やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 本書を執筆しだしたのは,2020年7月,新型コロナウイルスの第一波が少し落ち着いてきた頃である.一旦中止となっていたハンズオンセミナーも再開されてきた頃に,この本の執筆の話を頂いた.
 ミラーを用いて診療するというのは一般的なことに思えるが,多くの歯科医師,歯科衛生士は,大学などの教育課程で,ミラーの使い方をきちんと習っていないという場合が多い.それにより,多くの歯科医療従事者は適切なミラーの使い方をわからないまま治療を始め,「見えているつもりでも,実は見えていないところが多い」というのが現状ではなかろうか?
 よく見かけるのが,傷だらけであったり,セメントがついているミラーである.これで何が見えるのか? そのような状態のミラーがある医院は,ミラーを使えていないとしか思えない.口腔内にはミラーを使わないと見えない部分がたくさんあり,それらを放置したまま治療を行うことは,齲蝕や歯石の取り残し,誤切削などにつながり,結果,治療の質が低下する.
 近年マイクロスコープの普及が進み,マイクロスコープを使うならミラーを使って診療しないと! と,今までミラーをほとんど使わず診療してきた歯科医師や,歯科衛生士がミラーテクニックに苦戦し,マイクロスコープを使うのをあきらめてしまうという話をよく聞く.筆者のマイクロスコープのセミナー受講生も,ミラーの使い方に苦戦することが多い.そのため,セミナー時にミラーの使用方法を中心に解説することも多く,最初はまったく使えなかった受講生が,セミナー終了時にいろいろな部位を見ることができるようになる様をよく目にする.
 かくいう筆者も,大学でミラーの使い方を正しく習った覚えはなく,さまざまな先生のミラーの使用方法を見聞きし,現在に至る.そして,2020年10月香川県御開業の磯崎裕騎先生のプライベートセミナーでpdスタイルのミラーユースについて教わり,さらにミラーの重要性を認識した.研修医のとき,指導医にいわれ,初めてマイクロスコープで下顎大臼歯の根管治療をした時の手の動かなさは,今も覚えている.その後もなかなかミラーをうまく使えない時期があった.筆者もまだまだ修行中の身ではあるが,本書は,そんな初めてミラーを使いだす歯科医師や歯科衛生士,マイクロスコープでミラーは使っているけれど,「うまく見えない…」,「本当にこれで合っているのかな」,「もっとちゃんと見るためにはどうすればよいのだろう」と悩んでいる方のために,ステップごとに整理した内容とした.読者の方の診療の一助となれば幸いである.
 2021年6月
 辻本デンタルオフィス 辻本真規
STEP 1 ミラービューを始める前の基礎知識
 1 ポジショニングの基本(自然に治療できる位置関係を自分の体で感じてみよう)
  はじめに
   理想的なポジションとは?
   立位から水平診療へ
  pd診療システム
   pd診療システムについて詳しく知りたい場合は
   pd診療システムの考え方
   術者の姿勢について考える
 2 マイクロスコープの違いと患者の上下的ポジショニングの違い
  肉眼で診療する場合
   術者と患者の理想的な位置関係
  マイクロスコープを使用する場合
   機種とオプションで異なるY軸,Z軸の長さに注意
   理想的な姿勢とマイクロスコープの関係
   pd診療システムの許容範囲
 3 マイクロスコープと肉眼,ルーペでのミラービューの違い(軸の違い)
  ルーペのミラービュー
  肉眼・ルーペとの違い
 4 ミラーの種類と工夫,持ち方
  チェッキングビューとワーキングビュー
   それぞれの目的
   “本当の”ワーキングビュー
  デンタルミラーの種類
   フロントサーフェイスミラー
  ミラーの特徴
   ミラーへの工夫
   ミラーの大きさの違い
  ミラーの持ち方
 5 ミラーでどのように見えるか(上下の違い)
  下顎のミラービューには要注意
 6 ミラービューの基本(View 1〜4)
  基準となる5面
  pd診療システムの10の見方
   システマティックビュー
   View 1〜4,10〜40の位置関係
  pd診療システム時のミラーの持ち方
 7 ミラーはどう動かす?
  基準となる4面をマスターしよう
   よくある間違い
   View 1〜4
   練習するときは
 8 その位置でミラーは問題ない?(器具が入ると見えなくなるわけは……)
  歯とミラーの距離を意識しよう
 9 ヘッドローテーションと口角,頬粘膜の排除
  ヘッドローテーションの考え方
   マイクロスコープの移動とヘッドローテーション
   ヘッドローテーションによりフォーカスがずれた場合
  口角の排除
  頬粘膜の排除
 10 まずは練習してみよう!
  Step 1の練習をしてみよう!
STEP 2 ミラービューで見たいところをしっかり見よう
 1 ここを見てみよう!
  隣接面を見てみよう!
  ここを見てみよう!
   上顎前歯治療時の咬合平面の角度
 2 それ本当に見えている?(見えているようで見えていないそのわけは……)
  見えているようで見えていない
  見たいところを見るために
 3 左手の使い方だけでなく,右手も考えよう(正しい姿勢で治療できる持ち方は?)
  臨床での実際
   正しい器具の持ち方
   pd診療システムでのポジション決定順位
 4 腕,指先をどう動かす?
  下顎左側治療時の姿勢
   自然な姿勢と動かしやすい指先の動作
   下顎ミラーテクニックでパニックにならないために
 5 よく見逃しがちなポイントをチェックしよう 見えているようで見えていないよく失敗するポイントをチェックしてみよう!
  7 7 遠心歯頸部を見てみよう
  6 6 近心口蓋側を見てみよう
  4 4 近心歯頸部を見てみよう
  上顎臼歯頬側を見てみよう
  6 6 近心を見てみよう
  7 7 遠心を見てみよう
  内側性窩洞の見逃しを防ぐには?
  内側性窩洞の例を見てみよう
STEP 3 システマティックビューで使おう
 1 スケーリング・SRPでどう見ていく?
  ミラーの位置と見方
  歯冠部から歯頸部までの見方
  下顎頬側のミラービュー
  近心隣接面のミラービュー
  下顎前歯部のミラービュー
 2 エンドではどうする?
  根管治療時のミラービュー
 3 内側性窩洞のインレー形成はどうする?
  コンポジットレジン修復との違い
   インレー窩洞形成のチェックポイント
   インレー窩洞形成の流れ
 4 外側性窩洞はどうする?
  支台歯形成のチェックポイント
  6 の支台歯形成を例に見てみよう
   隅角部の形成
   隣接面の形成
  隣接面で段差ができないようにするには?

 おわりに
 セミナー紹介
 索引