やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 局所麻酔,全身麻酔―麻酔学は裾の広い学問であるといえる.
 キシロカインが局所麻酔薬として,発見されてから,局所麻酔の適応がより広まった.処置,手術など,どんな症例に対しても期待できる効果があり,広く応用できるようになった.
 無痛であることが麻酔の基本条件であると同時に,患者の不安,緊張を取り除き,安全に,快適な状態で施行することが求められている.
 今日の超高齢社会では,生活習慣病も増加し,さまざまな全身疾患を合併したいわゆるリスクファクターをもつ歯科患者が増えてきて,治療中のアクシデントに遭遇することが多々ある.
 いずれにしても,基本をおろそかにしてはならない.リスクを低減させ,いかに疼痛コントロールを行うか,局所麻酔の知識(サイエンス),実際的な手技(アート)をしっかりと習得することが肝要である.
 本書はあくまでも,一開業歯科医の立場から,自身の麻酔実践症例をもとに書きとめていったものである.また,リスク患者への局所麻酔の留意点は,鹿児島大学の杉村光隆先生にご執筆をお願いした.局所麻酔が安心,安全,快適に施行でき,かつ歯科治療にともなう疼痛の軽減対策に目を向けられるように,明日からの診療活動の一助となれば幸いである.
 2021年8月
 門前弘美
Chapter 1 局所麻酔の基本的留意点
 (門前弘美)
 I 麻酔の手技が患者の痛みを左右する
  1 麻酔の手技が問われる
 II 局所麻酔を有効に行うには
  1 問診(医療面接)事項を確認する
  2 治療上必要な局所麻酔の治療計画
  3 知っておきたい刺入点とその周辺組織
  4 麻酔手技の留意点
 III 痛みの少ない注射の工夫
  1 少し痛みが伴うことを説明する
  2 不安,恐怖心の強い患者には
  3 麻酔時の痛みとその軽減には
  4 不安,恐怖心の強い患者には
  5 局所麻酔薬を体温と同程度に温める
  6 痛点の少ない部位に第一刺入点を決める
  7 麻酔注射器は患者にみせない工夫をする
  8 細い針を使う
  9 針の刺入回数は少なく,注入圧はゆっくり
  10 針,注射器の挿入方向などを確認する
  11 電動注射器を使う
  12 麻酔効果をみる
 IV 局所麻酔に必要な器具および薬の種類
  1 歯科用局所麻酔注射器の種類
  2 ディスポーザブルニードル(カートリッジ注射針)
  3 表面麻酔薬
  4 歯科用局所麻酔薬
  5 添付文書から押さえる局所麻酔薬の重要事項
  6 添付文書から押さえる局所麻酔薬の特性
 V 局所麻酔の痛みと局所麻酔薬の作用
  1 局所麻酔の痛み
  2 局所麻酔薬の作用機序
Chapter 2 局所麻酔の進め方
 (門前弘美)
 I 《歯髄》に麻酔を奏功させるための基本手技
 II 各部位における浸潤麻酔法の実際
  1 上顎前歯部の抜髄症例
  2 上顎小臼歯部の抜髄症例
  3 上顎大臼歯部の抜髄症例
  4 下顎前歯部の抜髄症例
  5 下顎小臼歯部の抜髄症例
  6 下顎大臼歯部の抜髄症例
 III 伝達麻酔法
  1 下顎孔の解剖学的部位を知る
  2 下顎孔における刺入点確保(口内法)
  3 近位伝達麻酔法
  4 Gow-Gates下顎神経ブロック法
  5 局所的合併症
  6 アドレナリン投与量の軽減
  コラム「星状神経節ブロック」
Chapter 3 笑気吸入鎮静法
 (門前弘美)
  1 笑気吸入鎮静法の概念
  2 笑気吸入鎮静法の実施のねらい
  3 吸入過程
  4 鎮静器の種類
  5 吸入鎮静法の目的
  6 笑気吸入鎮静法の流れ
  7 笑気吸入鎮静法の実施症例
  8 参考 笑気吸入鎮静法に関連する事例
Chapter 4 ショックが起こったら何をやるか
 (門前弘美)
  1 局所麻酔における容態急変時の対応
  2 神経性ショック反応への対応
  3 アナフィラキシー反応への対応
  4 内科基礎疾患患者における容態急変時の対応
  5 デンタルチェアで起きる心停止の対応
  6 酸素(O2)をいち早く吸入させる
  7 救急薬品の準備
  8 ショック時の救急薬品の投与
  9 モニターとして,何を選べばよいか
  10 診療中に起こった症例
  11 おわりに
  コラム「一次救命処置(BLS)はAが先か,Cが先か」
Chapter 5 リスク患者への局所麻酔の留意点
 (杉村光隆)
 I 概 要
 II 医療面接
 III モニタリング
  1 意識
  2 血圧・脈拍数
  3 呼吸・経皮的動脈血酸素飽和度
  4 心電図
 IV 術中異常高血圧への対応
  1 高血圧患者への局所麻酔
  2 虚血性心疾患患者への局所麻酔
 V 術中管理上の臨床的考察
  1 常用薬の服用確認
  2 周術期ストレスへの配慮
  3 高血圧分類に基づく対応
  4 低血圧への配慮
  5 水平診療と呼吸生理
  6 SpO2の正しい理解と活用
  7 血管収縮薬と常用薬との相互作用
  8 急変時の対応
 VI まとめ
Chapter 6 麻酔の歴史
 (門前弘美)
 I 麻酔の発見と発展
  コラム「麻酔が人類に与えたもの」
 II キシロカインの開発は歯科医師の力が大きい
  コラム「新しいスウェーデンの麻酔薬」
  コラム「理論實際 齒科麻醉法」

 索引