やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 現在,オールセラミックスの需要は拡大傾向にあります.その背景として,患者の審美的な要求が高くなったこと に加えて,金,白金,パラジウムなどの金属価格の高騰が考えられます.
 オールセラミックスの中心となっているのは,ジルコニアです.ジルコニアはフレーム材として曲げ強度が高く,フルブリッジにも適応できるなどの利点をもつ反面,CAD/CAMなどの設備投資が大きかったり,天然歯と比較して光透過性に劣るなどの欠点もあります.現時点では,インレー,アンレーなどの内側性の修復物では,適合の問題も認められます.
 そこで,私が注目しているのがプレステクニックです.慣れ親しんだ技工操作であるロストワックス法を応用して,透過性の高いオールセラミックスを製作できます.複雑な形態も再現でき,しかもメタルに匹敵する適合を得ることができます.プレステクニックは,歯科技工士の力量を最も発揮できる技術の一つであると思います.
 たしかに,CAD/CAMシステムをはじめとする歯科技工のデジタル化は,歯科技工の未来に向けての進化の過程で望むべき方向性であると思います.しかし,ものづくりやデザインすることのおもしろさや喜びは薄れてきているように感じています.デジタルは精密で正確で便利ではあるけれど,「ものづくりのおもしろさ」を奪ってしまわないか,若い歯科技工士の離職率を高めることにはならないかと危惧するのは私だけでしょうか.
 できることなら若い歯科技工士の方々にプレステクニックに取り組んでいただきたい,興味をもっていただきたいと思い,本書を出版するに至りました.経験や実験から会得した各作業工程におけるヒントやアドバイス,陥りやすい失敗への対応・対策を,豊富な絵や写真を用いながらまとめています.読者には興味のあるところから読めるような工夫もこらしています.
 適合,形態,機能,審美と,プレステクニックには技工本来の難しさとおもしろさの要素がすべて詰まっていると思います.プレステクニックをマスターすることで,ジルコニアワークやメタルワーク,デジタル技工にも技術の多くが応用可能になると思います.プレステクニックをマスターして歯科技工という仕事の醍醐味を味わっていただくために,本書がお役に立てば幸いです.
 2015年2月
 川端利明
 オールセラミックスの歴史
 プレステクニック 失敗しないために知っておかなければならないこと
基本編
 オールセラミックスの分類
  成形法による分類
  結晶構造の違いによる分類
 プレスセラミックスの製作法
  プレステクニックってどんな技工なの? 鋳造とプレスの違い
 プレス材料の分類
  プレスセラミックスにはどんなものがあるの? 使用法(術式)による分類
   プレスセラミックス単体で使用するもの
   ジルコニアの上にプレスするもの(ジルコニアオンプレス)
   メタルの上にプレスするもの(メタルオンプレス)
  プレスセラミックスって壊れないの? 理工学的特性(結晶構造)による分類
   リューサイト結晶を分散したもの
   二ケイ酸リチウム結晶を分散したもの
  ジオプサイド結晶を分散したもの
  プレスセラミックスでどんな修復物がつくれるの? 補綴方法による分類
   修復物の種類による分類
   製作法による分類
 支台歯形成
  プレスセラミックスに必要な支台歯形成とは?
   クラウン,ラミネートベニアの形成
   インレー,アンレーの形成
   ブリッジの形成
 必要な機材
  プレステクニックを始めるには何を用意すればよいの?
   プレスファーネス
   埋没材
作業編
 模型製作
  印象の取り扱い
   アルジネート印象
   シリコーンゴム印象
  ジロフォームシステムの使用
 ワックスアップ
  スペーサーの塗布
   インレー,アンレー,ラミネートベニアの場合
   クラウン,ブリッジの場合
  ステイン法のワックスアップ
   プレステクニックに適したワックスの条件
   インレー,アンレーのワックスアップ
   クラウン,ブリッジのワックスアップ
   インレー,アンレーの窩洞形成とワックスアップの例
   不適切なインレー,アンレーの窩洞形成とワックスアップの例
  レイヤリング法のワックスアップ
   クラウンのワックスアップ
   ブリッジのワックスアップ
 スプルーイング
   スプルー線植立の基本ルール
   スプルー線植立の応用
   ブリッジのスプルー線植立の基本ルール
   リングとワックスパターンの位置関係における注意点
 埋没
  リン酸塩系埋没材での埋没
 プレス工程
  リングファーネスでの加熱
  プレス
 掘り出し
   ディスポーザブルプランジャーの場合
 反応層の処理
 調整
  内面の調整
   インレー,アンレー,ラミネートベニアの調整
   クラウン,ブリッジの調整
  外面の調整
   水冷式のエアタービンを使用した調整法
   ハンドピースを使用した調整法
 レイヤリング法
  前歯部の築盛
  前歯部レイヤリング法の製作ステップ
   コアステインによる色調調整
   一次焼成
   二次焼成
   形態修正(表面形状の再現)
   研磨
   つや出し
 ステイン法
  前歯部ステイン法の製作ステップ
   ワックスアップ
   内面と外面の調整
   形態修正
   表面形状の付与
   ステイニング
   表面形状の再付与
   研磨
  前歯部ステイン法での色調表現
   若年代のイメージ
   中年代のイメージ
   老年代のイメージ
  臼歯部ステイン法の製作ステップ
   スプルーカット
   内面の調整
   マージン部の調整
   外面の調整
   ステイニング
トラブル編
 プレスの失敗
  異物の混入
   ワックス,ガスの混入
   埋没材の混入
  フレームの穴
  埋没材のクラック
   埋没材の強度不足
   埋没材の温度変化
   セッティングミス
   低すぎるプレス温度
   過剰なプレス圧
   長すぎるプレス時間
  なめられ,バリ
  支台歯部の破折
  プレス体のクラック
   掘り出し時のクラック
   プレス温度のミス
 適合の失敗
  アンダーマージン,オーバーマージン
  入らない,大きい
   クラウンの場合
   ブリッジの場合
  浮き上がり
 ポーセレン焼成時の失敗
  ポーセレンの焼き割れ
   フレームの形態と焼き割れの関係
  異物の混入
  色調の不良
  フレーム用のペレットとレイヤリングポーセレンの組み合わせ
 表面性状の再現の失敗
  表面形状の違い
  光沢度(ラスター)の違い
 ステイニングの失敗
  色調の不良
  クリスタルアイを使用した色調の調整
  ステイン焼成後の摩耗
 装着時の失敗
  色調の不良
  口腔内での破折

 プレスがつなぐ歯科技工の仲間たち
  当コラムでは,筆者が研修会などを通じて知り合った8 名の歯科技工士に,歯科技工士の魅力や夢を語っていただいています.
   (1)林 貴世彦氏
   (2)小林 裕氏
   (3)安藤 幸治氏
   (4)斎藤 健司氏
   (5)北御門 正幸氏
   (6)磯谷 貴幸氏
   (7)千田 哲也氏
   (8)舟木 寿美男氏