析装置……211
    おわりに……212
   5 矯正臨床におけるコンピュータ活用 栗原三郎……213
    コンピュータの発達……213
    現在の矯正臨床におけるコンピュータ活用法……214
    矯正臨床画像データの検討……216
    おわりに……221
   6 CAD/CAMセレックの機構と光学印象 高瀬保晶……222
    セレックの開発……222
    各部の構造……222
    設計……214
    ミリング……225
    まとめ……225
   7 超音波根管治療器ソルフィーZXの機能と新歯内療法 小林千尋……226
    ソルフィーZX……226
    ソルフィーZX使用にあたっての注意……227
    ソルフィーZXの応用……228
    考察……228
   8 レーザーを用いる新臨床 渡辺 久……231
    レーザーとは……231
    Er:YAGレーザーについて……231
    スケーリングへの応用……232
    軟組織外科手術への応用……234
    レーザーによる軟組織外科手術……235
    今後の展望……236
   9 コンピュータによるレセプト管理とCD-ROM 荒木和彦……238
    はじめに……238
    レセコンから歯科用コンピュータへ……239
    レセプトの電算化と通信の関係……240
    今後の歯科用コンピュータ……241
    歯科用コンピュータのマルチメディア化……242
    歯科医療におけるCD-ROMの応用……242
   10 歯科医院におけるパソコンの選択法 窪田敏之……244
    パソコンのスペックの見方……244
    パソコンの用途……248
    機種選び……249
    ソフトウェアの買い方……251
    おわりに……252