やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

推薦のことば
 佐野先生は私の歯科医院の院内歯科技工士として,10 年間一緒にチームで仕事をしてきた.歯科は医療職であり技術職でもあり,臨床家としてある一定レベルになるためには修業も必要である.彼は,最初のうちは模型作りや仮歯を担当し,診療後にクラウンなどのトレーニングをしていた.
 その時代の彼の言葉を今でも思い出すことがある.彼が2 年目のときに私が依頼した仕事は,矯正治療のために使用する臼歯のメタルクラウン.暫間的に使用するものなので,そこまで精度が求められるものはなかったが,彼は「私にとっては最終補綴物ですから」といって丁寧に仕上げ,自分の製作したクラウンが口腔内でどのように機能しているかを見届けていた.
 この修行の時期に,彼は本書の中核となる重要なことを学んだと思う.それは,「チームとして患者に貢献するためには何が必要なのか?」ということである.その答えを一言でいうと「基本」である.印象や咬合採得,適合や咬合におけるチームの役割を理解し,的確に実行する「基本」こそが,日常臨床を支えている.テクノロジーの進化は著しいが,この「基本」が,どれだけ臨床の現場で実行されているのだろうか? それを再確認するのが本書の一つの役割であろう.
 また,佐野先生は患者さんに寄り添ったコミュニケーションを行いつつ,そこに関わるスタッフもサポートしていった.歯科技工士という枠を超えた活動により,当院のチームアプローチの体制が整い,多くの医院改革が彼をリーダーとして進められていった.今,彼が進めているチェアサイドとラボサイドのマネジメントは,実際の現場での経験をもとに構築されてきたものである.
 彼を突き動かしているもの,そして私たちチームの根底にあるものは,「よりよい医療を提供したい」という「思い」であり,その成果は長期予後という形で現れる.患者さんのお口にある,生体の一部として機能している補綴を見るたび感謝の念を覚え,患者さんからも感謝の言葉が返ってくる.これをチームで共有することが本書のもう一つの役割となる.
 多くの仲間に恵まれ,歯科医師からの信頼も厚い佐野先生は,これからも歯科界の発展のために活躍してくれるであろう.本書の上梓はその始まりとして,今後のさらなる活躍を期待したい.
 壱番館デンタルオフィス 院長 武内久幸


はじめに
補綴再製ゼロプロジェクトについて
 「技工物の再製作が多い歯科医院があるんだよね.でも取引も多いし,改善していきたいんだけど,ラボからは強く言えないんだ.佐野さん,そういうのって解決できる?」
 これが,「補綴再製ゼロプロジェクト」のはじまりです.チェアサイドとラボサイドの課題を解決できれば,臨床はもっと良くなるし,良くしたい.
 そこで基本に立ち返り,チェアサイドとラボサイドの再製作に関わるポイントを整理し,研修という形で現場に伝えるようにしました.その結果,単純に再製率が下がるだけでなく,これまで以上にコミュニケーションが充実して臨床が円滑になりました.それは,歯科医師と歯科技工士の連携だけでなく,印象や模型を扱う歯科スタッフが歯科技工を知ることで臨床のつながりを知り,チームとして質の高い連携が展開されるようになったからです.
 2016 年4 月から2017 年3 月まで『歯界展望』で連載させていただいた内容は,この「補綴再製ゼロプロジェクト」をテーマにしたものですが,実は,私がこれまでに何十本と関わってきた文献のなかで一番反響がありました.おそらく,実際に臨床現場で起きているトラブルが,多くの人に当てはまったからなのではないかと思います.
 こうした経緯から今回,連載内容の書籍化という機会をいただきました.書籍化に際し,連載から大幅加筆し,索引をつけてより臨床に活用できる内容にしました.歯科医院のスタッフが読んでも意味合いがわかる,歯科医師が読んでも補綴臨床の役に立つ,もちろん歯科技工士が読んでも気づきがあると思います.
 ストーリーとイラストは,チェアサイドとラボサイドの成長物語です.気軽に読める内容ではありますが,24の物語のなかに,どれか一つでも自分たちの臨床に当てはまり,活用できるテクニックがあれば嬉しいです.
 本書を書き進めるうえで,資料提供をいただいた先生方に感謝いたします.私が臨床や研修に取り組むことができているのは先生方のご協力があってこそです.特に武内久幸先生には,私の臨床に対する知識と技術, その姿勢を作っていただきました. また, お互いに刺激しあえるD-Technicationsメンバー,可愛いイラストで本書を彩ってくれた妻・優子,連載からサポートいただいた医歯薬出版の担当編集者にお礼を申し上げます.
 多くの方々の協力によってできた本書が,臨床に携わる多くの方々に読まれ,歯科臨床の質を高める,チームの熱量を高めることにつながっていただければ幸いです.
 佐野隆一
 推薦のことば(武内久幸)
 はじめに
 著者略歴
 本書の読み方・使い方
 キャラクター紹介
 知りたいことがすぐわかる 項目別索引
I 適合 印象&模型編
 1 Chairside:効率を考えてまとめて石膏を注いでます―これって本当に効率的!?
  考えるポイント:アルジネート印象材の保管方法と寸法変化
 2 Laboside:イライラつのる再製作―その原因はどこにあるのだろう??
  考えるポイント:一眼レフカメラによる再製作の簡易検証
 3 Chairside:石膏に気泡を入れない裏技発見!―はたしてその効果は!?
  考えるポイント:模型精度に関わる石膏混水比と面荒れ
 4 Laboside:寒天アルジネートは精度が出ない?―その特性を把握する
  考えるポイント:印象材の特性を踏まえた技工作業とその実際
 5 Chairside:自費だからシリコーン印象―そのエビデンスはどこまで信用できる?
  考えるポイント:臨床例でみるシリコーン印象材の寸法変化
 6 Laboside:とりあえず2つ作って良い方をセットする―本当にこれでいいの?
  考えるポイント:バイトを活用した印象・模型の変形チェック
 7 Chairside:印象材が固まらない?―シリコーン印象材にあるエラーの盲点とは?
  考えるポイント:模型からみるシリコーン印象の変形要因
 8 Laboside:採れているようでも歯科技工士が迷う―本当のマージンはどこだ?
  考えるポイント:模型に表れるマージンラインの観察
 9 Chairside:ちょっと待って!?―印象材が硬化したらすぐに外すことの功罪
  考えるポイント:印象材のひずみと硬化時間の関係
 10 Laboside:同じラボワークでも症例によって調整量が異なるのはなぜ?
  考えるポイント:石膏模型の寸法変化に対する臨床対応
 検証1 良い? 悪い? シリコーン印象の比較
II 咬合 バイト&咬合器編
 11 Chairside:スタッフの考える技工物―自費治療と保険治療,その違いの本質
  考えるポイント:技工物の品質を高める材料以外の要因
 12 Laboside:1歯補綴から考える―意図した歯科技工物とは?
  考えるポイント:臨床に求められる技術と歯科技工物の関係性
 13 Chairside:咬合調整の2つのエピソード……―患者さんに必要なのは??
  考えるポイント:咬合調整を減らす臨床テクニック
 14 Laboside:調整量を減らすために―知っておきたい咬合器のこと
  考えるポイント:半調節性咬合器の役割とクラウンへの影響
 検証2 なぜ調整が多く出るとわかったのか?
III 審美 シェード&資料編
 15 Chairside:シェードテイクしたのにセラミックなのに―歯の色が合わない!?
  考えるポイント:シェードの判断が難しくなるエラーの要因
 16 Laboside:色合わせはやっぱり難しい―シェードにどこまでこだわる!?
  考えるポイント:シェードテイクの流れとポイント
 17 Chairside:オールセラミックスだから色がきれい!?―症例に合った補綴物とは
  考えるポイント:臨床事例にみるセラミック技工物
 18 Laboside:自然な感じってどんな感じ!?―患者さんの要望を正確に把握する
  考えるポイント:患者さんの要望に対する基準設定
 検証3 模型からみるフルジルコニアの予後
 19 Chairside:その笑顔に違和感がある?―顔貌と歯列の関係をチェックする
  考えるポイント:審美性に関わる顔貌と前歯の関係性
 20 Laboside:その技工物は何を基準にしている?―模型から口腔をイメージする
  考えるポイント:模型上の指標と仮歯模型の活用
IV チーム 指示書&コミュニケーション編
 21 Chairside:ラボサイドに何を伝えたらよいのだろう?―患者固有情報の伝達について
  考えるポイント:技工指示書を活用したコミュニケーション
 22 Laboside:最初からわかっていたらこうはならなかった!?―スムーズな治療を考える
  考えるポイント:治療計画の共有による補綴臨床の向上
 23 Chairside:歯科技工士は現場をわかっていない!?―補綴再製ゼロプロジェクト
  考えるポイント:業務の優先順位と歯科技工の関係性
 24 Laboside:歯科医療のやりがいをどこで見出す?―チームで高める補綴臨床
  考えるポイント:歯科医療のやりがいってなんだろう!?

 資料提供/参考文献