やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

推薦の辞
 臼田貞夫
 社団法人 日本歯科医師会会長

 21世紀はライフサイエンス(生命科学)やナノテクノロジーなど「夢」 が現実になる激変の世紀になると思います.時代の流れにあわせて歯科医療の世界も,国民が納得できる歯科医療をめざして大きく変わらなければなりません.
 社会保障制度の抜本的改革が進むなかで,特に私たちに直接影響する医療保険制度改革は待ったなしです.この抜本改革の一環として医療提供体制の見直しがありますが,このなかには入院医療を提供する体制の整備,医療における情報提供の推進,歯科医師の臨床研修の必修化などが方向づけられています.
 日本歯科医師会は歯科医療資源を有効に活用する視点と医療の質の確保の立場から,歯科医師需給問題に真剣に取り組む一方,高齢社会の到来に伴い,口腔介護や高齢者医療の分野での,チーム医療の実践に向けた地域歯科医療連携基盤の整備は重要と考えています.
 本書が取り上げた「コミュニティと歯科医療をつなぐ連携システムの実践」は,病診連携システムを軸にしながら,コミュニティとかかりつけ歯科医をどのように結びつけるかの実践例が多く掲載されており,今後の歯科医療提供のあり方を示唆するものと思います.
 歯科医療に対する国民のニーズが多様化・高度化してきている現在,新しい時代に相応しい歯科医師となるには私たち自身が意識改革を行わなくてはなりません.本書がその一助となれば喜ばしい限りです.
 2001年7月

序文

 病診連携の重要性が指摘され,保険診療等の諸制度に具体的に取り入れられだしてから久しい.病診連携の目に見える方策として保険診療に情報提供料が設定されたが,当時の歯科界はその意味するところをほとんど把握することができなかった.
 次に歯科界に病診連携が提示されたのは,介護保険法の創設前後にスポットの当たった「かかりつけ歯科医機能の充実とその支援」という考え方のなかで,支援の一策として病院の機能というものが出てきたときであった.
 平成7年前後から,訪問歯科診療に大きな動きがみられ,平成8年からは厚生科学研究で「口腔保健と全身的な健康」が始まり,歯科界は自らの問題として要介護高齢者をとらえだすという時期を迎えたのである.ちょうど時を同じくして,医療法の見直しがあり,地域医療支援病院の創設が厚生労働省の医療審議会で検討されだしたが,このときから歯科界は明確な問題意識をもってこの変革に立ち向かうこととなった.その結果,厚生科学研究「かかりつけ歯科医と地域医療支援病院等の連携推進に関する研究」が坂井剛主任研究者のもとで開始されることとなったのである.歯科界としては従来どちらかといえば遠いところに位置づけてきた「病院」をはじめて正面からとらえたもので,画期的な研究であった.
 本書はこの研究班の成果をもとに,さらに幅広く病院機能をとらえ,かかりつけ歯科医のもつ機能との連携のあり方を実践例を中心に掘り下げたものである.そこには国民の福祉に貢献する多くの果実があり,地域における歯科医療の展開に明日からでも活用すべき実績(経済の裏づけ)があふれている.
 平成13年度から厚生労働省は,「要介護者等歯科保健サービス基盤整備事業」を開始した.これは,病診連携の一段の進展をねらった事業である.21世紀に入って明らかとなったこのような新たな歯科界の流れに本書が十分貢献することを期待して序文としたい.
 2001年7月 編集者一同
Part-1 新たな歯科医療のあり方
 座談会/病診連携を軸にした歯科医療のあり方
  天本 宏(医療法人天翁会天本病院理事長)
  石井拓男(東京歯科大学教授)
  梅田昭夫(日本歯科医師会専務理事)
  小山秀夫(国立医療・病院管理研究所医療経済研究部部長)
  仙田 徹(品川区東大井・仙田歯科)
  梅村長生(愛知三の丸病院歯科口腔外科部長)・司会

2章 ―歯科医療分野における医療提供体制のあり方とシステム化 梅村長生 久野 淳
 全国の医療施設における病院歯科の現状
 2次医療圏における病診・診診連携のあり方
 医療提供体制の見直しと歯科医療連携システムの課題と方向
 ・資料/全国の医療圏ごとの病院,歯科診療所における歯科医師数1人あたりの人数(人口)

3章 ―かかりつけ歯科医の重要な機能とその支援体制
 かかりつけ歯科医とは 瀧口 徹
 ・住民および歯科医師の求めるかかりつけ歯科医機能
 ・かかりつけ歯科医機能の公的評価(社会保険歯科診療報酬)
 かかりつけ歯科医が求める支援とは 西川 伸 坂井 剛
 ・厚生科学研究の調査設計
 ・「かかりつけ歯科医」の支援体制および病診連携に関するアンケート調査
 ・今後の課題と展望

4章 ―地域歯科医療の視点からみた病院歯科の機能
 総論・地域医療支援病院とは―歯科界が病院をどう有効活用すべきか 瀧口 徹
 病院歯科の役割と現状-愛知県の分析結果から 竹内 学
 ・病診連携に向けて変貌する病院機能
 ・名古屋第二赤十字病院における病診連携
 ・愛知県における病院歯科アンケート結果の分析
 ・課題と提言
 大学附属病院の歯科機能 江面 晃
 ・大学附属病院の位置づけ
 ・大学附属病院の支援機能
 ・新潟県における病診連携の現状
 ・病診連携推進のためには

5章 ―地域医療における医科歯科連携のあり方 鍋島史一
 要介護高齢者からみた医療連携
 地域医師会における病診連携の基盤整備
 ・医療連携の必要性
 ・人,組織,地域
 ・福岡市概要
 ・福岡市東区歯科医師会のネットワーク
 ・データベース構築
 ・将来戦略
 医療・介護の現場から歯科に求められていること
 ・「食べる」行為のアセスメント
 ・医療・介護現場での食事介護システム
 ・「食べる」リハビリのシステム
 ・地域への啓蒙

Part-2 連携システムの実践

6章 ―都立荏原病院歯科口腔外科の取り組み 佐野晴男
 都立荏原病院
 コラム 病院の開設にあたって 斉藤好平
 連携医制度への取り組みと成果
 ・開院以来の成果
 ・医療連携・最重点課題
 ・医療連携室
 コラム 都立荏原病院との病診連携について 倉治康男
 歯科口腔外科の基本方針・規模
 ・地域との共存共栄
 ・設備・スタッフ
 ・受診患者の分析
 考察
 ・患者別のニーズ・病院歯科に求められるもの
 ・相手の立場の理解
 ・大学に求められるもの
 ・地域歯科医師会に求められるもの
 ・おわりに
 開業医としての病診連携への取り組み 細野 純
 ・歯科診療所の入口機能と出口機能の見直し
 東京都の行政の現場からみた病診連携 矢澤正人

7章 ―兵庫県および神戸市立病院での取り組み 足立了平
 神戸市民病院での取り組み
 ・「市民病院群」という発想
 ・神戸市民病院の病診連携システム
 兵庫県での取り組み
 ・兵庫県病院歯科医会の設立
 ・兵庫県歯科医師会との調和のとれた関係
 ・地域医療システム化による役割分担
 ・地域が育てる病院歯科
 病診連携先進県における病院歯科の役割
 コラム 21世紀に期待される病院歯科の役割 田中義弘
 ・地域保健・医療・福祉のなかで病院歯科に求められるもの

8章 ―歯科における2次医療の需要を考える 神谷祐司
 報われた10年間の連携努力―姫路赤十字病院歯科口腔外科
 ・理想の2次医療機関をめざして
 ・みんなが育てる病院歯科
 10年間の統計的観察
 ・拡大する歯科の2次医療の需要
 私たちがめざす病診連携の方向
 ・高齢社会に向けて
 ・臨床研修の場として

9章 ―国立病院歯科における病診連携 柿木保明
 国立療養所南福岡病院歯科における病診連携の取り組み
 国立病院歯科における病診連携
 ・国立病院と政策医療
 ・政策医療の対象となる患者
 ・歯科と政策医療
 国立病院等における歯科の現状
 今後の病診連携について

10章 ―地域に喜ばれる歯科医療提供をめざして 伊東隆利
 有床歯科施設としての25年間の活動―連携の足跡
 歯科医療提供体制の見直しが必要
 新たな歯科保健・医療・福祉の文化の創造

11章 ―日之出歯科真駒内診療所での取り組み 工藤憲生 川田 達
 当診療所での入院下歯科治療
 ・入院下歯科治療の実際
 訪問歯科診療の問題点
 ・後方支援医療機関の必要性

12章 ―歯科医療連携推進モデル事業(厚生労働省)の取り組み 岡 宏
 埼玉県における要介護者等の歯科医療の現状
 ・障害者(児)の歯科医療
 埼玉県における要介護者等の歯科医療にかかわる病診連携の課題
 ・要介護者等歯科治療連携推進モデル事業

13章 ―まちづくりからみたコミュニティ 佐々木昇
 まちづくりと保健・福祉・医療
 ・病診連携のゴール
 ・“街づくり“と“まちづくり”
 医療とまちづくり
 ・医療などのケアサービスの高度化により地域住民が安心して暮らせるまちづくり
 ・医療などのサービス産業の振興による地域活性化

文献
索引