やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

推薦の序

 厚生省健康政策局歯科衛生課長 佐治靖介

 本格的な高齢化社会を迎えるなか,歯科医療における歯科技工物の需要はますます増大し,今後とも歯科技工業務を担う歯科技工士の役割はいっそう大きなものになると思われる.それに伴い資質の高い歯科技工士の養成確保が重要な課題となっている.
 1955年(昭和30年)の歯科技工法制定以来,時代の要請に合わせて種々の見直しが行われてきた.厚生省においては「歯科技工士養成の改善等に関する検討会」(座長:林都志夫)が1990年(平成2年)12月に設置され,高度な技術水準を有する資質の高い歯科技工士を適正に確保していくため,今後の歯科技工士養成のあり方について幅広く検討が重ねられ,1992年(平成4年)3月報告書が提出された.その結果として歯科技工士養成所指定規則の一部改正ならびに歯科技工士養成所教授要綱の改正が同年12月に行われたところである.
 また,歯科技工士が免許取得後に活躍する就業場所として歯科診療所や病院の歯科技工室と並んで歯科技工所があるが,近年その作業環境や管理運営状態が問題化されてきており,1992年(平成4年)12月には「歯科技工所運営に関する検討会」が設置され,歯科技工所の設備構造基準から廃棄物処理等に至るまで幅広く検討が行われ,1993年(平成5年)7月報告書が提出された.
 このような時期において全国歯科技工士教育協議会はじめ関係各位の御尽力により,歯科技工士養成所指定規則の学科課程に準拠し,従来の教本を見直し,歯科技工士教本が出版の運びとなったことは誠に意義深く,心からお慶び申し上げる次第である.
 本書が教育関係者や学生諸君に十分活用され,適正かつ充実した教育が実施されることにより,新しい時代に適応した資質の高い歯科技工士が輩出されることを念願し,推薦の序としたい.
 1994年1月20日

発刊の序

 歯科技工士養成所指定規則の改定・改正,さらに歯科技工士試験出題基準の作成に伴い,全国歯科技工士教育協議会は歯科技工士教本を過去2回にわたり編集,発刊してきた.
 前回の歯科技工士教本は1989年春にそのほとんどが発刊された.
 全国歯科技工士教育協議会は1989年より「歯科技工士教育改善検討委員会」を設置し,教育内容,養成年限,養成者数などについて検討してきた.
 一方,厚生省においても上記と同様の主旨で「歯科技工士養成の改善等に関する検討委員会」(委員長:林都志夫)が設置され,1992年3月に報告書がまとめられた.これに基づき1992年12月には歯科技工士養成所指定規則が改定された.この改定によって歯科技工士教育の教授要綱が改められた.新教授要綱では総授業時間数2200時間は変更がないものの,新科目の設置,科目の再編および選択科目の設置が行われた.
 さらに,これまでの「歯科技工法」が1994年2月2日(公布)「歯科技工士法」に改められ,同時に同法の第14条が改正された.このことはこれまで,厚生省管轄の歯科技工士養成所によってのみ行われてきた歯科技工士の養成が,今後は文部省管轄の歯科技工士学校によっても行われることを意味する.
 そこで全国歯科技工士教育協議会としては「教科書編集等に関する検討会」を主体として今回の歯科技工士教本の発刊にあたり,これら歯科技工士の養成を取り巻く環境の変化に対応するべく,科目間の再編を含む目次だての検討,著者の選出を慎重に行ってきた.
 執筆者諸氏にはこのような経過に対する深いご理解と早期発刊にむけての真摯なご努力をいただき,今回の歯科技工士教本発刊のはこびとなった.
 このように,時代に即して編集された新しい教本であるので,歯科技工界の将来を担う有望な歯科技工士を養成するために教育の現場で十分活用されることを期待する.
 最後に,教本の執筆者の方々に対して感謝申し上げるとともに,出版にあたられた医歯薬出版株式会社に深く謝意を表する.
 1994年2月10日 全国歯科技工士教育協議会 会長渡辺嘉一

序文

 歯科技工士教育の内容については,各教科とも厚生省令で教授内容が定められているが,従来の『美術概論』は教授内容が明確に定められていなかった.そこで『美術概論』の授業は,多くの歯科工士学校では,一般的な美術教育を行ってきたようである.
 このたびカリキュラムが装いを新たにし,『造形美術概論』として開始されるにあたり,本書が発行されることとなった.ただ単に一般的な美術教育だけで終わらせるのではなく,少なくとも歯科技工士学校の学科としてふさわしいものになるよう,この教科により積極的に取り組むよい機会ととらえたい.
 すなわち,歯科技工士が修復物などを製作する際に,直接あるいは間接的に役立つ美的な感覚の養成にこの科目の目的を置くことが,歯科技工士学校における『造形美術概論』をより効果的なものにするのではないかと思う.歯科技工士は,修復物の製作を通して,機能を回復するとともに顔貌を再現することに携わる職業である.したがって,人間の顔,さらには個性と深いかかわりをもっているといえる.造形美術における人物表現でも,顔と個性のもつ意味は重要である.『造形美術概論』を契機として,造形美術と歯科技工の関係に気づき,今後も自ら美的な感覚を磨く姿勢を培っていってほしいと思う.
 こうした理念に基づき,本書の構成は以下のようになっている.1章から5章では,造形美術の概念,形,色,光による対象の見え方,把握,表現など造形美術の基本を,6章から8章では顔と歯との関係を中心に記述した.なお付録では,「実習案」としてスケッチなどを記載しているので参考とされたい.
 最後に,本書の発行に当たって,1章から5章および6章の一部をご執筆いただいた共著者の高橋彬先生に心からお礼を申し上げたい.また,執筆の機会を与えてくださった全国歯科技工士教育協議会ならびに医歯薬出版株式会社の編集担当者に深く謝意を表する.
 1995年3月20日 上野乃武彌
1 造形美術とは……1
 1.造形美術の概念……1
   1.人はなぜ美を感じるか……1
   2.造形美術とは何か……2
 2.絵画の表現と鑑賞……2
   1.絵画の技法と表現……2
   2.絵画の分類……4
   3.絵画の鑑賞……6
 3.彫刻,工芸,建築の表現と鑑賞……8
   1.彫刻の技法と表現……8
   2.工芸の技法と表現……10
   3.建築の技法と表現……11
 チェックポイント……12
2 対象の把握……13
 1.対象はどう見えるか……13
   見ることのメカニズム……13
 2.対象はどう把握されるか……13
   1.恒常視……14
   2.散漫視と集中視……15
   3.静止しているものと動いているものの見え方の違い……15
   4.ものを見るということ……15
 チェックポイント……16
3 形態の把握と表現……17
 1.視覚的把握と触覚的把握……17
   1.視覚的把握と触覚的把握のしくみ……17
   2.形の認識……18
 2.均斉,比例……18
   1.均斉(対称性)……18
   2.比例(プロポーション)……19
 3.点と線,面と空間,量感,質感……20
   1.点と線……20
   2.面と空間……21
   3.量感(ボリューム)……21
   4.質感……22
 チェックポイント……22
4 色彩の把握と表現……23
 1.光と色……23
   1.光とは何か……23
   2.光と色の関係……23
 2.色の把握……24
   1.色覚……24
   2.色の3要素……25
   3.色立体……25
   4.トーン……25
 3.混色と補色,色の対比……26
   1.混色と補色……26
   2.同時対比と継時対比……26
 4.光と影……27
   光と影の役割……27
 5.配色……28
   1.配色とは……28
   2.配色の表現効果……28
 チェックポイント……29
5 形態と色彩の統合的な把握と表現……31
 1.形態と色彩の同時把握……31
   1.形態と色彩の同時把握と脳の働き……31
   2.造形美術にいかされる形態と色彩の表現……31
 2.錯視(イリュージョン)……32
   1.錯視の分類……32
   2.錯視はなぜ起きるのか……33
 チェックポイント……34
6 顔の観察……35
 1.顔の観察をする前に……35
   1.造形美術と顔のかかわり……35
   2.顔の社会的認識……35
 2.顔の構成……36
   相貌的顔と解剖学的顔……36
 3.顔の表情……38
   1.表情とは……38
   2.表情と表情筋……39
 4.顔の対称性……42
   顔の対称と非対称……42
 5.人種,性別,年齢による顔の違い……43
   1.人種による顔の違い……43
   2.性別,年齢による顔の違いと個性……45
 チェックポイント……47
7 歯の観察……49
 1.歯の観察をする前に……49
 2.個性と歯の形態,色調……49
   1.歯と性別……50
   2.歯と性格……50
   3.歯と年齢……50
 2.歯の色の見え方……52
   1.歯の白さと内部構造……52
   2.演色性と条件等色……52
   3.光の反射と透過……53
   4.歯の色調観察……54
 チェックポイント……55
8 歯を作る……57
 1.歯,歯列の自然な美しさ……57
   1.口唇と歯並び……57
   2.歯並びと並進対称性……58
 2.歯,歯列と錯視……60
   1.錯視を利用して歯を作る……60
   2.歯を作るために……60
 チェックポイント……62

〔付録〕実習案……63
参考図書……67
講義の進め方目安例……68
さくいん……69