やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文

 スポーツによる顎口腔領域の外傷は,軟組織の損傷から歯の振盪,破折,脱臼,脱落,そして顎骨骨折や顎関節への障害,さらに脳振盪にまで及ぶこともあり,コンタクトスポーツ,つまり選手同士あるいは用具などとの接触を伴う可能性のあるスポーツに多くみられる.マウスガードは,これらのスポーツ外傷から顎口腔領域を保護する口腔内装置として急速に普及しはじめている.
 マウスガードの歴史は比較的新しく,初めて紹介されたのは1913年で,イギリス人ボクサーが相手のパンチから自らの口腔内を保護するために歯科医師の協力を得て考案され,使用したとしている.その後約80年間で,マウスガードは顎口腔領域のスポーツ外傷を予防する口腔内装置としてアメリカを中心に広がりをみせた.また,マウスガードの効果について,顎口腔領域のほかに脳振盪や頸部外傷の頻度とその重症度を減少させること,さらにスポーツパフォーマンスにも好影響を及ぼすこともいわれるようになってきた.
 マウスガードに関してはこれまで歯学教育に取り入れられることがなかったが,21 世紀,とりわけコンタクトスポーツにおいては,マウスガードの装着が必須というスポーツ文化としての社会のニーズに応えていく必要が生じてくるものと思われる.
 このような背景のなか,マウスガードに対して望まれるのは,まず適合性がよく,呼吸や発声などへの影響が少なく,外傷予防の効果が最も高められることであろう.つまり既製のマウスガードではなく,スポーツ選手一人ひとりに合ったカスタムメイドのマウスガードということである.われわれ歯科医師は,どのような材料で,どのような製作方法によるものが選手にとって受け入れやすいものとなるのか,さらに経済的な面も含め,多くの課題を検討し,提供していかなければならない.
 本書は,これまでの知見を基に理想的なカスタムメイドタイプマウスガードについて,基本製作法から適合性を上げるためのさまざまな工夫までをわかりやすく解説したものである.多くの臨床家のお役に立てれば幸いである.
 2002年7月1日 石上惠一
 マウスガードの基礎知識

I マウスガード
II 顎口腔領域のスポーツ外傷
 スポーツ外傷とその影響
 脳振盪
 歯の外傷
 下顎骨骨折
III マウスガードの種類と特徴
 市販マウスガード
 ストックタイプ
 マウスフォームドタイプ(ボイルアンドバイトタイプ)
 カスタムメイドタイプのマウスガード
 ラミネートタイプ
 バキュームタイプ
 埋没填入タイプ(ロストワックスタイプ)
IV 各種スポーツとマウスガード
 マウスガード装着の義務化
 危険度の高いスポーツ種目におけるマウスガードの留意点
 ボクシング,空手
 ラグビー
 ラクロス
 サッカー
 アメリカンフットボール

マウスガードのつくり方
I マウスガード製作の前準備
 問診
 一般的事項
 歯科疾患,スポーツ外傷の既往歴
 スポーツ競技の内容
 スポーツ競技の種類,ポジション
 スポーツ競技のプレー経験とレベル
 マウスガードについての希望
 ラミネートタイプかバキュームタイプか
 マウスガードの色
 マウスガードに入れる名前,ロゴなど
 検査
 前処置
 設計
 基本形態と改良点
 マウスガードの厚み
  ・前歯部唇側面
  ・咬合面
  ・臼歯部頬側面および舌側面
 マウスガードの硬さ軟らかさ
 印象採得
 模型の製作
II ラミネートタイプの製作
 (1) 1層目マウスガードの作製
    1.外形線の記入
    2.分離剤の塗布
    3.マウスガード材の加熱・軟化・加圧成型
    4.成型器での冷却・減圧
    5.マウスガード材の取りだし・取りはずし
    6.副模型の作製,主模型の咬合器装着
    7.マウスガード材の形態修正
    8.咬合調整
    9.2層目をラミネートする前の作業-適切な厚みの確保と接着力の向上
    10.2層目をラミネートする前の作業-ネームタグ,ロゴなどの付与
 (2) 2層目のラミネート
    1.2層目マウスガード材の準備
    2.2層目マウスガード材のラミネート
 (3) 2層目の形態修正
 (4) 2層目の咬合調整
 (5) 2層目の研磨・仕上げ
 (6) マウスガードの試適・最終調整
 (7) マウスガードの最終仕上げ
 (8) 完成したマウスガードの装着
III バキュームタイプの製作
 ■製作手順
  1.器材の準備
  2.外形線の記入
  3.マウスガード材の加熱・軟化・反転・吸引成型
  4.マウスガード材の冷却・取りだし
  5.マウスガード材の形態修正
  6.咬合調整
  7.研磨・仕上げ
  8.イニシャルの刻印
  9.マウスガードの最終調整・装着
IV ラミネートタイプとバキュームタイプのちがい
 (1) 加圧成型と吸引成型
 (2) 適合性
 (3) 臼歯部咬合面の厚み
V マウスガードの使用と管理
 (1) マウスガードの使用
 (2) マウスガードの管理
 (3) 使用上の注意点
ケーススタディ
 (1) 下顎前突の症例-上顎マウスガードで下顎を被覆できない場合
 (2) 前歯部の開咬症例
 (3) 叢生の症例
 (4) 歯の欠損がある症例
 (5) 硬いボールやパックを使うスポーツの場合
 (6) 歯間に空隙がある場合
 (7) 歯科矯正を行っている場合
 (8) 小児の場合
 (9) 埋没填入タイプ(ロストワックスタイプ)の製作

 マウスガード器材・取扱会社一覧
 索引