やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文

 近年,高分子化学や界面解析法の発達に伴い,歯質やセラミックスに強固に接着する新素材,新技術が開発され,従来からの補綴法を一変するような手法としてポーセレン・ラミネート・ベニア・テクニックが広く臨床応用されるようになってきた.
 ポーセレン・ラミネート・ベニア・テクニックは,従来の歯冠修復法に比べていくつかの大きな利点を有している.その一つは,歯質の切削量が比較的に少なくてすむことから,象牙質に対する損傷を最小限にとどめることができることである.また,上顎歯のみの修復ですむような例では,アンテリア・ガイダンス,すなわちその人固有の前方指導要素を変えることなく修復することができ,顎機能の障害をまねくような危険をあらかじめ回避することができる.
 いまや,審美修復に対する患者のニーズはますます高度になり,かつ多様になってきている.ポーセレン・ラミネート・ベニアによる修復においては,何年かの経過のなかでもしトラブルが生じたとしても,支台歯形成をし直し,ジャケット・クラウンやセラモメタル・クラウンに置き換えるという対応が可能である.さらに,本書で呈示した症例のように,それらの修復物とのコンビネーションによる修復においても,少しも違和感のない優れた審美性を獲得することができる.その意味で,本法は審美修復の幅を大きく拡げるものといっても過言ではなく,多様な患者のニーズに応えるためにもぜひとも習得していただきたいテクニックだと考えている.
 本書は,このポーセレン・ラミネート・テクニックを大きく診療室と技工室のステップに分け,8年以上の経過に基づく豊富な臨床例を提示しながら,わかりやすく解説した実践のための書である.全体の構成は,理論的背景,臨床上,技工上の要点や Q & Aを簡潔に本文にまとめ,写真と図説の流れで手技の実際や材料,器具の解説を行い,わかりやすい構成を意図した.
 本書のもう一つの特徴としては,本領域における技工の第一人者であり,本書の臨床例の大半の技工を担当していただいた三善由高氏を著者にむかえて,技工のステップを詳細に,わかりやすくご執筆いただいた点である.あらゆる補綴物と同じく,本テクニックもその成否の多くを技工の技術に負っており,本書の優れた解説とみごとな手技によって,歯科医師と技工士のコミュニケーションの参考になることはもちろん技工室での実践の書ともなりえていると確信している.
 さらに,最終章では,さまざまな主訴で来院した患者の症例を提示して,本テクニックの適応のヴァリエーションとトラブル対応の実際を示した.巻末には,「ポーセレン・ラミネート・ベニアとはこんな修復法です」と題して,来院した患者に直接本テクニックを説明できるようなグラフを付し,臨床応用の便宜をはかった.
 一人でも多くの臨床家,歯科技工士の諸氏に,ぜひとも1冊手元に置いていただき,よりよい審美修復の一助としていただければ幸いである.
 最後に,本書がここに至るまで,写真撮影をはじめとして多大の労を払ってくれた遠山佳之(静岡市開業),小城研二をはじめとした医局員の諸氏,また早稲田歯科技工トレーニングセンターの諸氏ならびに医歯薬出版株式会社の担当諸氏に,心から感謝の意を表する.
 1993年11月20日 横塚繁雄
  ポーセレン・ラミネート・ベニア・テクニックとは……1
  ポーセレン・ラミネート・ベニア・テクニックとは……2
  上下顎3〜33〜―3を修復した例……2
  ポーセレン・ラミネート・ベニアのニーズ……2
  ラミネート・ベニア・テクニック発達の歴史……4
  ポーセレン・ラミネート・ベニア・テクニック成立の要件……7
  ポーセレン・ラミネート・ベニア・テクニックの利点・欠点……11
  ポーセレン・ラミネート・ベニア・テクニックの適応症……14
  ポーセレン・ラミネート・ベニア・テクニックの禁忌症……15
診療ステップ I ……17
  術前の診査と処置……18
  歯面清掃,歯石除去,ポケット診査……18
  齲蝕の処置……18
  スタディ・モデルの製作……19
  咬合診査……19
  シェード・テイキング……19
  術前の写真撮影……21
  支台歯形成……23
  形成に際しての条件……23
  エナメル質の厚み……25
  形成量と歯冠部のカントゥア……25
  歯冠部の形成および歯頚部マージンの設定位置……26
  隣接面部マージンの設定位置……27
  マージンの形態……28
  切端の形成……29
  切端部を被覆するか否かの選択基準……29
  切削用具……30
  切削面の処理……30
  形成時の麻酔について……31
  模型で示す支台歯形成の順序とポイント……32
  印象採得……35
  印象採得に際して留意すべき点……35
  テンポラリー・シェルの製作……38
  テンポラリー・シェルの必要性……38
  製作法の種類……38
  仮着剤の選択……40
  ポーセレン・ラミネート・ベニアの製作……41
  ポーセレン・ラミネート・ベニアの製作……42
  耐火模型の製作……42
  ポーセレン・ラミネート・ベニアとは……42
  適応症とポーセレン・シェルの製作上の要点……44
  製作法の種類……44
  耐火模型での間接作業模型の製作……47
  チャネル・トレーを用いた耐火模型の製作……47
  色調改善法とマスキング……55
  ポーセレン・ラミネート・ベニアの基本的色調改善法……55
  マスキング・ポーセレンの築盛 築盛例……155
  ポーセレン・ラミネート・ベニアの構造と色調……61
  歯冠色ポーセレンの築盛と層構成……62
  築盛とポーセレン・シェルの製作……65
  歯頚部色ポーセレンの築盛……65
  象牙色ポーセレンの築盛……67
  エナメル色ポーセレンの築盛……70
  形態修整……73
  ポーセレン・シェルの完成……77
  築盛例2 微妙な変色,着色例でマスキングを必要としない築盛例……81
  築盛例3 天然色調歯の築盛例……84
診療ステップ II ……89
  接着システムとシェルの装着……90
  接着の構造とシステム……90
  ポーセレン・ラミネート・ベニアの接着の構造……90
  ポーセレン・ラミネート・ベニア用低粘度コンポジット・レジンの性質……91
  ボンディング剤の効果……92
  歯質側被着面処理……93
  ポーセレン・シェルの内面処理……96
  試適に伴う汚染対策……98
  接着操作の実際……101
  接着前の被着面処理……101
  ポーセレン・シェルの装着……103
  シェル装着後の咬合調整……104
  余剰レジンの除去と隣接面の研磨……108
  メインテナンスとリコール……111
  メインテナンスとリコール……112
  メインテナンス上の注意点……112
  術後のトラブルとその対応……113
  臨床例にみるさまざまな対応……117
Case I〜XII
  破折歯を修復した例……118
  コンポジット・レジン直接法によるラミネート・ベニア修復をやり直した例……121
  変色と歯間離開のみられた例……123
  変色が歯頚部寄りに限局している例……125
  エナメル質石灰化不全による白濁が前歯部全体にみられた例……126
  矮小歯を修復した例……128
  ジャケット・クラウンとの併用例……1130
  ジャケット・クラウンとの併用例……2132
  ジャケット・クラウンとの併用例……3134
  軽度の捻転と変色のある歯を修復した例……1136
  軽度の捻転と変色のある歯を修復した例……2138
  メタル・セラミックスとの併用例……139
  患者説明カラーグラフポーセレン・ラミネート・ベニアとはこんな修復法です……141

参考文献……149
索引……152