やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文

 急性症状を伴う歯の外傷を主訴として来院する患者のほとんどは,急患として来院する.これが,本疾患の特徴である.すなわち,われわれの予約簿には,“外傷”という治療の予定は入っていない.このような患者が来院した時に,ちょうど忙しい時であったりすると,治療を受けるまで,患者は辛抱強く待つことを余儀なくされる.このような患者の来院は,時として,真夜中であったりすることもある.
 本書の出版の目的は,一般の歯科治療で,あるいは病院の緊急処置の際に,臨床家が,急性症状を有する歯の外傷の初期治療を容易に,また確実にできるようになってもらうことである.そのような訳で,最初に行った診査や記録の保存を便利にするために,付録1として,利用できる基本的な緊急用チャートを添付した.さらに付録2には,急性症状を有する外傷歯の,また一般の症例の経過観察を行うための基本的な臨床的診査法を述べた.また付録3には,各々の脱臼の種類に応じて,臨床的,X線的特徴についても要約してみた.以上のような書式に従って,外傷を受けた患者の記録が行われることをお勧めする.
 実際の外傷症例のなかで,たとえば,乳歯の振盪,亜脱臼などでは,経過を観察する以外に適当な治療法がないこともある.またある症例では,再植や固定なども行われる.歯が歯槽窩よりずれた場合には,その場で即座にもとに戻す方法や・,矯正的に,あるいは外科的に治療する方法もある.このような症例では,どの方法を用いるべきかが検討されることになる.最後に,もしも患者が治療期間中に治療を中断するようなことがあった場合,その間の患歯の経過についてもっともよく知るためには,いつ頃に患者を来院させたらよいかわかりやすくするために付録4を添付した.
 急性症状を伴った外傷歯の患者が来院した場合に,本書が歯科医にとって最善の治療を行うのにお役に立ち,患者,術者ともども,初診時のストレスや心配が少しでも軽くなることができれば,筆者として満足である.
 口のなかの外傷に関する長期間に及ぶ治療の効果や,複雑な治癒過程に関する病理学的な説明,そして,外傷による歯髄や歯周靭帯に対する生物学的な影響に関して,詳しく知りたい方は,私の書いた教科書である“Traumatic Injuries to the Teeth(2)を読んで,理解していただければ幸いである.
 最後に,歯冠と歯冠-歯根破折の章でたいへんご協力いただいた,スウェーデン,ストックホルムのイーストマン・デンタル・インスティチュートの小児歯科学教室のMiomir Cvek氏とBarbro Malmgren氏に感謝の意を表します.また,さらに,コペンハーゲンのロイヤル・デンタル・カレッジの口腔-顎顔面外科と小児歯科学教室の諸先生方にも心より感謝いたします.
 Jens O.Andreasen Frances M.Andreasen コペンハーゲンにて,1990年

日本語版に寄せて

 私達の著書“Essentials of Traumatic Injuries to the Teeth”の翻訳をしてくださった松本教授はじめ,皆様に心より感謝いたしております.
 本書の出版に際し,日本の読者の皆様方にご挨拶を申しあげます.
 外傷歯に関する問題は,一国の問題ではなく,国際的な問題であり,この問題を解決するためにInternational Association of Dental Trauma Reserch(IADT:国際外傷歯学会)が設立されました.この学会は,歯の外傷に関する原因,治療法,そして予防法などについての研究発表の場であり,積極的に,これらの問題を討論することを目的としています.外傷歯に興味ある先生方の国際外傷歯学会(IADT)への入会をお勧めいたします.入会者に対しては,外傷歯に関する論文が掲載されている国際雑誌Endodontics and Dental Traumatologyの割引がございます.
 本書が,日本における外傷歯の治療の発展にお役に立つことができますように切望しております.
 Jens O.Andreasen,D.D.S.Frances M.Andreasen,D.D.S. 15 April,1991
序文…7

1章 外傷を受けた患者の診査…9
2章 歯冠破折…21
3章 歯冠-歯根破折…47
4章 歯根破折…63
5章 振盪と亜脱臼…77
6章 挺出と側方脱臼…85
7章 埋 入…103
8章 脱落性外傷…113
9章 歯槽突起骨折…133
10章 乳歯列の外傷…141

付録1 歯の外傷のための救急記録…155
付録2 受傷時と経過観察時のための臨床検診表…159
付録3 各種の脱臼様式に認められる臨床およびX線所見…160
付録4 外傷処置と経過観察方法のまとめ,および外傷様式別の定期検診スケジュール…161

参考文献 …163
索引…166