やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

推薦文
「新しい時代のフッ化物応用と健康―8020達成をめざして」発刊に寄せて

 平成元年から提唱された8020運動は,平成12年の健康日本21運動,さらには平成14年には新法である健康増進法への位置づけと,年々急速に進展してきていることは誠に喜ばしいことです.また,平成12年末には本8020推進財団が設立され,関連事業や研究への支援や国内外からの情報収集および歯科保健情報の提供を開始し,8020運動の一層の推進を図っております.こうしたなか,医歯薬出版(株)の英断でフッ化物利用のマニュアルの決定版ともいうべき本書が発刊されることは,誠に時機を得たことです.
 周知のように歯科疾患は有病率がきわめて高い国民病であり,不可逆性のう蝕と難治性の歯周疾患という歯科疾患の特性から,8020の達成には他の疾患にも増して体系的な予防が重要です.歯牙喪失原因の半分はう蝕であり,フッ化物利用で効果的に予防することは国際的に広く行われているところです.わが国においてもフッ化物利用の普及には国民の理解が必須条件でありますが,残念ながらこれまで必ずしも十分な情報提供への道(みち)標(しるべ)が提示されてきたとはいえません.その理由の一つとして,関係者に対してフッ化物利用に関する体系的・網羅的な情報提供媒体がなかったことも大きいと思われます.
 このため本書は,まず歯科保健関係者がフッ化物の効果と安全性について体系的・網羅的に熟知することに焦点を合わせ,住民合意による水道水フッ化物添加(フロリデーション)やフッ化物洗口法などの公衆衛生的手段によって施設単位や地域単位で行う場合を想定し,各種EBMの提供を行っています.幸いWHO,FDI(国際歯科連盟)をはじめとする国際専門機関・団体の見解に加えて,わが国において厚生労働省,日本歯科医師会,日本歯科医学会,口腔衛生学会等の国内の専門機関・団体の見解が明確化されてきており,これらの体系的・網羅的な理解ができる内容です.
 終わりに,本書の発刊までの経緯について触れておく必要があります.原本になったのは旭川歯科医師会から自主発刊された資料集「21世紀の8020戦略 水道水フッ素化の歩み」であり,その有用性が全国的に認められたことが今回の出版につながったと伺っております.同歯科医師会の先見性に敬意を表するものです.
 本書は,8020運動に主体的に取り組む全国の歯科医師および歯科保健関係者にとって待望の書であり,歯科保健計画の立案と具現化およびその維持に際して正確で有益な情報を提供してくれるものとして,本財団としましても強く推奨いたします.
 2002年11月
 財団法人「8020推進財団」理事長 臼田貞夫

推薦文
生命科学に基づくフッ化物応用

 このたび,医歯薬出版(株)から「新しい時代のフッ化物応用と健康―8020達成をめざして」が刊行されることになりました.この種のハンドブック,ガイドブック,マニュアルなどは,これまでにも日本口腔衛生学会フッ化物応用研究会(旧称:フッ素研究部会)から刊行され,そのほかにも国内および海外の出版物として数多く出ております.しかしながら,現在の公衆衛生学・予防医学・予防歯学の観点から,もっとも望まれていることは,信頼できる情報,正確な情報,そして時代に対応したup-to-dateな保健情報・医療情報です.
 このような時機に,本書が出版される意義は誠に大きいものがあります.その背景には,この十数年来,生命科学という用語が幅広く使われるようになってきて,科学史家はその用語の変遷を吟味していますが,これまでの「生命科学」とか「ライフ・サイエンス」の主題は,DNAやRNAの分野の分子生物学に重点がおかれていました.しかし,いま生命科学の領域をみますと,生命倫理を含めた社会学や社会科学にかかわる領域まで広がってきております.
 う蝕予防のための「フッ化物応用」も,半世紀前の状況では,主に地域の水道水へのフッ化物添加(水道フッ素化)による公衆衛生的予防施策として実施されていましたが,その後のフッ化物応用の普及は,歯科医師・歯科衛生士によるフッ化物歯面塗布(フッ素塗布),シーラントなどの予防歯科材料としてのフッ化物製剤,学校保健における学童集団へのフッ化物洗口(フッ素洗口),市販のフッ化物配合歯磨剤(フッ素入り歯磨剤)と,それぞれの目的に適った応用方法へと展開されてきております.
 ここで,生命科学を基盤としたフッ化物(フッ素)が重視されてきています.すなわち,予防剤および薬剤としてのフッ化物,さらに栄養素としてのフッ化物であり,日常の食品・飲み物にも比較的多く含まれているミネラルとしての微量元素であります.米国では,栄養所要量(RDA),栄養摂取基準(DRI)にフッ化物(fluoride)が位置づけられています.
 わが国では,平成11年の「第六次改定日本人の栄養所要量」に,策定栄養素が拡大されて,銅,ヨウ素,マンガン,セレン,亜鉛,クロム,モ潟uデンが加えられています.しかし,天然由来の食品に多く含まれ,しかも硬組織を強化する栄養素としてのフッ化物が欠落しています.このことから,数え切れないほどの歯科領域の研究報告のなかで,今後はフッ化物を栄養素として追求する研究が一層推進されることでしょう.
 本書は,フッ化物応用に関する国内および海外の代表的な資料をすべて網羅し,他の類書にはない優れた特色を有しています.手元において,そのつど必要な情報を調べるために最適のハンドブックです.
 2002年11月
 東京歯科大学 名誉教授 高江洲義矩

序文

 公衆衛生とは,国や自治体など公的機関の責任で行われる病気の予防や健康増進のための活動をさす言葉です.近年の公衆衛生が保健・医療・福祉のすべての職種の人々と連携し,一体化をめざしながら発展するなかで,公衆衛生は医療の大きな渦に呑み込まれ,本来のあり方が不鮮明になり,その社会的価値も見失われがちになっています.
 歯科の分野でも,公衆衛生として行う予防歯科活動と日常の歯科医療における予防歯科活動がしばしば混同されているように思えます.たとえばフッ化物製剤の局所塗布は歯科医院における日常の歯科医療で行われているため,フッ化物は多くの薬剤の一つにすぎないように見えます.しかし,公衆衛生の立場で見るとフッ化物は他の薬剤とは次元の異なる物質です.フッ化物は対象集団に対する働きかけが異なるからです.健康障害を起こすリスク因子をもつ集団のうち,より高いリスクを有する者に対して,そのリスクを削減することによって疾病を予防する方法を高リスクアプローチと呼びます.高リスクアプローチは個別にリスク予測を行う必要がありますから,公衆衛生よりも医療の中で実施しやすい手法です.たとえば抗菌剤などの薬剤は,歯科診療室における高リスクアプローチの道具として使われています.
 これに対して,集団全体でリスク因子を下げる方法を集団アプローチと呼びます.集団アプローチは集団全体に影響を与えますから公衆衛生の手法としては優れた方法です.フッ化物は集団的に用いて,世界中ですでに大きな成果を上げています.従って集団を対象とする公衆衛生ではフッ化物が特別な意味をもつのです.
 水道水フッ化物適正化water fluoridationは,人類の発見した偉大な公衆衛生的手段の一つであるともいわれ,米国のグランドラピッズで最初に行われて以来すでに60年近く実績があります.わが国においても, 13年間京都市山科地区で行われ,三重県では3年間実施された経験があります.水道水フッ化物適正化事業は,1969年,’75年および’78年のWHOの勧告を受けて世界の多くの国々で普及していますから,わが国においても公衆衛生施策におけるフッ化物の利用には常に準備しておかなければなりません.そのためには,多年にわたる内外の文献,見解,事例が,効率よくしかも系統的に自治体や関係者に提供されることが必要条件となります.
 わが国の状況を先取りして, 旭川歯科医師会が 「21世紀の8020戦略 水道水フッ素化の歩み」を作成したことはきわめて先見性があるものです.本書は,旭川歯科医師会が作成した冊子を土台にして,厚生労働省の担当者(医政局歯科保健課ならびに国立保健医療科学院口腔保健部)を中心に再編集作業を行い上梓したものです.フッ化物応用を推進していくためのガイドブックとして多くの方々に活用していただければ幸いです.
 最後に, 本書の刊行に尽力いただいた医歯薬出版(株) 編集部の牧野和彦氏,ならびにCD-ROM担当の情報統括室・加藤申命,坂井洋介両氏に深甚なる感謝の意を表します.
 2002年11月
 編者代表 花田信弘
 ■推薦文
 ■序文
 ■本書とCD-ROMの使い方

第1章 新しい時代のフッ化物応用と健康
 1.う蝕予防のためのフッ化物応用とは
   国立保健医療科学院口腔保健部長 花田信弘
 2.フッ化物応用と8020運動
   厚生労働省医政局歯科保健課長 瀧口 徹
 3.フッ化物応用のエビデンス
   国立保健医療科学院口腔保健部室長 安藤雄一
 4.フッ化物応用とヘルスプロモーション
   国立保健医療科学院口腔保健部 客員研究員 深井穫博

第2章 わが国でのこれまでの公式見解・資料
 1.国・行政
  1 う蝕予防と弗素 厚生省 1965年
  2 フッ化ナトリウムと「劇薬」に関する解説
  3 厚生省の国会答弁 1985年
  4 口腔衛生学会雑誌巻頭言 瀧口厚生省歯科保健課長 2000年
  5 「健康日本21」の目標 厚生省 2000年 HOME PAGE
  6 健康日本21各論「6.歯の保健」における目標値の一覧 厚生省 2000年 HOME PAGE
  7 水道水フッ化物添加見解 厚生省 2000年 HOME PAGE
  8 論文(公衆衛生):厚生行政の立場から21世紀の歯科保健を考える 瀧口徹 2001年
  9 歯の保健指導の手引き 文部省 1992年
  10 議会答弁集 新潟県・佐賀県 1981〜2001年 CD-ROM
  11 事業の実施要項(要綱,要領) CD-ROM
 2.専門機関・団体
  12 食品成分表におけるフッ素 五訂食品成分表 2001年
  13 歯科領域におけるフッ素利用 医師堀井教授らの解説 1980年
  14 最近の反対意見に対する解説 日本むし歯予防フッ素推進会議 1996年 CD-ROM HOME PAGE
  15 久米島問答集 沖縄県歯科医師会・沖縄県具志川村 CD-ROM HOME PAGE
  16 上水道弗素化推進に関する見解についての答申書 口腔衛生学会 1972年 HOME PAGE
  17 う蝕予防プログラムのためのフッ化物応用に対する見解 日本口腔衛生学会・フッ素研究部会 1982年
  18 口腔保健のためのフッ化物応用ガイドブック 日本口腔衛生学会・フッ素研究部会 1994年
  19 WHO報告書(1994年)に対し:就学前からのフッ素洗口法に関する見解 日本口腔衛生学会 フッ化物応用研究委員会 1996年
  20 今後のわが国における望ましいフッ化物応用への学術的支援 日本口腔衛生学会 2002年
  21 口腔保健とフッ化物応用 日本歯科医学会 1999年 HOME PAGE
  22 う蝕予防のためのフッ化物洗口実施要領 厚生科学研究班 2002年
  23 フッ化物に対する基本的見解 日本歯科医師会 1971年 HOME PAGE
  24 う蝕抑制のためのフッ化物応用に関する見解 日本歯科医師会 1977年 HOME PAGE
  25 日本歯科医師会フッ化物応用に関する見解 日本歯科医師会 2000年 HOME PAGE
 3.メディアほか
  26 久米島シンポジウム報告書:水道水フッ化物応用シンポジウム報告集 沖縄県具志川村・沖縄県歯科医師会 2002年 CD-ROM HOME PAGE
  27 最近の水道水フッ素化報道 1994〜2002年
  28 歯科医療改革案 フッ化物利用の推進 民主党WG 2001年 HOME PAGE
  29 日本におけるフッ化物製剤(第五版) 日本むし歯予防フッ素推進会議 1998年

第3章 海外でのこれまでの公式見解・資料
 1.WHO
  1 WHO第22回総会上水道弗素化の決議 1969年
  2 WHOの文献的な考察書:フッ素と人間の健康 1970年
  3 FAO,WHOヒトの栄養所要量の手引き書 1974年
  4 WHOフッ素化勧告:フッ化物添加と歯科衛生 1975年
  5 WHOの見解:フッ化物とう蝕予防 1978年
  6 WHOの専門委員会報告書:口腔保健状態とフッ化物応用 1994年
 2.FDI
  7 国際歯科連盟上水道弗素化決議1964年
  8 FDI見解:フッ化物とう蝕 2001年 HOME PAGE
 3.米国
  9 米国厚生省のレビュー(いわゆるAd Hoc Report) 1991年
  10 米国における訴訟の判例 1999年 CD-ROM HOME PAGE
  11 1900年代における米国公衆衛生の10大偉業(MMWR) 1999年 HOME PAGE
  12 水道水フッ素濃度適正化の真実 アメリカ歯科医師会 1999年 CD-ROM HOME PAGE
  13 米国栄養士会見解:健康に対するフッ化物の影響 1998年 CD-ROM HOME PAGE
  14 米国における住民投票 1998〜2000年 HOME PAGE
  15 CDC Recommendations 2001年 HOME PAGE
  16 National Kidney Foundation 2000年 HOME PAGE
  17 CDC口腔保健部長の手紙 2002年
 4.欧州
  18 英国歯科医師会の水道水弗化物添加に関する質問と答 1965年
  19 英国の医学会による検討:フッ素と歯と健康 1976年
 5.アジア
  20 韓国・健康増進法-歯科保健法 口腔衛生会誌 2002年

第4章 わが国での普及状況
 1.水道水フッ化物添加の歴史
   国立保健医療科学院口腔保健部室長 安藤雄一
 2.フッ化物洗口の普及
   国立保健医療科学院口腔保健部室長 安藤雄・  3.フッ化物歯面塗布,フッ化物配合歯磨剤
   厚生労働省医政局歯科保健課長補佐 田口円裕
   埼玉県入間東福祉保健総合センター主任 石川清子

第5章 世界の動向
 米国/ヨーロッパ/アジア諸国/その他
   日本大学松戸歯学部教授 小林清吾
   フッ化物応用に関する書籍・資料のリスト

 索引
 付録 CD-ROM(Q&A,冊子類,議会答弁,要項,リンク集)【全300頁】
 1.Q&A
  事例1 ADA(アメリカ歯科医師会)のQ&A(Fluoridation Facts)
  事例2 反対派の意見に対する解説
  事例3 厚生科学研究班作成の解説(2000)
  事例4 新潟県「フッ素洗口の手引き」
  事例5 久米島フロリデーション問答集
 2.冊子類
  1 新潟県歯科医師会:フッ素と健康・その疑問に答えて(1977)
  2 小林清吾:フッ素は発癌性と関係ない(2001)
  3 WHO:フッ化物添加と歯科衛生(1975)
  4 米国栄養士会:健康に対するフッ素の影響(1998)
 3.議会答弁
  事例1 新潟県議会
  事例2 佐賀県議会
 4.要項(要綱・要領)
  要項(要綱・要領のリスト)
  事例1 新潟県・市町村う蝕予防事業実施要綱
  事例2 富山県・むし歯予防パーフェクト作戦事業実施要綱
  事例3 京都府・フッ素による子どものむし歯予防事業費補助金交付要綱
  事例4 愛媛県・平成14年度愛媛県フッ素洗口普及事業実施要領
  事例5 佐賀県・フッ素応用むし歯予防事業実施要領
  事例6 守山市(滋賀県)・守山市フッ化物洗口事業実施要綱
  事例7 仁尾町(香川県)・仁尾町フッ素洗口事業実施要領
 5.リンク集
  組織・団体のリンク一覧