やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 筆者らは月刊「歯科技工」2015年1月号〜2017年6月号において計25回にわたり,「全部床義歯臨床のビブリオグラフィー」というタイトルで連載記事を執筆した.同連載では,全部床義歯の教科書として,おそらく世界で最も有名,かつ歴史の長い『Prosthodontic Treatment for Edentulous Patients』(Mosby社,以下PTEP)シリーズ全13冊について,記載されている臨床方法やその改訂の内容について詳細に紹介し,多くの反響を得た.しかしながら,PTEPはあくまでも一連の流れを汲む一つのシリーズであり,全部床義歯臨床の歴史の中では,北米のアカデミアを主体とした臨床教育という,一つの側面に過ぎないといえる.より深く,全部床義歯臨床の歴史を考察するためには,洋邦問わず多くの臨床家の著書を紐解く必要がある.そこで,我々は月刊「歯界展望」2019年4月号〜2020年9月号にわたる合計18回の連載「全部床義歯臨床のビブリオグラフィ2」において,全部床義歯臨床に関する世界中の名著を紹介した.そして,より多くの義歯臨床家にこの有益な情報を伝えるべく,有り難くも一冊に編纂する機会を得た.
 本書に記した数々の過去の叡智が,義歯臨床に従事する臨床家を通じて,少しでも多くの無歯顎患者に廻し向けられることを願っている.
 医療法人社団ハイライフ 大阪梅田歯科医院 院長
 大阪大学大学院歯学研究科 顎口腔機能再建学講座 臨床准教授
 松田謙一


 前著『全部床義歯臨床のビブリオグラフィー』においては,北米を中心に教育に利用されてきた一つの教科書の歴史的変遷の分析から,全部床義歯を用いた欠損補綴治療の理論と臨床ならびにその背景を紐解いた.何が消え,何が残り,何が付け加えられたかを知ることは,常に変化しない臨床のベースを見いだすことに有効であったように思う.
 そこで本書においては,我が国を含めたより多くの著作を対象として,臨床上の共通点が見いだせないか探ってみた.その中には我々が所属してる大阪大学の教室の大先輩である河合庄治郎先生の著書も含まれている.本書で取り上げた書籍には臨床例を背景に生み出された多様な臨床手技やアプローチが紹介されているのであるが,その多くは現在でも十分活用できる.
 エビデンスの根拠としては軽視されてきた感がある名だたる成書たちには,現在の臨床家や研究者が工夫して解明してゆくべき課題が数多く見いだせる.全部床義歯による補綴治療をより科学的で予知性の高いものとするためには,デジタルデンチャーをプラットフォームとして効果的に利用しながら,課題の答えを出してゆく必要があるだろう.
 大阪大学大学院歯学研究科 名誉教授・招聘教授
 医療法人 サラヤ健育会 理事長
 前田芳信
 はじめに
総論
第1章 『The Scientific Adaptation of Artificial Dentures』(C.H.Land,1885)を読み解く
第2章 『The Dental Digest,Contributed Articles』(Alfred Gysi,1913〜1915)を読み解く
第3章 『Principles of Full Denture Prosthesis』(E.Wilfred Fish,1933)を読み解く
第4章 『Principles and Techniques for Complete Denture Construction』(Victor H.Sears,1949)を読み解く
第5章 『Full Dentures』(Chester Landy,1958)を読み解く
第6章 『New Teeth for Old』(Victor H.Sears,1959)を読み解く
第7章 『総義歯学』(河合庄治郎,1960)を読み解く
第8章 『An Atlas of Complete Denture Prosthesis』(Jack M.Buchman,1970)を読み解く
第9章 『Full Dentures―The Treatment of the Edentulous Patient.』(Alan Mack,1971)を読み解く
第10章 『The Neutral Zone in Complete Dentures―Principles and technique』(Victor E.Beresin,1973)を読み解く
第11章 『総義歯学―理論編』第3版(沖野節三,1973)を読み解く
第12章 『Prosthetic Treatment of the Edentulous Patient』初版(R.M.Basker,1975)を読み解く
第13章 『Designing Complete Dentures』初版(David M.Watt,A.R.MacGregor,1976)を読み解く
第14章 『河邊総義歯の臨床』(河邊清治,1989)を読み解く