やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに

 本書は,『口と歯の病気マップ』の書名からもご推測いただけるかと思いますが,口腔各部位の構造・解剖,機能の理解をふまえて,口と歯のいろいろな病気について,イラストや写真を用いてビジュアルに,わかりやすく解説するものです.
 本書の構成としては,まさに道路マップを手にする要領で,知りたい部位にすぐ行き着けるように「クィックインデックス」を巻頭に掲げました.
 第1章は,「歯と口のなかの構造・機能・病気」として,歯,歯周組織,舌,口唇・口腔粘膜について,それぞれ各部位の構造,機能の理解をふまえて,その病気について解説しました.
 また,障害をもった方や介護を要する方たちの「口腔ケア」やリハビリテーションを中心に,「口腔ケアの基本的考え方と一般的方法」についても,この章で多くのページを割り当てました.
 同じように,2章は「顎骨,顎関節の構造・機能・病気」,第3章は「筋肉(咀嚼筋・表情筋・舌筋)」について解説しました.
 第4章は「摂食・嚥下機能とその障害」として,口がまずその入口である摂食機能のプロセスで最初にかかわるのが歯と口であることから,その障害・病気と口腔ケアについて解説しました.
 第5章は「歯・口と全身の関係」とし,歯・口と全身の関係について解説しながら,口腔に症状を現す全身的な病気について,リンパ節,唾液腺,神経など,いくつかの器官や組織との関連についても項目を起こしました.
 さらに「パーキングエリア」(コラム)においては,目次体系には含まれなくても口と歯に関連する重要な項目についてスポットを当てて,簡潔にまとめることを試みました.
 近年,歯科はもちろんのこと,看護,介護,リハビリテーション,栄養などのさまざまな分野において,口と歯についての理解が非常に重要であることの認識が広まり,その知識を習得することのニーズが高まってきています.しかしながら,そうしたニーズに応えうる本がそう多くは見当たらないのが現状のようです.
 本書は,企画の段階からそうした幅広いニーズをふまえて,極力それに応えられるような編集を意図してきました.ここに,口と歯の病気と口腔ケアについて,実際の現場で保健・医療・福祉としての実践に携わるあらゆる職種,また在宅で介護にあたる方々にとって,真に有効な本となりえたことを確信しています.
 口と歯の健康が,明るい明日の社会を創っていくための大きな一歩となることを願ってやみません.

 2003年9月5日
 編集委員 齊藤 力,井出吉信,植田耕一郎
CONTENTS

【クイックインデックス】
 1.口腔
 2.頭頚部
 3.顎関節
 4.頭頚部の筋
 5.咽頭部
 6.全身
  (井出 吉信)
 歯の名称・歯と顎顔面の方向の呼び方

第1章 歯と口のなかの構造・機能・病気

 1 口腔の構造と機能
  1) 口 腔
   口腔とは
   唾液腺について
   口腔粘膜とは
   口腔粘膜の種類
  2) 歯
   歯の形と機能
   歯の生え代わり
   歯の植立様式
   歯の構造
  3) 歯周組織
   歯周組織とは
   歯根膜の構造と機能
   歯槽骨の構造
   歯肉の構造
  4) 舌
   舌の働きと構造
   味覚と味覚受容器
   味覚伝導路
   (井出 吉信・上松 博子)
 2 口腔ケアの基本的な考え方と一般的方法
  1) 口腔ケアとは
  2) 地域包括医療としての口腔ケア
  3) 口腔ケアの必要性
  4) 口腔清掃の着眼点
   1) 歯頚部,歯間部,舌側・口蓋側
   2) 口腔粘膜
  5) 口腔清掃用器具
   1) 歯ブラシ
   2) 歯間ブラシ
   3) 電動歯ブラシ
   4) 給水・吸引機付き電動歯ブラシ
   5) 舌ブラシ
   6) スポンジブラシ
   7) 義歯用ブラシ
  6) 口腔清掃用薬剤
   1) 歯磨剤(歯磨き粉)
   2) 洗口剤,含嗽剤
   3) 口腔内保湿剤
  7) 口腔リハビリテーション
   1) 口腔ケア・リハビリテーションの導入
   2) 3相に対する口腔リハビリテーションの対応
   3) 口腔リハビリテーションとは
  8) 専門的口腔ケアとは
   1) 専門的器具を使用しての口腔ケア
   2) 薬剤使用を適宜組み合わせる
   3) 口腔機能訓練を導入する
  9) 口腔ケアの効果,全身と口腔の関係
  10) 健常者の口腔衛生管理について
   1) ブラッシング法
   2) プラークコントロール
   3) その他の歯面付着物
   (植田耕一郎)
 3 歯と口のなかの病気(1)歯
  齲蝕症(むし歯)
  歯髄炎
  歯の知覚過敏症
  萌出時期の異常(乳歯・永久歯)
  過剰歯
  先天欠如歯
  埋伏歯
  転位歯
  傾斜歯・捻転歯
  斑状歯
  エナメル質形成不全
  歯の脱臼・歯の破折
  着色歯(変色歯)
  咬耗症・磨耗症
  咬合(咬み合わせ)の異常(歯列不正,反対咬合,
  叢生,歯間離開)
  抜歯後異常疼痛
  抜歯後異常出血
 4 歯と口のなかの病気(2)歯周組織
  歯肉縁
  歯周炎
  歯肉膿瘍
  歯槽骨炎
  智歯周囲炎
  色素沈着症
  歯肉肥大症
 5 歯と口のなかの病気(3)舌
  舌強直症
  正中菱形舌炎
  地図状舌
  黒毛舌
  溝状舌
  舌苔
  舌膿瘍
  舌血管腫
  舌リンパ管腫
  舌癌
  ハンターHunter舌炎
  舌痛症
  ((齊藤 力・小林 正治)
 6 歯と口のなかの病気(4)
  口唇・口腔の粘膜(口腔軟組織)
  口唇
  上唇小帯異常
  口唇口蓋裂
  先天性下唇瘻
  先天性口角瘻
  口角炎・口角びらん
  口唇粘液胞
  口唇血管腫
  口唇(単純)疱疹
  口腔粘膜
  アフタ
  口内炎
   1.カタル性口内炎
   2.潰瘍性口内炎
   3.壊死性潰瘍性歯肉口内炎
   4.アフタ性口内炎
   5.放射性口内炎
  扁桃周囲炎・扁桃周囲膿瘍
  頬部膿瘍
  頬部蜂窩織炎
  口底部膿瘍
  口底蜂窩織炎
  エプーリス
  カンジダ症
   1.急性偽膜性カンジダ症
   2.慢性肥厚性カンジダ症
   3.肉芽腫性カンジダ症
  線維腫
  乳頭腫
  脂肪腫
  血管腫
  リンパ管腫
  癌腫
   1.口唇癌
   2.頬粘膜癌
   3.歯肉癌
   4.舌 癌
   5.口底癌
   6.上顎洞癌
  肉腫
  悪性黒色腫
  類皮嚢胞・類表皮嚢胞
  鰓嚢胞(リンパ上皮性嚢胞)
  甲状舌管嚢胞
  色素沈着
   1.生理的色素沈着
   2.外因色素沈着
   3.全身疾患に伴う色素沈着
  色素性母斑
  扁平苔癬
  白板症
  紅板症
  口腔乾燥症
  クインケの浮腫
  フォーダイスFordyce病(顆粒)
  上皮真珠
  リガ・フェーデRiga-fede病
  金属アレルギー
  (古郷 幹彦)

第2章 顎骨・顎関節の構造・機能・病気

 1 顎骨・顎関節の構造と機能
  1) 顎 骨
   顎骨の特徴
   下顎骨の基本構造
   下顎骨の構造変化
   上顎骨の外部形態とその変化
   上顎骨の内部構造
  2) 顎関節
   顎関節の基本形態
    1) 骨 部
    2) 軟組織部
   顎関節の形態変化
    1) 下顎頭の変化
    2) 下顎窩および関節結節の変化
   (阿部  伸一・井出 吉信)
 2 顎骨・顎関節の病気(1)顎骨の病気
  炎症
   顎骨骨膜炎
   骨膜下膿瘍
   顎骨骨髄炎
   顎放線菌症
   歯性上顎洞炎
  腫瘍
   歯牙腫
   外骨症
   エナメル上皮腫
   粘液腫
   顎骨中心性血管腫
   顎骨中心性癌
   骨肉腫
  嚢胞
   歯根嚢胞
   濾胞性歯嚢胞
   歯原性角化嚢胞
   術後性上顎嚢胞
  外傷
   顎骨骨折
   顎関節脱臼
   (覚道 健治)
  先天異常・発育異常
   顎変形症
   外骨症・骨隆起
   第一・第二鰓弓症候群
   トリーチャーコリンズ Treacher-Collins症候群
   ピエール・ロバン・シークエンス Piere Robin Sequence
   クルーゾン Crouzon症候群
   (高木 律男)
 3 顎骨・顎関節の病気(2)
  顎関節の病気
  顎関節症
  顎関節強直症
  顎関節炎
  (覚道 健治)

第3章 筋肉(咀嚼筋・表情筋・舌筋)

 1 頭部の筋肉
  1) 表情筋
  2) 咀嚼筋
   咬筋
   側頭筋
   内側翼突筋
   外側翼突筋
  3) 前頸筋
   顎二腹筋
   オトガイ舌骨筋
   顎舌骨筋
   茎突舌骨筋
  4) 舌 筋
  (井出 吉信・阿部  伸一)

第4章 摂食・嚥下機能とその障害

 1 摂食・嚥下に関する機能
  1) 先行期(認知期)
   1) 原始反射(生後4カ月から6カ月まで)
   2) 手づかみ食べ(生後7カ月から1歳6カ月まで)
   3) 食事の自立(1歳2カ月以降および成人期)
  2) 準備期(咀嚼期)
   1) 1歳2カ月までの発達期において
   2) 1歳2カ月以降および成人期において
  3) 口腔期(嚥下第1相)
   1) 液体嚥下
   2) 咀嚼中嚥下
  4) 咽頭期(嚥下第2相)
   1) 乳児嚥下
   2) 成人嚥下
   3) 老年嚥下
  5) 食道期(嚥下第3相)
 2 摂食・嚥下障害とは
  1) 摂食・嚥下障害を引き起こす疾患
   1) 発達期
   2) 成人期
  2) 摂食・嚥下5期における障害
   1) 先行期の障害
    1) 発達期の場合
    2) 成人期に達してからの場合
   2) 準備期の障害
    1) 発達期の場合
    2) 成人期の場合
   3) 口腔期の障害
   4) 咽頭期の障害
    無症候性誤嚥
    舌の挙上について
    喉頭の挙上について
    鼻咽喉の閉鎖について
    喉頭侵入
   5) 食道期の障害
 3 摂食・嚥下障害患者の口腔ケア
  1) 急性期口腔ケア
   口腔内状況
   強制開口法・開口維持法
   清掃部位
   廃用予防
  2) 回復期口腔ケア
   口腔機能訓練
    1) リラクセーション
    2) 振動刺激訓練
    3) ストレッチ
   口腔ケア自立への援助
  3) 維持期口腔ケア
   機能を低下させていく原因
   口腔ケアサービス
   専門的口腔ケアの介入
    1) 介入頻度について
    2) 専門的口腔ケアを介入するにあたっての配慮
   サービス提供者側の責任―維持期口腔ケアの必要性について
  4) 終末期口腔ケア
   口腔清掃
    (1)口蓋上皮残
    (2)舌 苔
   終末期における口腔ケアの意義
   (植田耕一郎)

第5章 歯・口と全身との関係
 1 歯・口と全身との関係
  口腔の特異性
  全身の恒常性維持機構
   血液
    1) 血液の働きと成分
    2) 血液の種類と特徴
   止血機構
   生体防御(免疫)のしくみ
    1) 非特異的防御機構
    2) 特異的防御機構
    3) 口腔における生体防御
   ヒトの発生
    1) 歯と口腔の発生
 2 口腔に症状を現す全身的な病気
  口腔に症状を現す血液・出血性素因の病気
   1) 赤血球系の疾患
    鉄欠乏性貧血
    悪性貧血
    再生不良性貧血
   2) 白血球系の疾患
    白血病
    顆粒球減少症
    出血性素因
    (1)(血小板の異常
     特発性血小板減少性紫斑病(ITP)
     血小板機能異常症
      1.Glanzmann血小板無力症
      2.von Willebrand病
    (2)血液凝固因子の異常
     血友病
    (3)血管の異常
     遺伝性出血性血管拡張症(オスラー病)
  口腔粘膜疾患と全身疾患
  ・口腔に症状を現す感染症
   1) ウイルス性感染症
    単純疱疹
     1.疱疹性歯肉口内炎
     2.口唇疱疹
    帯状疱疹
    麻疹
    風疹
    水痘
    手足口病
    ヘルパンギーナ
    流行性耳下腺炎
    後天性免疫不全症候群(AIDS)
    ハントHunt症候群
   2) 細菌性感染症
    猩紅熱
   3) 特異性炎
    結核
    梅毒
  ・口腔に症状を現す自己免疫疾患
   1) 潰瘍を主徴とする粘膜疾患
    ベーチェトBehcet病
   2) 紅斑,びらんを主徴とする粘膜疾患
    多形滲出性紅斑
    天疱瘡
    尋常性天疱瘡
    類天疱瘡
   3) 口腔粘膜の紅斑および円板状病変がみられる粘膜疾患
    紅斑性狼瘡
  ・薬物性口内炎
   1) アレルギー性反応によるもの(薬疹)
   2) 中毒性病変
   3) 生理的平衡障害によるもの
  口腔に症状を現す症候群
   1) 遺伝子異常(遺伝子病)
   2) 染色体異常(配偶子病)
    ダウンDown症候群:染色体異常
    アペールApert症候群:遺伝子病
    口顔面指症候群:染色体異常
    鎖骨頭蓋異骨症;遺伝子病
    基底細胞母斑症候群:遺伝子病
    大理石骨病:遺伝子病
    (井上農夫男・笠原 和恵)
 3 リンパの構造・機能・病気
  リンパ管系の構造
   1.毛細リンパ管
   2.リンパ管
   3.リンパ本幹
   4.胸管および右リンパ本幹
  リンパ節(リンパ器官)
  頭頸部のリンパの流れ(リンパ節)とその意義
   リンパの病気
   化膿性リンパ節炎
   結核性リンパ節炎
   リンパ管腫
   悪性リンパ腫
 4 唾液腺の構造・機能・病気
  唾液および唾液腺の加齢に伴う変化
  大唾液腺の肉眼解剖と処置時の注意
   耳下腺
   顎下腺
   舌下腺
  唾液腺の病気
   唾液腺炎
    1.急性唾液腺炎
    2.慢性唾液腺炎
    3.慢性硬化性唾液腺炎(Kuettner腫瘍)
   唾石症
   唾液腺の腫瘍
   良性腫瘍
   悪性腫瘍
   ガマ腫
   流行性耳下腺炎
   シェーグレン症候群
 5 神経の病気
  三叉神経痛
  三叉神経麻痺
  顔面神経麻痺
  顔面神経痙攣
  舌咽神経痛
  非定型顔面痛
  仮面うつ病
  咽喉頭異常感症
  (木 律男)

索引
【パーキングエリア】
 子どもの口/(上松 博子・井出 吉信)
 要介護高齢者にとって安全な食事/(植田耕一郎)
 高齢者の水分補給について/(植田耕一郎)
 歯の欠損,無歯顎の機能障害とその回復/(井上農夫男)
 発音障害,スピーチエイド/(古郷 幹彦)
 痛みのメカニズム/(一戸 達也)
 口臭/(植田耕一郎)
 唾液の働き/(木 律男)

 【表紙・扉】
  塚本 正幸:TDL
 【イラスト】
  御手洗 智:東京歯科大学 解剖学
  塚本 正幸:TDL
  森野さかな