やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 口腔インプラント治療は,従来の補綴治療法である可撤性義歯と比較して高い機能回復が得られ,また,ブリッジと比較すると隣在歯への侵襲がないなどの利点が注目され,歯の欠損補綴の1つのオプションとして広く普及してきています.その一方で昨年,国民生活センターから口腔インプラント治療による健康被害の訴えの実態が報告され,適正なインプラント治療が以前にも増して望まれています.
 口腔インプラント治療の利点を生かした適正な治療を提供するには,歯科医師,歯科衛生士,および歯科技工士を含む高度に訓練された治療チームが必要です.そのチームの中で歯科衛生士が果たす役割は大きく,歯科衛生士の技術と知識の向上はそのまま高度なインプラント治療の提供につながるものと実感しています.
 本書発刊の目的は,歯科衛生士の皆さんに口腔インプラント治療の基礎知識と技術,そして口腔インプラント治療における歯科衛生士の役割の指針をお伝えすることです.本書を通じて,インプラント治療において歯科衛生士はどのようにかかわり,歯科衛生士のかかわりが治療全体にどのように影響するかについてご理解いただけたら,うれしい限りです.
 歯科治療の進歩は急速です.新しい方法や材料が日々開発され,20世紀までは10年が進歩の1つのタイムスパンのように思われていたことが,現在では5年もすると大きく変わっています.中でも口腔インプラント治療は,急速な変化を遂げているものの代表格といえるでしょう.
 しかし,インプラント治療において高度な技術をもった治療チームが必要なことに変わりはなく,インプラント治療における歯科衛生士の役割は,相変わらず大きいことに違いはありません.
 本書が歯科衛生士の皆さんにとって有意義なものとなることを祈っております.
 2012年9月
 福岡歯科大学口腔医療センター 松浦正朗
 東京歯科大学口腔インプラント学講座 矢島安朝
 はじめに
プロローグ インプラント治療の流れと歯科衛生士の役割
 (矢島安朝)
 1.インプラント治療の目的と利点──いつでも患者さんに説明できるようにしておく
 2.インプラント治療の流れにそった歯科衛生士の役割
  1)歯科衛生士が主導する3つの場面と3つの要件
  2)最初に行われるメディカルインタビュー
  3)診察・検査・資料収集からインプラント体埋入手術まで
  4)埋入手術後からメインテナンスまで
1章 インプラント患者への説明と情報収集
 (矢島安朝)
 1.インプラント治療についての説明
  1)インプラント治療の特性 2)インプラント治療の流れ 3)およその治療期間 4)術前治療の必要性 5)上部構造の種類 6)およその費用 7)メインテナンスの重要性
 2.患者からの情報収集
  1)患者の希望,治療に対する期待を把握する 2)歯を失った原因を聞き取る
 3.患者との信頼関係の構築
 4.3つの柱からなるコミュニケーションの原則
  1)傾聴 2)共感 3)受容
  コラム 6割を占める非言語的コミュニケーション
  症例でみる歯科衛生士の役割(尾谷始子)
2章 診察・検査
 (松浦正朗)
 1.全身状態と既往疾患を把握する
  1)医療面接を行い,必要に応じて主治医へ照会する 2)臨床検査を行う 3)インプラント治療に対する全身疾患のリスクを把握する
 2.局所(歯,顎骨,軟組織)の状態と口腔病変を把握する
  1)エックス線画像検査 2)歯周検査 3)模型検査 4)顎運動検査
 3.検査結果の判定(診断)
  コラム インプラント治療の禁忌症(松浦正朗)
3章 治療計画の立案とインフォームドコンセント
 (松浦正朗)
 1.プロブレムリストで問題点を共有する
  1)プロブレムリストのつくり方 2)プロブレムリストの使い方
 2.治療計画はどうやって立てるのか
  1)患者の希望にそって治療のゴールを設定する
  2)診断用のワックスアップとガイドプレートで治療イメージを共有する
  3)CTをもとに手術のシュミレーションをする
 3.患者に治療計画を説明する
  1)治療計画を説明するうえでの必須事項 2)説明と同意(インフォームドコンセント) 3)治療計画書を作成する 4)治療計画の説明における歯科衛生士の役割
4章 インプラント手術前の歯科治療
 1.プラークコントロール(伊藤太一)
  1)プラークコントロールの意義 2)プラークコントロール成功のポイント
 2.歯周治療
 3.残存歯の治療(本間慎也)
 4.暫間補綴
 5.術前矯正
  症例でみる歯科衛生士の役割(尾谷始子)
5章 インプラント手術
 1.術前(松浦正朗・山本勝巳)
  1)手術当日までに器材を準備しておく 2)手術環境を整備する
 2.手術当日
  1)患者入室前の準備 2)患者入室後の準備 3)手術の実際 4)手術の介助
 3.術後の患者管理(松浦正朗・尾谷始子)
  1)日常生活について指導する 2)患者の状態に応じて薬を処方する 3)必要に応じて栄養指導をする 4)創部の保清を指導する
 4.使用済み器具の片づけ
  1)廃棄物の分類,洗浄,処理を行う 2)片づけのポイントを把握しておく
 5.手術中に起こりうる重篤なトラブル(松浦正朗・矢島安朝)
  1)手術中の全身的トラブル 2)重篤な局所的トラブル
  コラム インプラント体の埋入時期─即時埋入と早期埋入(松浦正朗)
  症例でみる歯科衛生士の役割(太田光江)
6章 インプラント補綴
 1.上部構造の種類(城戸寛史)
  1)装着期間による分類 2)固定性・可撤性による分類 3)固定方法による分類
 2.補綴術式−上部構造の作製方法
  1)印象採得 2)咬合採得 3)アバットメントの種類
 3.補綴終了後の機能評価
  1)適合精度を評価する 2)咬合状態を評価する 3)咀嚼機能を評価する 4)審美性を評価する 5)上部構造のチェックと口腔衛生指導
 4.補綴治療に関連したトラブル(本間慎也)
  1)スクリューのゆるみや破折 2)インプラント体周囲の骨吸収やインプラント体の破折 3)上部構造の破損
  症例でみる歯科衛生士の役割(太田光江)
7章 メインテナンス
 1.メインテナンスの流れとメインテナンスの重要性(松浦正朗)
  1)プラークコントロール 2)咬合圧のコントロール
 2.メインテナンスプログラムと評価項目
  1)メインテナンスプログラム 2)インプラントとインプラント周囲組織の評価
 3.プロブレムリストの作成−メインテナンス治療に際しての問題点の抽出
 4.プロフェッショナルケア(常岡由美子)
 5.セルフケアに対する指導
  1)口腔衛生指導 2)セルフケアに対する指導
 6.インプラント周囲粘膜炎・周囲炎への対応(関根秀志)
  1)インプラント周囲粘膜炎・周囲炎と臨床症状 2)インプラント周囲粘膜炎への対応 3)軽度インプラント周囲炎への対応 4)重度インプラント周囲炎への対応
  コラム BP系薬剤関連顎骨壊死(BRONJ)(矢島安朝)
  症例でみる歯科衛生士の役割(常岡由美子)
8章 インプラント関連手術
 (古谷義隆)
 1.骨増生手術
  1)骨増生の目的 2)骨増生に用いる材料 3)骨増生手術の種類
 2.軟組織のマネジメント
  1)軟組織のマネジメントの目的 2)周囲軟組織のマネジメント方法

 文献
 索引