はじめに
デンタルインプラントの歴史は,浅いように思われがちですが,顎骨に人工物を埋入し,歯の代用とするというデンタルインプラント治療の研究は,20 世紀初頭より多くの歯科医師によって行われてきました.しかし,生体親和性のある素材の研究開発が進んできたのは20 世紀も半ばを迎えてからでした.1952 年に,スウェーデンの整形外科医ペル・イングヴァール・ブローネマルク博士が,チタンと骨とが親和性をもって結合することを発見したことから,デンタルインプラントの歴史は新たな1ページを開いたのです.1970 年代にはわが国にも導入されました.現在に至る変遷の中で,数え切れないインプラントシステムが登場し,淘汰されてきました.
2013 年,インプラントフィクスチャーの国内での生産量ならびに輸入総量は1,164,414 本(出典:薬事生産動態統計調査)であり,全国の歯科医療施設の約17%にあたる11,311 施設(出典:厚生労働省平成23 年医療施設)で,インプラントが施術されています.また,設置基準をクリアした施設において保険診療におけるインプラント治療も施術可能になりました.このように,より国民医療に近づいたインプラント治療ですが,各社の現存のインプラントシステムがこの先存在しなくなる可能性があることも忘れてはなりません.
つまり最先端といわれている今のインプラントシステムが,明日には過去のものとなり,数年後には影も形もなくなるといったスピードで,多様性をもって進化しているのがインプラント治療の現実です.この進化のスピードと新情報に対応していくことも,われわれ臨床家には求められております.
さらに,日本人のライフスタイルの変化により海外への移住などもあり,施術医がそのインプラントの予後管理を全うできるケースが,年々減少しつつあります.時には海外で施術されたインプラントのリカバリーを日本で行うケースも増加しています.多岐におよぶインプラントシステムを簡単にどのシステムであるのか把握するのは極めて困難です.本書は,患者さんのインプラントシステムを前医からの情報提供が得られなかった場合でも,画像から容易に特定出来るように,フィクスチャーならびに実際の臨床でのデンタルエックス線写真と参照できるように構成されています.数多くの臨床医のご協力の下,豊富な臨床例と,システムの名称や分類,連絡先企業名などできるかぎりの情報を網羅しました.
インプラント治療を行っていない先生方から,たびたび聞かれる事項に「患者さんが高齢や病気で寝たきりになって来院できなくなったら,インプラントのメンテナンスはどうするのか?」という質問があります.QOLの見地から,インプラント治療には大きなメリットがあります.しかしながら,定期的なメンテナンスが必要という点だけをみれば,老後は総入れ歯のほうが確かにラクかも知れません.超高齢社会を迎え,オーラルフレイルから高齢者の機能低下が始まり,サルコペニアが起き,精神的要素の不調が重なると要介護予備群に近づくため,その予防が提唱されるようになりました.また,口腔機能の維持は身体的能力の維持に寄与し,軽度認知障害(MCI)の高齢者のアルツハイマー型認知症への移行を遅延させることができ,認知症予防の重要なファクターのひとつです.口腔機能の維持を目的として予後管理を念頭におき,補綴様式が十分に考慮された上部構造の高齢者へのインプラント治療が施術されていくことでしょう.
一方,インプラント受療者の予後管理やリカバリー治療のバックアップ体制は心もとないのが現状です.多くの歯科医院でインプラント治療は施術されていますが,リカバリーを行うに十分な知識と技術を修得した歯科医師数はわずかです.事実,近年,「インプラント難民」という呼称が使われ始めています.少なくともインプラント治療に携わる歯科医師はインプラント難民を送り出してはいけません.施術医が患者さんや後の主治医からの問い合わせに対し,正確な施術情報を伝達することは不可欠であり今後,それらの情報を共有するシステムの構築も必須となります.また,自院で患者さんのフォローができない場合は,患者さんを放置することなく,インプラント治療を行っている医療施設にすみやかに紹介することも歯科医師の責務です.
2011 年3 月,未曾有の災害である東日本大震災が発生し,死者・行方不明者18,449 人の尊い命が失われました.身元確認数15,331 人のうち,歯科所見による確認は7.57%(1,160 体)であり(警察庁:2012.3.12 発表),DNA検査の時代になってもわれわれ,歯科所見による確認の優位性は明らかであり,その重要性が再認識されました.特に特徴的な歯科治療であるインプラント治療は個人識別において有用な資料となります.犯罪捜査においてもインプラントフィクスチャーが被害者の特定と犯人逮捕の決定的な証拠となった事例もあります.インプラント治療痕は身体的な特徴のひとつと言っても過言でないかもしれません.
過去のインプラントシステムの評価も,現在の医療レベルから見れば,否定せざるを得ないようなものも少なくありません.しかしながら,先人たちの行ってきたさまざまな試行錯誤,努力が,今の安全かつ信頼性の高いインプラント治療をもたらしていることを忘れてはいけませんし,本書がインプラント難民問題に立ち向かう一助になることを,願ってやみません.
われわれ,公益社団法人日本歯科先端技術研究所は,山根稔夫先生が1955 年に創設された口腔外科研究会を祖とし,1984 年に創立されました.公益社団法人日本歯科先端技術研究所の会員諸氏,そして快く資料提供頂いた全国のインプラント臨床家のご尽力とご協力に衷心より感謝申し上げます.
編者代表 簗瀬武史
デンタルインプラントの歴史は,浅いように思われがちですが,顎骨に人工物を埋入し,歯の代用とするというデンタルインプラント治療の研究は,20 世紀初頭より多くの歯科医師によって行われてきました.しかし,生体親和性のある素材の研究開発が進んできたのは20 世紀も半ばを迎えてからでした.1952 年に,スウェーデンの整形外科医ペル・イングヴァール・ブローネマルク博士が,チタンと骨とが親和性をもって結合することを発見したことから,デンタルインプラントの歴史は新たな1ページを開いたのです.1970 年代にはわが国にも導入されました.現在に至る変遷の中で,数え切れないインプラントシステムが登場し,淘汰されてきました.
2013 年,インプラントフィクスチャーの国内での生産量ならびに輸入総量は1,164,414 本(出典:薬事生産動態統計調査)であり,全国の歯科医療施設の約17%にあたる11,311 施設(出典:厚生労働省平成23 年医療施設)で,インプラントが施術されています.また,設置基準をクリアした施設において保険診療におけるインプラント治療も施術可能になりました.このように,より国民医療に近づいたインプラント治療ですが,各社の現存のインプラントシステムがこの先存在しなくなる可能性があることも忘れてはなりません.
つまり最先端といわれている今のインプラントシステムが,明日には過去のものとなり,数年後には影も形もなくなるといったスピードで,多様性をもって進化しているのがインプラント治療の現実です.この進化のスピードと新情報に対応していくことも,われわれ臨床家には求められております.
さらに,日本人のライフスタイルの変化により海外への移住などもあり,施術医がそのインプラントの予後管理を全うできるケースが,年々減少しつつあります.時には海外で施術されたインプラントのリカバリーを日本で行うケースも増加しています.多岐におよぶインプラントシステムを簡単にどのシステムであるのか把握するのは極めて困難です.本書は,患者さんのインプラントシステムを前医からの情報提供が得られなかった場合でも,画像から容易に特定出来るように,フィクスチャーならびに実際の臨床でのデンタルエックス線写真と参照できるように構成されています.数多くの臨床医のご協力の下,豊富な臨床例と,システムの名称や分類,連絡先企業名などできるかぎりの情報を網羅しました.
インプラント治療を行っていない先生方から,たびたび聞かれる事項に「患者さんが高齢や病気で寝たきりになって来院できなくなったら,インプラントのメンテナンスはどうするのか?」という質問があります.QOLの見地から,インプラント治療には大きなメリットがあります.しかしながら,定期的なメンテナンスが必要という点だけをみれば,老後は総入れ歯のほうが確かにラクかも知れません.超高齢社会を迎え,オーラルフレイルから高齢者の機能低下が始まり,サルコペニアが起き,精神的要素の不調が重なると要介護予備群に近づくため,その予防が提唱されるようになりました.また,口腔機能の維持は身体的能力の維持に寄与し,軽度認知障害(MCI)の高齢者のアルツハイマー型認知症への移行を遅延させることができ,認知症予防の重要なファクターのひとつです.口腔機能の維持を目的として予後管理を念頭におき,補綴様式が十分に考慮された上部構造の高齢者へのインプラント治療が施術されていくことでしょう.
一方,インプラント受療者の予後管理やリカバリー治療のバックアップ体制は心もとないのが現状です.多くの歯科医院でインプラント治療は施術されていますが,リカバリーを行うに十分な知識と技術を修得した歯科医師数はわずかです.事実,近年,「インプラント難民」という呼称が使われ始めています.少なくともインプラント治療に携わる歯科医師はインプラント難民を送り出してはいけません.施術医が患者さんや後の主治医からの問い合わせに対し,正確な施術情報を伝達することは不可欠であり今後,それらの情報を共有するシステムの構築も必須となります.また,自院で患者さんのフォローができない場合は,患者さんを放置することなく,インプラント治療を行っている医療施設にすみやかに紹介することも歯科医師の責務です.
2011 年3 月,未曾有の災害である東日本大震災が発生し,死者・行方不明者18,449 人の尊い命が失われました.身元確認数15,331 人のうち,歯科所見による確認は7.57%(1,160 体)であり(警察庁:2012.3.12 発表),DNA検査の時代になってもわれわれ,歯科所見による確認の優位性は明らかであり,その重要性が再認識されました.特に特徴的な歯科治療であるインプラント治療は個人識別において有用な資料となります.犯罪捜査においてもインプラントフィクスチャーが被害者の特定と犯人逮捕の決定的な証拠となった事例もあります.インプラント治療痕は身体的な特徴のひとつと言っても過言でないかもしれません.
過去のインプラントシステムの評価も,現在の医療レベルから見れば,否定せざるを得ないようなものも少なくありません.しかしながら,先人たちの行ってきたさまざまな試行錯誤,努力が,今の安全かつ信頼性の高いインプラント治療をもたらしていることを忘れてはいけませんし,本書がインプラント難民問題に立ち向かう一助になることを,願ってやみません.
われわれ,公益社団法人日本歯科先端技術研究所は,山根稔夫先生が1955 年に創設された口腔外科研究会を祖とし,1984 年に創立されました.公益社団法人日本歯科先端技術研究所の会員諸氏,そして快く資料提供頂いた全国のインプラント臨床家のご尽力とご協力に衷心より感謝申し上げます.
編者代表 簗瀬武史
はじめに
「このインプラントなに? 他医院で治療されたインプラントへの対応ガイド」を応用したインプラントシステム特定の勘所と実際
症例1
症例2
症例3
症例4
まとめ
インプラントシステムの形態分類
Parallel walled
1 バイオホライズンズ エクスターナルインプラント
2 バイオホライズンズ インターナルインプラント
3 バイオホライズンズ シングルステージインプラント
4 バイオホライズンズ レーザーロック3.0
5 ジーシーインプラントRe VジェネシオPlusストレート
6 ジーシーインプラントRe VセティオPlusストレート
7 ジーシーインプラントAadvaスタンダードインプラント
8 ノーベルパラレルCC
9 デンティウムインプラント Implantium
10 バイオフィックス インプラント
11 プロアクティブ ストレート インプラント
12 ITインプラント
Tapered anatomic
13 バイオホライズンズ レーザーロック テーパード
14 バイオホライズンズ フルレーザーロック テーパード
15 バイオホライズンズ レーザーロック テーパードプラス
16 スウェーデン&マルティナ プレミアムストレート
17 スウェーデン&マルティナ プレミアムSP
18 スウェーデン&マルティナ プレミアムTG
19 スウェーデン&マルティナ プレミアムSPサイナス
20 ノーベル テーパードCC
21 ノーベル テーパードCC PMC
22 ノーベルリプレイス テーパードPS
23 リプレイスセレクト テーパードPMC
24 BLTインプラント
25 メテオインプラント
26 エニーリッジ インプラント MEGA'GEN
27 ミューワンHAインプラント 2 ピース
28 エイトローブ インプラント
29 JIAD(KOM)インプラントNYTタイプ
30 プロアクティブ テーパー インプラント
31 CMIインプラントIS-II Active
32 デンティウムインプラント SuperLine
33 デンティウムインプラント SimpleLine II
34 スウェーデン&マルティナ プラマ
Others
35 ノーベルアクティブ3.0
36 ノーベルアクティブWP
37 スティル インプラント
38 トラベキュラメタル歯科用インプラント
39 TKインプラント
Others(One-piece)
40 マグフィットMIPフィクスチャー
41 OSインプラント
42 インプラントSD
43 バイオホライズンズ ワンピース3.0 インプラント
「このインプラントなに? 他医院で治療されたインプラントへの対応ガイド」を応用したインプラントシステム特定の勘所と実際
症例1
症例2
症例3
症例4
まとめ
インプラントシステムの形態分類
Parallel walled
1 バイオホライズンズ エクスターナルインプラント
2 バイオホライズンズ インターナルインプラント
3 バイオホライズンズ シングルステージインプラント
4 バイオホライズンズ レーザーロック3.0
5 ジーシーインプラントRe VジェネシオPlusストレート
6 ジーシーインプラントRe VセティオPlusストレート
7 ジーシーインプラントAadvaスタンダードインプラント
8 ノーベルパラレルCC
9 デンティウムインプラント Implantium
10 バイオフィックス インプラント
11 プロアクティブ ストレート インプラント
12 ITインプラント
Tapered anatomic
13 バイオホライズンズ レーザーロック テーパード
14 バイオホライズンズ フルレーザーロック テーパード
15 バイオホライズンズ レーザーロック テーパードプラス
16 スウェーデン&マルティナ プレミアムストレート
17 スウェーデン&マルティナ プレミアムSP
18 スウェーデン&マルティナ プレミアムTG
19 スウェーデン&マルティナ プレミアムSPサイナス
20 ノーベル テーパードCC
21 ノーベル テーパードCC PMC
22 ノーベルリプレイス テーパードPS
23 リプレイスセレクト テーパードPMC
24 BLTインプラント
25 メテオインプラント
26 エニーリッジ インプラント MEGA'GEN
27 ミューワンHAインプラント 2 ピース
28 エイトローブ インプラント
29 JIAD(KOM)インプラントNYTタイプ
30 プロアクティブ テーパー インプラント
31 CMIインプラントIS-II Active
32 デンティウムインプラント SuperLine
33 デンティウムインプラント SimpleLine II
34 スウェーデン&マルティナ プラマ
Others
35 ノーベルアクティブ3.0
36 ノーベルアクティブWP
37 スティル インプラント
38 トラベキュラメタル歯科用インプラント
39 TKインプラント
Others(One-piece)
40 マグフィットMIPフィクスチャー
41 OSインプラント
42 インプラントSD
43 バイオホライズンズ ワンピース3.0 インプラント
![](images/cpy.gif)
![](images/cpy.gif)
![](images/cpy.gif)
![](images/cpy.gif)
![](images/cpy.gif)
![](images/cpy.gif)
![](images/cpy.gif)
![](images/cpy.gif)
![](images/cpy.gif)
![](images/cpy.gif)
![](images/cpy.gif)
![](images/cpy.gif)
![](images/cpy.gif)
![](images/cpy.gif)
![](images/cpy.gif)
![](images/cpy.gif)
![](images/cpy.gif)
![](images/cpy.gif)