やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

シリーズVer.2発行にあたって
 本書は,日本摂食嚥下リハビリテーション学会インターネット学習システム(eラーニング)の参考書である.平成27年度のeラーニング改訂に合わせて本書も改訂されることとなり,ここに上梓されるに至った.これまで同学会認定制度の確立,eラーニングの立ち上げ,そして認定事業の継続と発展に携わってこられた関係各位に深く敬意を表する次第である.
 いうまでもなく摂食嚥下リハビリテーションは多職種協同の営みであり,疾患の急性期から生活期までの,すべての時期で重要な役割を演じるだけでなく,予防的な対応を含めると,ほとんどすべての国民に関係するといっても過言ではない.学会発足から20年が過ぎ,摂食嚥下リハビリテーションは専門性を深化させてきた.その多様で広汎な知識と技術のなかから,共通の基本的な医療関連知識を明示することが,専門領域の社会的責任として求められることになる.その意味で,誰でもが入手できる本書の意義は大きい.
 内容は,摂食嚥下の基本的理解,摂食嚥下障害の評価,同障害へのさまざまな対応等が網羅されており,それぞれの領域の第一人者により平易に述べられている.本書の基本的知識は日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士を目指す方はもちろん,すべての保健・医療・福祉関係者に有用であると思われる.より多くの方々が本書を参考書として摂食嚥下リハビリテーションの基本を学び,日々の実践に活かして下さることを願っている. 平成27年6月
 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
 教育委員会委員長 出江紳一


シリーズ刊行に寄せて(Ver.1収載)
 日本摂食・嚥下リハビリテーション学会は,摂食・嚥下リハビリテーションにかかわる多職種が集まり,患者ニーズに対し協力的,効率的,合目的に対応を考えるというtransdisciplinaryな対応を可能とすべく,1996年9月に発足した.以来,本分野の研究,発展,普及に努めており,現在では会員数が6,000名を超えている.また,2009年8月には一般社団法人となり,急速に高まる社会的ニーズに応えるべく法人格を取得し,アイデンティファイされることとなった.
 本学会は,この法人格取得と同時に認定士制度を設けた.その目的は,認定士制度規約の第1条に記されているが,「『日本摂食・嚥下リハビリテーション学会認定士』制度は,日本摂食・嚥下リハビリテーション学会総則第2条『摂食・嚥下リハビリテーションの啓発と普及,その安全で効果的な実施のために貢献する』を積極的に具現化するために,摂食・嚥下リハビリテーションの基本的な事項と必要な技能を明確化し,それらの知識を習得した本学会の会員を認定することを目的とする」である.本領域の活動は,多職種が担う.そのため,摂食・嚥下リハビリテーションを行うに当たって,当該職種が知っておかなくてはならない共通の知識,そして各職種の適応と制限に関する知識を明確化しておくことは,学会の重要な責務であろう.また,そのような知識を有するものを学会が認定し,その知識レベルを保証することは大変意義深い.
 この知識は,われわれの活動の基礎になるものである.そして,その学習方法の一つが,本書の骨子となるeラーニングにあたる.この概要は,インターネット上で体系的に6分野78項目に分類された最重要事項を供覧することで,上記のような共通知識の整理をはかるものである.そして,この課程を修めることが,認定士受験資格の重要な要件の一つとなる.
 さらに,認定士の展開としては,認定を得たものがそれぞれの専門職種において,より専門的な知識や技能を修得できるような構造が望ましいと考えられる.例えば,この認定士資格をもつものが,高度な実習を要するセミナーに参加ができるなどである.また,関連する他の学会の学会員が,この認定士の水準を十分に備えていると認められるような場合は,申請により認定士の資格を与えるなど,関連学会と発展的な関係を築く基盤となる.
 今回,ここに上記のようなeラーニング各分野の学習内容をもとに,書籍を刊行することになった.それは,eラーニング受講者の学習の便をはかるとともに,より多くの人に必要最低限の共通知識を知ってもらい,本領域がいっそう伝播することを企図したことによる.
 そうして学習基盤を整理することで関係職種の多くの方が本学会へ参加できるようになり,それによって摂食・嚥下障害を有する患者の幸せに少しでも寄与することができれば,望外の喜びである.
 2010年8月
 一般社団法人日本摂食・嚥下リハビリテーション学会
 理事長 才藤栄一


緒言(Ver.1収載)
 本書は,日本摂食・嚥下リハビリテーション学会インターネット学習システム(eラーニング)の参考書である.eラーニングによる学習を支援することを目的とし,eラーニングコンテンツを踏襲した内容で構成されている.内容は豊富で網羅的なので,日本摂食・嚥下リハビリテーション学会会員以外の方々にもおおいに参考にしていただけるものになっている.
 eラーニングは,2010年7月16日に開講した.その構想は2007年に認定制を計画することが決まり,認定士としてふさわしい知識をどのように会員に伝達するかを検討する過程で始まった.当初は研修会を日本各所で開催し,これらを受講した会員が認定士試験受験資格を得るという従来型の案もあったが,日本摂食・嚥下リハビリテーション学会会員の職種は,非常に広範囲にわたるので,共通の基本的な医療関連知識を担保する必要があった.たとえば,医療の総論的な内容やリスク管理の知識は教育環境にいる人たちにはあまり馴染みがないかもしれないが,このような知識は学会認定士にとっては必須事項になるべきである.
 このような広い内容を含めると,およそ20時間に相当するセミナーが必要になる.これを研修会のスタイルで行うには,物理的,経済的に困難だった.また,日本摂食・嚥下リハビリテーション学会会員は,少人数職場に従事しているため気軽に学会や研修会に参加しにくい環境にあることも多い.このような背景から,当時の資格制度準備委員会(現認定委員会)は,認定士試験受験資格としてのeラーニング構想を理事会に提案し,理事会において歓迎をもって受理され,学会の最重点課題の一つになった.
 2008年の第14回学術大会では,総会,シンポジウムでこの構想を発表し,理解をいただいた.その後,2年の歳月を経て,何とか準備が整い,2010年7月,開講に至った.
 コンテンツの作成は,日本摂食・嚥下リハビリテーション学会認定士のうち資格制度準備委員会で推薦し,理事会で承認された各分野の専門家76名と認定委員20名が分業してあたった.内容に関しては,コンテンツの作成者と認定委員との間で調整を行った.この作業は困難なこともあったが,各コンテンツは工夫された.また,最初の構想では必要最低限の知識を中心に構成される予定だったが,この域を大きく超えて,非常に充実した内容になった.
 実際のeラーニングをご覧いただくとわかるが,1コンテンツ10から15枚程度のスライドに,解説文が付随し,それを読み進め,最後に確認問題をして1コンテンツが終了するという構成になっている.動画なども多用してあり非常にわかりやすい内容である.しかし,一度学習が終了したあとに,再度確認したいということもあるだろうし,もう少し詳しい解説がほしいということもあるだろう.
 本書はこのような要望に対応することを目的に出版された.より多くの方に,有効に活用していただけることを願っている.
 2010年8月
 一般社団法人日本摂食・嚥下リハビリテーション学会
 認定委員会委員長 馬場 尊
 シリーズVer.2発行にあたって シリーズ刊行に寄せて(Ver.1) 緒言(Ver.1)
 本書をお読みになる前に eラーニング受講方法
§4 リスク回避
 13 リスク回避のための基礎知識・環境整備(金城利雄)
   Chapter 1 はじめに
   Chapter 2 リスク発生要因
  1:リスク回避に向けた対策─個体要因
   Chapter 3 意識レベル
   Chapter 4 摂食嚥下障害のレベル
   Chapter 5 呼吸状態
   Chapter 6 咳反射
   Chapter 7 高次脳機能障害のレベル
   Chapter 8 栄養状態・脱水
   Chapter 9 口腔内の状態
  2:リスク回避に向けた対策─環境要因
   Chapter 10 食物形態
   Chapter 11 摂食姿勢
   Chapter 12 食事介助方法
   Chapter 13 代替栄養法(経管栄養法,中心静脈栄養法)
   Chapter 14 薬剤の副作用
  3:リスク発生時の対応
   Chapter 15 リスク発生時の対応─経口摂取開始時の留意点
 14 誤嚥への対応法:体位ドレナージ・スクイージング・ハッフィング(加賀谷 斉)
   Chapter 1 はじめに
   Chapter 2 誤嚥時に用いる手技
   Chapter 3 体位ドレナージ
   Chapter 4 スクイージング
   Chapter 5 胸郭の動き
   Chapter 6 上葉スクイージング
   Chapter 7 中葉,舌区スクイージング
   Chapter 8 下葉スクイージング
   Chapter 9 肺底区スクイージング
   Chapter 10 咳とハフィング
   Chapter 11 強制呼出手技
   Chapter 12 誤嚥の左右差
   Chapter 13 誤嚥時のSpO2(経皮的酸素飽和度)
 15 窒息・嘔吐への対処法(神津 玲)
   Chapter 1 窒息とは
   Chapter 2 窒息の見分け方と対応の概略
   Chapter 3 窒息の対処法
   Chapter 4 ハイムリック法と背部叩打法
   Chapter 5 嘔吐時の対処法
 16 リスク回避に有用な機器と使い方(高橋博達)
   Chapter 1 リスク回避に有用な機器
   Chapter 2 体温測定の意義
   Chapter 3 体温の変動因子
   Chapter 4 体温計の種類と原理
   Chapter 5 体温の種類,計測部位と方法
   Chapter 6 聴診器の役割
   Chapter 7 聴診器の構造
   Chapter 8 聴診器の使用法
   Chapter 9 血圧・脈拍測定の意義
   Chapter 10 血圧測定方法の種類
   Chapter 11 自動血圧計の正しい測り方と注意点
   Chapter 12 パルスオキシメーターの有用性
   Chapter 13 SpO2とPaO2(動脈酸素分圧)と正常値
   Chapter 14 パルスオキシメーターの原理
   Chapter 15 SpO2測定の実際と注意点
   Chapter 16 吸引の目的と種類
   Chapter 17 吸引の部位・経路と注意点
   Chapter 18 吸引の準備と実施(1)
   Chapter 19 吸引の実施(2)と合併症
§5 感染対策
 17 感染防御総論(市村久美子)
   Chapter 1 感染の定義と感染症
   Chapter 2 感染の成立
   Chapter 3 感染の輪
   Chapter 4 体内のおもな常在細菌叢
   Chapter 5 口腔内バイオフィルム
   Chapter 6 感染経路と病原微生物
   Chapter 7 スタンダード・プリコーション(標準予防策)
   Chapter 8 感染予防の3原則
   Chapter 9 摂食嚥下障害患者と感染
   Chapter 10 感染予防の具体的方法
   Chapter 11 おもな消毒薬の使用上の注意
 18 食中毒の防止(石野智子)
   Chapter 1 摂食嚥下リハビリテーションにおける食中毒予防
   Chapter 2 食中毒予防のマニュアル
   Chapter 3 大量調理施設衛生管理マニュアル
    参考 時間と温度管理(T─T管理)
   Chapter 4 食中毒の病原菌一覧
   Chapter 5 食中毒予防の3原則
§6 関連法規・制度
 19 訓練実施に関連する医療関係法規(鎌倉やよい)
   Chapter 1 はじめに
   Chapter 2 医師以外の者による医業の禁止
   Chapter 3 歯科医師以外の者による歯科医業の禁止
   Chapter 4 看護師・准看護師の定義
   Chapter 5 看護師・准看護師は医師または歯科医師の指示がある場合に限り診療の補助を行うことができる
   Chapter 6 言語聴覚士は保健師助産師看護師法第31・32条の規定にかかわらず診療の補助として嚥下訓練を業とすることができる
   Chapter 7 理学療法士および作業療法士の定義
   Chapter 8 理学療法士または作業療法士が行う診療の補助
   Chapter 9 言語聴覚士,理学療法士および作業療法士は,診療の補助として痰の吸引を実施できる
   Chapter 10 歯科衛生士の定義と業務
   Chapter 11 歯科衛生士は歯科医師の指示がある場合に限り歯科診療の補助を実施することができる
   Chapter 12 歯科衛生士の業務に関連した罰則
   Chapter 13 医業・歯科医業に関する解釈
   Chapter 14 栄養士および管理栄養士の定義
   Chapter 15 管理栄養士は医師の指導のもとに傷病者に対する栄養指導を行うことができる
   Chapter 16 嚥下訓練が摂食機能療法として算定される専門職
   Chapter 17 まとめ
 20 摂食・嚥下リハビリテーションにかかわる診療報酬(小野木啓子)
   Chapter 1 診療報酬とは
   Chapter 2 リハビリテーション医療
   Chapter 3 疾患別リハビリテーション料
   Chapter 4 別表第九の八算定日数の上限の除外対象患者
   Chapter 5 脳血管疾患等リハビリテーション料の施設基準
   Chapter 6 脳血管疾患等リハビリテーション料の対象となる患者
   Chapter 7 障害児(者)リハビリテーション料
   Chapter 8 摂食機能療法
   Chapter 9 経口摂取回復促進加算(185点)
   Chapter 10 摂食嚥下リハビリテーションにかかわる検査
   Chapter 11 外科的治療
   Chapter 12 栄養
   Chapter 13 歯科訪問診療料
   Chapter 14 周術期における口腔機能の管理
   Chapter 15 在宅および障害者歯科医療について
   Chapter 16 舌接触補助床にかかわる技術料
   Chapter 17 歯科口腔リハビリテーション料1
 21 摂食・嚥下リハビリテーションにかかわる介護報酬(植田耕一郎)
   Chapter 1 はじめに
   Chapter 2 要介護度別認定者数の推移
   Chapter 3 予防重視型システムの全体像
   Chapter 4 地域支援事業と予防給付のサービス
   Chapter 5 地域支援事業における生活機能検診で使用される基本チェックリスト
   Chapter 6 口腔機能向上支援サービス,栄養改善サービスの柱
   Chapter 7 地域支援事業の一場面
   Chapter 8 口腔機能向上加算(150単位/月)
   Chapter 9 口腔機能向上支援サービスの実施
   Chapter 10 栄養改善加算(150単位/月)
   Chapter 11 栄養改善サービスの場
   Chapter 12 経口移行加算(28単位/日)
   Chapter 13 経口維持加算(I:400単位/月,II:100単位/月)
   Chapter 14 口腔衛生管理加算(110単位/月)
   Chapter 15 口腔衛生管理体制加算(30単位/月)
   Chapter 16 栄養マネジメント加算(14単位/日)

 索引