やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 私は診療所に勤務する歯科衛生士です.今では考えられませんが,入社した当初は人前で話すことが苦手で患者さんにブラッシング指導するときも恥ずかしくて赤面しているほどでした.当時は「8020運動」がはじまり,同年に歯科衛生士法が一部改正され,新たに歯科衛生士の業務に歯科保健指導が追加されてまだ間もないという,歯科界では大きな改革の時代であり,歯の病気の予防をするうえで歯科衛生士が必要とされる時代の入り口でもありました.私たち歯科衛生士はプロービング,ブラッシング指導,スケーリング,SRPなど歯に関するさまざまな知識を身につけ技術を学び,患者さんの歯の健康を守るために一生懸命頑張ってきました.
 あれから20年,日本は超高齢化が進み,寝たきり,認知症や低栄養,メタボリックシンドローム,生活習慣病の患者が増加を続け,医療費を圧迫している状況になっています.このような社会情勢の変化に伴い,今後の歯科衛生士は歯の健康を守ることはもちろんのことながら,そこから継続して生活習慣,食事習慣など全身の健康状態までを視野に入れたメインテナンスを行っていくことが大切です.
 今,歯科界には,また大きな変革が求められています.それは生活習慣病の予防,健康長寿社会を目指すために歯科衛生士が必要とされる新たな時代の入り口なのです.厚生労働省の「健康日本21(第2次)」でも,その期待の高まりがうかがえます.
 国民の平均的な寿命である80歳まで20本以上の自分の歯が残っていれば硬いものでもなんでもしっかり噛むことができます.そして,しっかり噛めることは脳の機能や体の機能を維持するために必要不可欠であることもわかってきました.
 咀嚼機能の回復と維持が毎日の食事につながり,毎日の食事が全身の健康へとつながることを,「嚼育(しゃくいく)」を通じ,患者さんに認識してもらうことが今後の歯科医療における最重要課題だと思います.この本では患者さんの健康長寿を目指して,クリニックで行っている取り組みをご紹介していきます.
 歯科衛生士の可能性はこれからさらに広がっていきます.この本で学んだことが歯科医院で,そして歯科衛生士として,さらに自分の生活を見直し明るい人生を切り開く一助になればと,心から願っています.
 2013年3月 著者を代表して 安達 恵利子
1 歯科医療の本来の目的とは―欠損からはじまる病気の連鎖(欠損ドミノ)を断つ
2 病気にならないために―患者さんの体調を知ろう
 1.補綴治療したのになぜ不健康?
  1)患者さんの体調を把握するために
   身体活動レベル
   1日に必要なエネルギー
    食事バランスガイドとは?
   BMI(Body Mass Index)
   内臓脂肪が多い場合
   患者さんへのアプローチ
    1−肥満と病気の関係(結びつき)をしっかりと理解してもらう
    2−肥満と咀嚼の関係を理解してもらう
3 体の仕組みと構造を知ろう
 1.健康で幸せに年齢を重ねるために
  1)経年的な健康維持を目指した指導
  2)超高齢社会での歯科治療
  3)咀嚼の重要性
 2.年齢とともに体はどう変化するの?
  1)高齢者の身体的特徴とその対応
   全体的な特徴
    1−筋力・体力の低下
    2−基礎代謝量の減少
   食事面での特徴と変化
    1−視力(色)・聴力(音)・嗅覚(匂い)の低下
    2−味覚(味)の低下
    3−噛む力の低下
    4−消化液(唾液)の分泌低下,消化吸収能力の低下
   嗜好の変化
   食肉の効能をさぐる
   低栄養の評価法
   食生活チェックシート
   低栄養と低栄養状態の高齢者の増加
   高齢者の意識と心理
   低栄養への対応
4 患者さんの生活背景・生活習慣を知ろう
 1.まずはコミュニケーション
 2.生活習慣改善の第一歩は「自分の体」を患者さんが知ること
  1)生活改善の指標は?チェックシートの活用
   BMIによる評価
   体成分分析
   患者さんへの指導―内臓脂肪を減らすには「あさはかけよう」(朝は駆けよう)
  2)患者さんの年齢と個々に合わせた具体的な動機づけと指導方法
   17歳の女性の高精度体成分分析結果
   51歳の女性の高精度体成分分析結果
5 骨粗鬆症を知ろう
 ・自分の体の骨密度を知っていますか?
  Case-A 補綴治療終了後の食生活?
   初診時の口腔内所見
   治療経過
   補綴治療はゴールではなかった
   補綴治療後は
   患者さんのモチベーションが下がらないように
  Case-B 硬い物が食べられない!
   初診時の口腔内所見
   健康チェック
   指導上のコメント
   この患者さんの体成分結果をみて何が問題か?
   治療へのアプローチ
   治療経過
   現在の指導の実際