やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

DENTAL CLINICAL SERIES BASIC
Periodontics 2


 第1巻を出してから3年近くが経過した.その間にお読みくださった方からさまざまなご感想をいただいた.そのなかで特に印象に残ったものは,一昨年秋に,在京の歯科大学6年に在学中の学生さんからいただいたお電話であった.
 「卒業を控え,学校に残るか開業医に勤務するか迷っています.この本では,4人の著者のうち3人は大学には残らなかったと書いてありますが,大学で勉強しなかった方がこういう臨床をやっていることに興味があります.診療室を見学させていただけませんか?」という主旨のものであった.
 学生時代にこの本を手にしていただいたことに感心するとともに,こんな形での影響力があることに責任を感じた.卒業して最初にどんな環境に身をおくのかは,それからのその人の歯科医人生をかなり左右すると感じているからである.
 ここ数年,特にこの歯周病分野の情報はあふれんばかりである.それにもかかわらず,私どものように歯周病の基礎を大学で学んだ経験のないものがこの本を上梓しようとした“想い“を振り返ってみると,はっきりとは申し上げられないが,いま提供されている情報だけでは歯周病治療を日常臨床に取り入れることは難しい……と感じていたことがそうさせたのではないかと思っている.それはいきなり開業医という臨床現場に足を踏み入れて,そのなかで理想と現実の狭間でもがいてきたものの体験からでた“勘”なのかもしれない.
 「“システム”を作らなければ歯周病治療を日常臨床に根付かせることはできない!」と1巻でもこの2巻でも何度もくり返している.その点に触れられている成書はあまり目にしないし,長期にわたる経過を呈示し,そこから歯周病の病態と予後について考察したものにもあまりお目にかからない.私ども開業医にできることはその2点について述べることだと一貫して考え続けてきたが,もとよりかなり偏りや抜けがあることは自認している.
 4人の著者はおかれた環境も性格もかなり違うものの集まりであるが,共通しているのは“経過“を形として残していることである.“経過”からものを考えることのおもしろさをこの本から感じていただきたい……,それが私たちの一番の願いなのである.
 この本作りは5年間にわたるプレッシャーの連続であった.1日たりともこの本のことを忘れたことはなかったので,これで楽にはなるのであろうが,冒頭に述べたような責任を負っていくことは覚悟している.
 それにしても,優秀な若い仲間3人との仕事は楽しいものであった.これからは彼らの時代であろう.
 2002年8月 北川原 健

DENTAL CLINICAL SERIES BASIC


 6年間の歯学教育を終えていよいよ臨床と向き合ったとき,いいようのない不安を感ずるということは,いつの時代でも変わらない.歯学教育のカリキュラムや方法,期間や制度の問題を検討しても,それはこれからの課題であって,いま目前にある問題が解決されるわけではない.ともかく,現在どうすべきかを考えなければならない.これからの長い道のりを,どんな目標に向かって,どんなふうに進んでいけばよいのか? だれでもが一度は立ち止まり,考え,道標を探そうとする,ちょうどそんな所に1本の蝋燭を灯せれば,といった思いから本シリーズは誕生した.
 良くも悪しくも現代社会の潮流はますます速さを増し,それに同調して歯科医学を取り巻く情勢の流れも速い.歯科医師になれば,すぐにその流れのただなかに立たされる.情報の選択に失敗すると,そのどれもがすぐにでも自分の臨床に必要不可欠だと思い込むことになる.不安の多くは先端技術への過剰反応にある.だが当面,最先端の医学を知らなければ臨床がなりたたないわけではない.医療を支える基本は,決して流行を追うことにあるのではない.むしろ,人間と向き合う臨床医学の底流は,その大部分がしっかりと根をおろして,短期間のうちに変わることは少ない.
 次々に湧き出てくる新しい情報に比べ,すでに確立されている理論と術式は,一見陳腐に見えるかもしれない.しかしこれらは,長い臨床のなかで多くの努力と叡智のもとに育まれた結果築かれてきたものである.そうした結果は大切にしたい.そのためには,まずそれがどんな知識であり,どんな技術であるのかを選択する目が必要である.そのうえで,この変わらぬ部分の知識と技術をしっかりと自分のものにすることが,本当の自信を獲得するための基盤となる.
 読後感として,このシリーズの前半の巻は多少基本的にすぎると思うかもしれないが,もしそう感じたとすれば,それは編者の意図するところであり,それが必要な理由は上述したとおりである.大学で教わった各科の基本も頻繁に顔を出すが,そこに経験豊富な臨床家が加える臨床的基本も随所に盛り込まれているはずである.
 理論と実際は大きくかけ離れることはないが,だからといって決して同じではない.イ後3〜5年はこのギャップが悩みの種になるだろう.しかし,この3〜5年の経験は辛いがとても重要だ.こんな悩みを経験せずに飛躍することはありえない.本書はこのような経験をどのように考え,解決すべきかの入門書でもある.執筆に加わっていただいた先輩諸氏も,出発点は皆“卒直後”であり,同じ経験をしてきたはずである.経験し,思考し,実践したからこそ,ユニークな臨床手法が用いられているのだ.
 もちろん,単に経験さえ積めば,臨床のすべてが解決されるわけではない.治療の意味と手段の適応を考え,細心の注意をはらった経験だけがものをいう.
 本書にはそんな経験の積み重ねが満載されている.お役に立てることを心から願ってやまない.
 1992年11月 鈴木 尚・宮地建夫


(1) 重度歯周病罹患歯への対応
 1.骨縁下ポケットの診断と治療方針チャート 難しい骨縁下ポケットの治療にも,頭を整理して取り組もう 千葉 英史
 2.歯周治療の可能性と限界 治癒のかたちに思いをはせよう 北川原 健
 3.抜 根 そのリスクと効果を考えよう 千葉 英史
 4.骨の扱い 骨整形と骨削除 永田 省藏
 5.再生療法 進化しつづける再生療法 佐々木 勉
 6.歯の移動 歯は動く,歯を動かす 北川原 健
 7.下顎根分岐部病変への対応 小臼歯2本と考えれば難しくはない 千葉 英史
 8.上顎根分岐部病変への対応 3カ所の根分岐部,対応は多様 千葉 英史
 9.歯肉歯槽粘膜形成術(MGS)適応の診断 歯周環境を改善する 永田 省藏
(2) 1歯から口腔,そして人へ
 1.オリエンテーション 再び歯周病治療の特性について 北川原 健
 2.歯周病患者の個体差 患者の体は一人ひとり違う 千葉 英史
 3.力の見方 炎症とともに,外傷性に働く力を見すごさないように 北川原 健
 4.咬合性外傷 プラークの悪しき相棒,合併すると手ごわい 佐々木 勉
 5.咬合調整 削るばかりが咬合調整ではない 佐々木 勉
 6.ブラキシズム ちょっとてごわい歯周組織の見えざる敵 佐々木 勉
 7.歯の評価と補綴 補綴する場合には,注意が必要 永田 省藏
 8.顎位の与え方 重度の歯周疾患では,咬合位の不確かな例も多い 永田 省藏
 9.ガイドの与え方 ガイドの診断と調整 永田 省藏
 10.プロビジョナルレストレーション 診断と治療方針のために 北川原 健
 11.治療計画 大きくとらえる,細かく診る,そして考えよう 千葉 英史
(3) 歯周病治療のためのシステム
 1.対患者 歯周病に対する想いを近づける 北川原 健
 2.対スタッフ モチベーションと,同じ方向を向いていることの大切さ 北川原 健
 3.対医療制度 健康保険制度のもとでの歯周病治療 北川原 健
 4.Supportive Periodontal Therapy 治療終了時がスタート,患医共同で口腔健康を守ろう 佐々木 勉
(4) 4人の症例から
 1.保存的で控えめな治療を行った回復力の高いケース 千葉 英史
 2.回復力が低→高に転じたと思われるケース 千葉 英史
 3.全顎的に歯の動揺があるケース 佐々木 勉
 4.固定性補綴物の可能性を示すケース 佐々木 勉
 5.咬合崩壊に対し二重冠方式のクロスアーチスプリントを用いたケース 永田 省藏
 6.歯周組織の改善とパーシャルデンチャーによる欠損補綴のケース 永田 省藏
 7.初診から32年の経過から 北川原 健
 8.症例の解説 千葉 英史

 参考文献・参考図書
 使用器材一覧
 執筆者一覧