やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 近年の矯正歯科治療は,治療技術や材料の開発に伴う新しい治療法が生まれ,特にマルチブラケット装置やダイレクトボンディング法を用いた手法については目覚ましい進歩,発展を遂げてきている.これに加えて,最近では絶対固定源の概念が導入され,固定源の考え方の変化による治療システムの再構築が検討されつつあり,矯正歯科治療のさらなる発展が期待されている.
 一方で,欠損部への補綴治療や歯周治療などにおける矯正歯科的配慮が治療の質的向上に大いに役立つことが周知の事実となっているほか,学校検診において不正咬合が診査項目として加わっているように,就学前の子どもたちや小・中学生の不正咬合への対応が重要性を増してきたため,一般歯科を中心とした診療体系にある歯科医師もその対応に迫られる機会が多くなり,これまで以上に矯正歯科治療の内容に関心をもたざるを得ない状況になってきている.また,歯科医師過剰時代といわれて久しいなか,若い歯科医師は,得意分野を備えて地域に貢献できる歯科医師となるよう修練に励んでおり,その得意分野の一つとして矯正歯科治療を位置づけているようにも感じられる.
 矯正歯科治療は,歯科治療のなかでもいくつか特殊な部分があり,そのなかでもっとも大きなものは矯正装置を用いて不正咬合を改善するということである.そこで,われわれは2004年11月に『チェアサイド・ラボサイドの矯正装置ビジュアルガイド』を医歯薬出版より発刊し,各種不正咬合の治療を円滑に行うために用いる主要な矯正装置について,各装置の基本構成と作製手順,実際の使用方法,技工依頼に際しての注意点や適応症を,具体的に症例を呈示しながら解説を行った.その解説にあたっては,矯正装置が治療にどのように反映されるかをより視覚的に示すことで,患者に接する機会の少ない歯科技工士のみならず,臨床経験の不足しがちな歯科医師が技工物の作製を依頼・指示する際の参考となるように十分配慮した.また,参考症例,矯正装置の双方向から検索できるよう利便性にも配慮を加えた構成とすることで,日々の臨床の傍らですぐに役立つよう心がけた.その甲斐あってか,これまで多くの読者に支持され,日々の臨床に活かされているようで,われわれとしても望外の喜びを感じている.
 本書は,これに続くものとして,前巻では収載できなかった矯正装置(乳歯列期の拡大装置,大臼歯の遠心移動用の装置,保定装置など)について,前巻と同様の観点に基づいて構成したものである.矯正歯科を専門に学ぼうとする若い歯科医師のみならず,今後,矯正歯科治療を積極的に日常臨床に取り入れようとされている歯科医師ならびに歯科技工士の皆様には,ぜひとも前巻と合わせてそろえていただき,矯正歯科に関するバイブルとしていただければ幸いである.
 2009年11月
 後藤滋巳
 氷室利彦
 槇 宏太郎
 石川博之
Part1 乳歯列期・混合歯列期の矯正治療の進め方(ガイドライン)(後藤滋巳,宮澤 健)
 1.乳歯列期・混合歯列期の治療
 2.乳歯列期・混合歯列期の不正咬合
 3.各種不正咬合への対応
Part2 この症例にこの装置
 1.交叉咬合の改善に乳歯急速拡大装置を用いた症例
 2.狭窄歯列の改善にβチタンワイヤー拡大装置を用いた症例
 3.過蓋咬合を伴う下顎後退による骨格性上顎前突の改善に咬合斜面板を用いた症例
 4.リーウェイスペースの獲得にリップバンパーを用いた症例
 5.アングルII級の大臼歯関係の改善にペンデュラム装置を用いた症例
 6.開咬を伴う上顎前突の改善にヘッドギアを用いた症例
 7.上顎骨劣成長による下顎前突の改善に上顎前方牽引装置を用いた症例
 8.下顎の機能的前方位を伴う骨格性反対咬合の改善にチンキャップとスライディングプレートを用いた症例
 9.動的矯正治療後の保定にボンディングリテーナーを用いた症例
 10.上顎前突と叢生の改善にダイナミックポジショナーを用いた症例
 11.舌癖に起因する開咬の改善にタングガードを用いた症例
Part3 各種矯正装置の作製方法と適応
 1 乳歯急速拡大装置(宮澤 健,春上雅之,後藤滋巳)
  1.装置の構成 2.適応症 3.作製手順 4.技工指示書記入時のポイント 5.症例 6.装置の応用について 7.装置使用における留意点
 2 βチタンワイヤーを用いた拡大装置(黒澤昌弘,後藤滋巳)
  1.装置の構成 2.適応症 3.作製手順 4.技工指示書記入時のポイント 5.症例 6.装置の応用について 7.装置使用における留意点
 3 咬合斜面板(中村真治,氷室利彦)
  1.装置の構成 2.適応症 3.作製手順 4.技工指示書記入時のポイント 5.症例 6.装置使用における留意点
 4 リップバンパー(玉置幸雄,石川博之)
  1.装置の構成 2.適応症 3.作製手順 4.技工指示書記入時のポイント 5.症例 6.装置使用における留意点
 5 ペンデュラム装置(秦 雄一郎,石川博之)
  1.装置の構成 2.適応症 3.作製手順 4.技工指示書記入時のポイント 5.症例 6.装置使用における留意点
 6 ヘッドギア(竜 立雄,氷室利彦)
  1.装置の構成 2.適応症 3.作製手順 4.技工指示書記入時のポイント 5.症例 6.装置使用における留意点
 7 上顎前方牽引装置(固定式リンガルアーチタイプ)(田渕雅子,春上雅之,後藤滋巳)
  1. 装置の構成 2.適応症 3.作製手順 4.技工指示書記入時のポイント 5.症例 6.装置の応用について 7.装置使用における留意点
 8 スライディングプレート(久永 豊,石川博之)
  1.装置の構成 2.適応症 3.作製手順 4.技工指示書記入時のポイント 5.症例 6.装置使用における留意点
 9 ボンディングリテーナー(固定式保定装置)(浅間雄介,槇 宏太郎,百瀬之男)
  1.装置の構成 2.適応症 3.作製手順 4.技工指示書記入時のポイント 5.症例 6.装置使用における留意点
 10 ダイナミックポジショナー(中島 還,槇 宏太郎)
  1.装置の構成 2.適応症 3.作製手順 4.技工指示書記入時のポイント 5.症例 6.装置使用における留意点
 11 タングガード(床タイプ)(藤川泰成,百瀬之男,槇 宏太郎)
  1.装置の構成 2.適応症 3.作製手順 4.技工指示書記入時のポイント 5.症例 6.装置使用における留意点

 付 既製の矯正装置(名和弘幸,後藤滋巳)
  TRAINER SYSTEMTM/オーソテイン(R)/プリフィニッシャー(R)
 参考文献
 使用器材
 索引
 執筆者一覧