やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

監修者のことば
 現在の医療は,チームアプローチの時代といわれています.医科では,医師,看護師,薬剤師,放射線技師といった従来から働く職種に加えて,理学療法士,言語聴覚士,作業療法士,栄養士等々,多くの職種が協力し合うことで,患者さんにも満足を与え,効率よく正確な治療を行っています.
 これは歯科医療でも同じなのですが,認定された職種としては,いまも歯科医師,歯科衛生士,歯科技工士という3つのジャンルしかありません.けれども,日常臨床では,プロフェッションとしての受付,そして滅菌や消毒,器材管理,チェアサイドアシスタントなどを担当する存在のサポートなしには,毎日が機能しないというのが実状です.
 けれども,そうした人を育てる仕組みに乏しく,また歯科医院は,多くは10人以下のスタッフで構成されているため,「新人教育」のノウハウやツールを十分にもっていないということも,残念ながら事実です.そのため,せっかく歯科医院で働くことを決めていただいた方々に,一緒に楽しく仕事をしてほしいと思うのですが,早々に離職してしまう方々も少なくありません.
 私自身もそんな経験を何度もして,辞める原因は何かと考えました.聞いてもみました.
 そこでわかったことは,「言われたことがわからない」「器材が多すぎて理解できない」等々,歯科医療は特殊で難解な仕事だと思わせてしまう条件があり,「医院の仕事の流れに乗れない」「働き方がわからない」という疎外感が大きく影響しているということでした.
 歯科医院の仕事に乗って順調に走りだすには,仕事の内容が理解できなければなりません.そうでないとやる気も失せてしまいます.仕事の内容がわかってくれば,その治療に使われる材料や薬品の名前が覚えられ,その取り扱いも理解して行えるようになり,評価もされて,どんどん仕事が楽しくなります.仕事が難しいという理由では辞める必要がなくなります.
 この本は,全く歯科の知識がなかった当院のスタッフである対島ゆかが,自発的に作った「仕事手帳」が原本です.彼女は,自分がわからないことをこつこつと調べたり聞いたりしながら,得意のイラストで説明した「アシストマニュアル」を作り,新しく入ってきた人にコピーして渡してくれていたのです.
 実は,かなりあとまで,院長である私はそのノートの存在を知りませんでしたが,思い返してみると,当院のスタッフの定着率は急上昇していたのです.
 それぞれの医院で,器材や治療の流れの詳細は異なるかもしれませんが,本書を仲立ちにすることで,先輩スタッフも説明がしやすくなることでしょうし,新人の方も質問しやすくなって,「どこから学べばよいか」ということへの不安が薄れることと思います.
 現場のニーズに基づいてまとめられたこの本は,すこしでも早く医院の仕事を理解し,医院の一員となって楽しく働いていただくためにも,そして医院の発展のためにも,きっと役立つことと思います.
 2009年秋
 井荻歯科医院院長 高橋英登
第1章 歯科医院ってどんなところ?
 (1)歯科医院で働く
  はじめて歯科医院で働くみなさんへ
 (2)歯科医院の人々
  歯科医師のほかに,どんな人々が働いているのでしょう
 (3)院内の探険をしてみよう
  どんなスタッフが,どこで仕事をしているのか見てみましょう
 (4)歯科医院の1日
  1日の流れをウォッチングしてみましょう
 (5)患者さんの流れ
  患者さんの流れは大まかに3つに分けられます
 (6)身だしなみとあいさつが大事
  清潔でさわやかに
   ・身だしなみチェック表
   ・あいさつをきちんと
 (7)しぃ〜(音)
  歯科医院での音への配慮
第2章 歯科医院のナゾ
 (1)まずはユニットまわりを観察しよう
  実際にさわってたしかめましょう
   ・各部の特徴と使い方を見てみよう
 (2)用語のナゾ
  歯科って,聞いたことのない言葉のオンパレード
   ・歯式を覚えよう
   ・歯の名称を覚えよう
   ・歯の内部の構造
   ・歯科でよく使われる用語
 (3)X線写真のナゾ
  X線写真って何?
   ・X線写真の種類と特徴
   ・実際にX線写真を見てみよう
 (4)用紙のナゾ
  いろいろな用紙を見てみましょう
   ・受付にある用紙
   ・歯周病検査の用紙
   ・技工関係の用紙
 (5)清潔と不潔のナゾ
  清潔・不潔の意味は?
 (6)滅菌と消毒のナゾ
  なぜ滅菌・消毒をするの?
   ・ユニバーサルプリコーション
   ・オートクレーブでの滅菌
   ・薬液消毒
 (7)滅菌パックの取り扱い
  滅菌パックとは?
   ・滅菌パックの種類
   ・パッキングの仕方
 (8)覚えることがたくさんあって大変だけれど
  こんな方法で頑張りましょう
   ・できるようになったことを書いてみよう!
第3章 器材の取り扱いを覚えよう
 (1)基本セットの準備
  最初に覚えるもの
   ・基本セットとは?
 (2)器材の名前と使用目的を覚えよう
  器材の特徴を見てみましょう
   ・チェアサイド用器材
   ・口腔内清掃・検査用器材
   ・補綴関連器材
   ・切削・研磨用器材
   ・プライヤー類
   ・口腔内写真撮影用器材
   ・外科用器材
 (3)患者さんの誘導と診療準備
  患者さんと話してみよう
   ・患者さんの誘導
 (4)患者さんの送り出しとユニットのあとかたづけ
  何をしたらよいのでしょう
   ・あとかたづけの実際
 (5)使用後の器具の取り扱い
  使用後の器具はどうするのでしょう?
   ・廃棄するもの
   ・再利用するもの
第4章 チェアサイドアシスタント入門
 (1)どこから覚える?
  チェアサイドアシスタント・ステップアップ
 (2)ライト・バキューム・エア
  まず原則を理解して,臨機応変に
   ・ライティングの仕方
   ・バキュームの仕方
   ・スリーウェイシリンジの使い方
 (3)麻酔
  痛くない治療のためには麻酔が必要
 (4)根管治療
  根管治療とは?
   ・根管治療の流れ
 (5)窩洞形成
  充填や補綴をするためにはまずこれが必要
   ・形成の流れ
 (6)CR充填
  光を当てて硬化させる
   ・CR充填の流れ
 (7)印象採得
  印象材の種類により準備も異なる
   ・アルジネート印象
   ・シリコーン印象
 (8)補綴物の装着(セット)
  これで治療は一応終了です
   ・セメントの種類
   ・テンポラリークラウンと仮着
   ・クラウン装着の流れ
 (9)治療の流れを理解しよう
  長期間かかる治療もあります
   ・歯周治療の流れ
   ・義歯治療の流れ
   ・インプラント治療の流れ