やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

本書のねらい
 本書は,歯科診療における感染予防対策の基本となる「オーデット」について解説する書籍である.感染リスク・感染経路別対策と標準予防策の実践ができるような内容を目指して作成した.総論的な内容ではなく現場のニーズに即して,診療の手順ごとに感染予防対策の基本的な手順を記載した.
 オーデットとは,会計監査をするという意味の言葉である.会計監査は内部の人が自分の所属する団体に対して行うことで,税務署が行う査察ではない.
 感染予防対策オーデットは,自らの部署で,感染予防対策が実際に手順どおり行われているかを,内部の人がディスカッションを踏まえて行う.オーデットの結果は管理者も含めて対策を講じる基となり,結果を数値化することによって感染予防対策の改善度の指標にも役立つ.また,オーデット項目について,その質問の意図と,その理由は何かを理解するために解説を具体的に記載し感染予防対策を実践するための具体的ポイントが箇条書きに記載されている.更に,以上の手順が実際に守られているかの監査「オーデット」を,オーデットシートを用いて確実に実施できるようになっている.
 歯科診療における感染予防対策は,一見簡単そうに見えるが,実際は感染リスクが混在し,複雑である.基本を正しく理解し,実際の手順を修得できれば過剰な対策を実施しなくて済み,経済的である.本書では,基本を正しく理解でき,具体的に歯科診療時に応用できるように編集した.
 本書で提案しているオーデットを歯科医院や地域の歯科医師会等で導入し管理することによって,感染予防対策の標準化や研修が必要な事項を明確化することが可能となり,より有効な感染予防対策を組織的に行うことができる.
 標準作業手順書やオーデット項目の作成には,これまでにICHG研究会が編集した歯科医療における感染予防対策の成書を参考にしていただきたい.
 本書のポリシーは,EBM(Evidence Based Medicine)に基づいた以下の4項目である.
 1.患者のためになっている.
 2.医療従事者が保護されている.
 3.環境に配慮されている.
 4.経済的である.
 EBMとは,批判的に吟味された文献を基に,わが国の医療制度や今診ている患者の医療に合致し,その上で,患者の価値観と意向に合致した医療のことである.
 本書が日常業務の感染予防対策の推進に役立ち,安全な歯科診療が実践されることを願っている.
 2010年9月
 ICHG研究会一同
 本書のねらい
I この本を有効利用してもらうために
 1 オーデットとは
 2 オーデットの歴史
 3 オーデットの目的
 4 オーデットの利点
 5 オーデットの文書化
 6 オーデット作成上の注意事項
 7 オーデットの実際
 8 チェック項目の評価
 9 計算の方法
 10 結果の数値化の利点
 11 結果の取扱い
 12 オーデットのまとめ
 13 オーデット実施の頻度
II オーデットの実際
 1 手洗いのオーデット
  (1)設備・備品
  (2)環境
  (3)知識
  (4)手順
 2 器具・機器のオーデット
  (1)設備・備品
  (2)環境
  (3)知識
  (4)手順
  (5)規格・記録
 3 防御具のオーデット
  (1)設備・備品
  (2)知識
  (3)手順
  (4)規格・記録
 4 口腔衛生管理のオーデット
  (1)設備・備品
  (2)知識
  (3)手順
 5 廃棄物処理のオーデット
  (1)設備・備品
  (2)環境
  (3)知識
  (4)手順
  (5)規格・記録
 6 鋭利物の取扱いのオーデット
  (1)設備・備品
  (2)環境
  (3)知識
  (4)手順
  (5)規格・記録
 7 環境整備と清掃のオーデット
  (1)設備・備品
  (2)知識
  (3)手順
  (4)規格・記録
 8 水質管理のオーデット
  (1)設備・備品
  (2)知識
  (3)手順
  (4)規格・記録
 9 その他の歯科診療のオーデット
  (1)設備・備品
  (2)知識
  (3)手順
  (4)規格・記録
 10 フィードバックインフォメーション(Feedback of information)
III オーデット項目に関連した内容の解説
 1 手洗い
  (1)手洗い専用洗面台(9つの要件)
  (2)手洗いミスの生じやすい部位
  (3)手洗い後の手の乾燥
  (4)日常手洗いの意義とタイミング
  (5)衛生的手洗いの意義とタイミング
  (6)速乾性すり込み式手指消毒剤の意義と実施条件
  (7)手荒れ防止の意義
  (8)液体石けんと手洗い用消毒剤の管理
  (9)ネイルブラシの管理方法
  (10)ペーパータオルの管理
 2 器具・器械の取扱い
  (1)感染リスクと対策のレベル
  (2)温湯・熱湯消毒
  (3)次亜塩素酸ナトリウム液の効果・医薬品と雑貨について
  (4)滅菌物の取扱い
 3 防御具の使用
  (1)ディスポーザブル手袋
  (2)プラスチックエプロン
  (3)サージカルマスク
  (4)ゴーグル・フェイスシールド
  (5)壁かけ式ホルダー
  (6)着脱手順
 4 日常的な口腔衛生管理
  (1)ディスポーザブル製品の再使用禁止
 5 感染性廃棄物の処理
  (1)感染性廃棄物の分別・保管・運搬・処理
  (2)バイオハザードマーク
  (3)感染性と非感染性の区別
 6 針等鋭利物の取扱い
  (1)針等鋭利物の取扱い時の原則
  (2)針捨てボックスの要件
  (3)針捨てボックスの使用方法
  (4)設置場所
  (5)回転切削器具等の処理
  (6)針刺し切創事故後の対応
 7 環境整備・診療部門の清掃
  (1)見た目にきれいと確認する項目
  (2)マイクロクロスの活用
  (3)新築,増改築にあたっての留意点
 8 水質管理
  (1)水の種類
  (2)水道法:残留塩素濃度,大腸菌群を含まない水
  (3)0.2の法則
  (4)流れているものは安全,滞っているものは危険
  (5)排出口,目皿の管理

 COLUMN
  ・内因性感染症と外因性感染症
  ・手袋を装着した状態での手洗いと速乾性すり込み式手指消毒剤の使用
  ・細菌の時限爆弾
  ・細菌とウイルス
  ・常在細菌叢の役割
  ・常在細菌叢をかく乱させる要因
  ・抗菌薬の適正使用
  ・口腔衛生管理と誤嚥性肺炎
  ・日常生活におけるうがい
  ・輸液の調製と管理
  ・輸液の調製使用期限のまとめ
  ・帝王切開と経腟分娩

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 索引
 付録/オーデット一覧