やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 本書のシリーズであるReliable Dentistryは,確実・高度な医療を習得し,信頼される歯科医療を提供するための臨床ガイドとして,2010 年にスタートした.
 まず,本シリーズが始まるきっかけを振り返りたい.2010 年2月には本シリーズの Step1 が発刊されたのであるが,当時の歯科界では保険点数が改定ごとに削減され,また歯科医師過剰問題がさらに激化し,多くの開業医が否応なく過激な過当競争に加わることを余儀なくされていた.若い開業医のなかには生存競争に負けないために当初の志を曲げ,本来の医療行為とは別の分野での競争に傾注せざるを得ない人も少なくなかったようである.
 また,2000 年ごろを契機に,さまざまな新しいツール,たとえば歯科用CTや各種レーザー装置,マイクロスコープなどが普及しはじめると同時に,従来から使用されてきたインプラントや補綴システムなどの器具・機材にも新機軸が打ち出されるようになった.われわれは,望みさえすればそれらを容易に手に入れることができるようになった.そしてそれらのツールを医院の売りとして大々的に喧伝し,勝ち残りを図る向きも少なくなかった.
 しかし,当然であるが,それらを手に入れさえすれば予知性の高い良質な歯科医療が達成できるというものではなく,その根底に医療人としての揺るぎない理念と確固とした基本治療の存在が必要であり,そのうえで最新の情報を収集し,錯綜する情報を取捨選択し,手にしたツールを使いこなす必要があることは論を待たない.
 そうした考えのもと,本シリーズのStep1では(1)歯内療法,(2)初期齲蝕,(3)歯周治療,(4)臼歯部の補綴治療の4項目について,基礎知識から確実に良好な結果を達成するための手法までを臨床例を通して詳細に説明した.
 Step1の発刊から1年2カ月後には,Step2 が発刊された.Step2 では(1)限局矯正,(2)審美修復,(3)インプラント治療,(4)総義歯というアドバンスド的な内容について,基本的事項を簡潔に確認したうえで,臨床例を提示しながら詳細に解説した.これらStep2 で取り上げた4つのテーマは現在すでに歯科臨床のなかでの位置が確立され,今後もわれわれの日常臨床では欠かすことのできない大切なツールであり,これらのオプションなしでは来院される患者さんの満足を得ることは難しい.しかし,それも背景に確実な基礎治療があってはじめて成立するものであることも,同書のなかで強調した.
 そして,ここまでの総まとめとして,2012 年2月にStep3 が発刊された.Step3 の項目は (1)咬合再構成とは,(2)少数歯欠損における咬合再構成,(3)矯正治療を応用した咬合再構成,(4)歯周病症例における咬合再構成,(5)多数歯欠損における咬合再構成,の5 つである.ここでは咬合再構成を行ったケースを通して,包括的な歯科治療の進め方について解説し,全顎的治療を行う際には確実な基礎治療を履行したうえで,「全体的なバランス」を常に俯瞰的に見ておく必要性を指摘した.
 さて,Step3 の発刊から5 年が経過し,われわれを取り巻く環境はさらに急速に進歩した.CBCTによる術前診査,電子機器を用いた各種診断システム,マイクロスコープによる拡大視野下での精密治療,NI-Tiロータリーファイルシステムなどが当たり前になった感がある.ただし,これらもただ導入すればよいというものではなく,良好な結果を長期に維持するためにはさまざまな配慮が必要となる.
 そこで今回のStep4では,北九州歯学研究会若手会の最若手メンバーを中心に(1)マイクロスコープ,(2)レーザー,(3)CAD/CAM &マテリアル,(4)矯正,(5)骨増生&ガイデッドサージェリー,という5つの旬のテーマについて臨床例を提示しながら解説を加えた.基礎治療を大切にしているわれわれであるが,それであるからこそ,こうした最新の治療も生きてくるわけであり,古いものに縛られず新しいものにも積極的に取り組む姿勢をご確認いただきたい.
 上田秀朗
 はじめに(上田秀朗)
1章 マイクロスコープ
 1 マイクロスコープ総論(松木良介)
 2 マイクロスコープによる樋状根感染根管の治療(青木隆宜)
  (コラム:MTAの種類・特性・使い方(青木隆宜))
 3 マイクロスコープによる根尖部分岐根管の治療(倉富 覚,)
 4 マイクロスコープによる破折ファイル除去(松延允資)
 5 マイクロスコープによるパーフォレーションリペア(松木良介)
  (コラム:パーフォレーションを発見したら(松延允資))
 6 マイクロスコープを用いたコンポジットレジン修復(樋口克彦)
 7 マイクロスコープを用いた支台歯形成と印象採得(樋口 惣)
 マイクロスコープ 文献
2章 レーザー
 1 レーザー総論(津覇雄三)
 2 炭酸ガスレーザー(松延允資)
 3 Er:YAGレーザー(樋口琢善・津覇雄三)
 レーザー 文献
3章 CAD/CAM&マテリアル
 1 CAD/CAM&マテリアル総論(山本真道・中野宏俊)
  (コラム:マテリアルの違いによる接着についての考察(力丸哲哉))
 2 口腔内スキャナを用いた修復治療(桃園貴功)
 3 CAD/CAMによる前歯部・臼歯部修復症例(山本真道)
 4 CAD/CAMデンチャーを用いた全顎的治療(岩城秀明)
 5 バーチャル咬合器とCAD/CAMを用いた部分的・全顎的治療(筒井祐介)
 CAD/CAM&マテリアル 文献
4章 矯正
 1 矯正総論(芳賀 剛)
 2 拡大床・トレーナーを用いた小児矯正(芳賀 剛)
 3 アライナーを用いた矯正治療(筒井祐介)
 4 ストレートワイヤー法・TADsを用いた矯正治療(中島稔博)
 矯正 文献
5章 骨増生&ガイデッドサージェリー
 1 骨増生&ガイデッドサージェリー総論(白土 徹)
 2 GBRを用いた骨増生症例(樋口琢善)
 3 ガイデッドサージェリーを用いたインプラント治療(田中憲一)
 骨増生&ガイデッドサージェリー 文献

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