第2版の序文
高齢社会を迎えようとしている今日,歯や口腔の疾患以外に内科疾患をもつ患者や,診療に際して特別な介護を必要とする患者が歯科を受診する割合が増加している.このような疾患構造の変化に対応するために,病院の歯科・口腔外科ばかりでなく一般の歯科診療所においても,寝たきり高齢者の訪問診療など,歯科診療の内容に大きな変革が求められている.これまでの歯科診療は口腔全体を視野に入れて,いわゆる“一口腔単位“でバランスのとれた診療を行うことを目標としてきた.しかしこれからは,全身疾患をもった患者の歯科診療を行う機会が増えるので,さらに患者の全身状態をも考慮して“一個体単位”で行うものへと歯科医師の視野を拡大する必要がある.
歯科医師のパートナーである歯科衛生士に対しても,歯科予防処置,歯科診療補助,歯科保健指導だけではなく,患者の精神面をも含めて全身状態にも目を向けることが求められるようになってきた.
これからは,歯科衛生士が,病院の歯科・口腔外科に勤務したり,保健所や市町村などの地域保健活動に従事したり,また一般の歯科診療所に勤務していても地域医療の場で活動する場合には,看護婦と共同作業を行う機会が増えてくる.
看護婦は,医師のパートナーとして種々の全身疾患をもつ患者の看護業務を行ってきた長い歴史があり,そのなかで,人の死を看取ったり誕生に立ち会ったりといった重要な役割を果たしてきた.今後は,歯科衛生士も看護婦との共同作業を円滑に行うために,看護学のなかの重要な部分を学んでおくことが必要である.
歯科衛生士養成施設の教員を対象としたアンケート調査においても,21世紀に生じる社会的ニーズに応えるために,歯科衛生士の教育に看護および介護に関する教育を取り入れる必要性が強調されている.
本書の初版は,幸いにして多くの歯科衛生士学校・養成所で使われ,歯科衛生士が最小限知っておきたい看護の知識を習得するのに一定の役割を果たしてきた.しかしながら発行後12年の月日もたち,(歯科)医療や歯科衛生士を取り巻く環境も変化してきたことなどから全体的な見直しを行い,改訂版を発行することになった.
そのようなことから本書では,まず病院における歯科衛生士の役割はどのようなものかについて述べ,ついで看護の概念,歯科衛生士にも必要な基本的な看護技術や看護実務についてわかりやすく具体的に解説し,最後に,地域医療活動における歯科衛生士の役割についても言及した.また,付章として,関連する主要な法律を巻末に掲載した.
21世紀の歯科医療の一翼を担う歯科衛生士にとって,本書がおおいに役立つことを心から願っている.
なお本書の執筆は,1章を野間,2章を林,3章のI〜IV・VIを許斐,Vを幸崎,4章のI・IIIを幸崎,IIを許斐,5章を堀が,それぞれ担当した.
おわりに,本書の初版を中心になって企画・編集された,愛知学院大学名誉教授 榊原悠紀田郎先生に,本改訂版においても大変お世話になった.深く感謝申しあげます.
1998年12月 野間弘康
第1版の序文
歯科衛生士が実際に現場で看護婦とともに仕事する機会はあまり多くはない.
およその概念としては看護婦のことはもちろん知っているし,歯科衛生士教育の中でも看護学大意というような科目名で教えられているところも多い.
現実には,病院に就職して仕事をする歯科衛生士もかなりある.しかしながら,病院は,歯科診療所といろいろな面で異なるため,とまどうことが多い.これは歯科衛生士の側ももちろんであるが大部分の看護婦のほうでも同様である.
そんなとき看護婦として,どんなことを歯科衛生士にわかってもらえばよいか,また歯科衛生士はどんなことがわかればよいかについての手びきになるものがいるのではないかということが,全国私立歯科大学病院総看護婦長会で検討されていた.そして,歯科衛生士が最小限知っておきたい看護の知識として,一つの看護学大意のようなものを編集することになった.
ガイドブックとしては少し重たいものになったが,基礎看護のテキストを読むよりずっと抽き出された内容になっており,病院に就職する歯科衛生士にとって看護ということを知る上でも大変役立つと思う.
歯科衛生士と看護婦とを比べて,よくその職業意識のちがいなどがいわれることがあるが,最も大きなことは看護という仕事の中に,“人の死をみとる”という場面があることからくるちがいではないかと思う.臨死患者にめぐりあうことは看護婦としてもそんなに多くはないとしても,それについての心構えはふだんからもっていなければならない.
それが本当は看護婦の職業観の根源の一つになっていると思う.
基礎看護のところの一番はじめにバイタルサインのことがかかれているのはこのためである.
そしてそれをベースとして,患者の安全と安楽とが述べられていることも,看護というものを理解する上で大切なことと思う.
歯科衛生士は看護婦と同様に,広い意味での医療の専門職であり,多くの患者と接し,しかも職業婦人としての共通点も多い.その意味では,看護から学ぶことは少なくないと思われる.
そんな角度でこの本をみてもらうと歯科衛生士にとって大変有力な糧となるのではなかろうか.
それをねがっている.
1986年8月10日 榊原悠紀田郎
高齢社会を迎えようとしている今日,歯や口腔の疾患以外に内科疾患をもつ患者や,診療に際して特別な介護を必要とする患者が歯科を受診する割合が増加している.このような疾患構造の変化に対応するために,病院の歯科・口腔外科ばかりでなく一般の歯科診療所においても,寝たきり高齢者の訪問診療など,歯科診療の内容に大きな変革が求められている.これまでの歯科診療は口腔全体を視野に入れて,いわゆる“一口腔単位“でバランスのとれた診療を行うことを目標としてきた.しかしこれからは,全身疾患をもった患者の歯科診療を行う機会が増えるので,さらに患者の全身状態をも考慮して“一個体単位”で行うものへと歯科医師の視野を拡大する必要がある.
歯科医師のパートナーである歯科衛生士に対しても,歯科予防処置,歯科診療補助,歯科保健指導だけではなく,患者の精神面をも含めて全身状態にも目を向けることが求められるようになってきた.
これからは,歯科衛生士が,病院の歯科・口腔外科に勤務したり,保健所や市町村などの地域保健活動に従事したり,また一般の歯科診療所に勤務していても地域医療の場で活動する場合には,看護婦と共同作業を行う機会が増えてくる.
看護婦は,医師のパートナーとして種々の全身疾患をもつ患者の看護業務を行ってきた長い歴史があり,そのなかで,人の死を看取ったり誕生に立ち会ったりといった重要な役割を果たしてきた.今後は,歯科衛生士も看護婦との共同作業を円滑に行うために,看護学のなかの重要な部分を学んでおくことが必要である.
歯科衛生士養成施設の教員を対象としたアンケート調査においても,21世紀に生じる社会的ニーズに応えるために,歯科衛生士の教育に看護および介護に関する教育を取り入れる必要性が強調されている.
本書の初版は,幸いにして多くの歯科衛生士学校・養成所で使われ,歯科衛生士が最小限知っておきたい看護の知識を習得するのに一定の役割を果たしてきた.しかしながら発行後12年の月日もたち,(歯科)医療や歯科衛生士を取り巻く環境も変化してきたことなどから全体的な見直しを行い,改訂版を発行することになった.
そのようなことから本書では,まず病院における歯科衛生士の役割はどのようなものかについて述べ,ついで看護の概念,歯科衛生士にも必要な基本的な看護技術や看護実務についてわかりやすく具体的に解説し,最後に,地域医療活動における歯科衛生士の役割についても言及した.また,付章として,関連する主要な法律を巻末に掲載した.
21世紀の歯科医療の一翼を担う歯科衛生士にとって,本書がおおいに役立つことを心から願っている.
なお本書の執筆は,1章を野間,2章を林,3章のI〜IV・VIを許斐,Vを幸崎,4章のI・IIIを幸崎,IIを許斐,5章を堀が,それぞれ担当した.
おわりに,本書の初版を中心になって企画・編集された,愛知学院大学名誉教授 榊原悠紀田郎先生に,本改訂版においても大変お世話になった.深く感謝申しあげます.
1998年12月 野間弘康
第1版の序文
歯科衛生士が実際に現場で看護婦とともに仕事する機会はあまり多くはない.
およその概念としては看護婦のことはもちろん知っているし,歯科衛生士教育の中でも看護学大意というような科目名で教えられているところも多い.
現実には,病院に就職して仕事をする歯科衛生士もかなりある.しかしながら,病院は,歯科診療所といろいろな面で異なるため,とまどうことが多い.これは歯科衛生士の側ももちろんであるが大部分の看護婦のほうでも同様である.
そんなとき看護婦として,どんなことを歯科衛生士にわかってもらえばよいか,また歯科衛生士はどんなことがわかればよいかについての手びきになるものがいるのではないかということが,全国私立歯科大学病院総看護婦長会で検討されていた.そして,歯科衛生士が最小限知っておきたい看護の知識として,一つの看護学大意のようなものを編集することになった.
ガイドブックとしては少し重たいものになったが,基礎看護のテキストを読むよりずっと抽き出された内容になっており,病院に就職する歯科衛生士にとって看護ということを知る上でも大変役立つと思う.
歯科衛生士と看護婦とを比べて,よくその職業意識のちがいなどがいわれることがあるが,最も大きなことは看護という仕事の中に,“人の死をみとる”という場面があることからくるちがいではないかと思う.臨死患者にめぐりあうことは看護婦としてもそんなに多くはないとしても,それについての心構えはふだんからもっていなければならない.
それが本当は看護婦の職業観の根源の一つになっていると思う.
基礎看護のところの一番はじめにバイタルサインのことがかかれているのはこのためである.
そしてそれをベースとして,患者の安全と安楽とが述べられていることも,看護というものを理解する上で大切なことと思う.
歯科衛生士は看護婦と同様に,広い意味での医療の専門職であり,多くの患者と接し,しかも職業婦人としての共通点も多い.その意味では,看護から学ぶことは少なくないと思われる.
そんな角度でこの本をみてもらうと歯科衛生士にとって大変有力な糧となるのではなかろうか.
それをねがっている.
1986年8月10日 榊原悠紀田郎
1章 病院における歯科衛生士の役割/1
I 歯科衛生士の活動の場……2
II 診療所……2
III 病院……4
1 病院の種類……4
2 病院の機構……5
3 病院のなかの歯科・口腔外科……5
IV 医療チームのなかの歯科衛生士……7
1 外来における歯科衛生士の役割……8
2 病棟における歯科衛生士の役割……8
2章 看護の概念/10
I 看護の歴史……10
1 欧米の看護……10
2 日本の看護……13
II 看護とは……16
1 看護は“なにを““だれのために”“なんのために““どのように”行うのか?……16
2 看護の定義……17
3 健康とは……17
4 看護の対象……18
5 看護の目標……18
6 看護の基本的役割……19
7 看護の実際……21
8 看護婦の活動場所……26
9 保健医療福祉活動の一環……30
3章 歯科衛生士が知っておくべき看護技術/31
I バイタルサインについて……31
1 体温……31
2 脈拍……33
3 呼吸……35
4 血圧……37
5 意識……37
6 心電図……38
II バイタルサイン測定の手技……39
1 体温測定……39
2 脈拍測定……42
3 呼吸測定……42
4 血圧測定……44
III 口腔のケア……46
1 口腔ケアの目的……46
2 口腔清掃の注意点……47
3 清掃方法……47
IV 摂食……49
1 栄養の補給……49
2 病人食の必要条件……49
3 摂取障害の食事選択……50
4 摂取方法……51
V 患者への支援……52
1 小児への接し方……52
2 高齢者への接し方……52
3 障害者への接し方……53
4 妊婦への対応……54
5 精神障害者および薬物・アルコール依存者への対応……54
6 患者の安全と安楽……55
VI その他の看護技術……58
1 与薬……58
2 罨法……60
3 包帯法……61
4 吸引および吸入……62
4章 歯科衛生士に必要な看護実務/65
I 患者の観察および治療経過の記録の作成……65
1 身体的問題と対応……65
2 心理的・社会的問題と対応……66
3 患者の観察と記録……67
II 病院歯科外来での業務……67
1 外来患者の特徴……67
2 滅菌と消毒……70
3 感染性疾患に対する対策……72
4 有病者の一般歯科治療における診療補助……73
5 外来診療における救急法……74
III 入院加療を要する患者の看護……76
1 口腔外科患者の基本的看護……76
2 入院患者の看護……79
3 おもな疾患とその看護……82
5章 地域医療活動における歯科衛生士の役割/91
I 地域社会における看護のあり方……91
1 在宅医療を必要とする社会的背景……91
2 高齢者保健福祉対策のあゆみ……93
3 制度とサービスの体系……94
II 訪問看護における歯科衛生士の役割……98
1 訪問看護の内容……98
2 訪問にあたっての歯科衛生士の心がまえ……99
3 訪問時の一般的な注意事項……100
4 訪問歯科診療・訪問口腔衛生指導の実際……100
III 保健医療行政機構・福祉チームとの連携……109
1 在宅ケアにかかわる職種(関係者)……109
2 チームワークの基本……109
3 老人保健福祉サービスネットワークの概要……111
4 保健・医療・福祉機関との連携……111
付章 関連法令/114
I 歯科衛生士法……114
II 歯科医師法……120
III 保健婦助産婦看護婦法(抄)……125
IV 医療法(抄)……128
V 医療法施行令(抜粋)……131
VI 地域保健法……132
VII 地域保健法施行令(抜粋)……134
VIII 介護保険法(抄)……135
参考図書……141
索引……143
I 歯科衛生士の活動の場……2
II 診療所……2
III 病院……4
1 病院の種類……4
2 病院の機構……5
3 病院のなかの歯科・口腔外科……5
IV 医療チームのなかの歯科衛生士……7
1 外来における歯科衛生士の役割……8
2 病棟における歯科衛生士の役割……8
2章 看護の概念/10
I 看護の歴史……10
1 欧米の看護……10
2 日本の看護……13
II 看護とは……16
1 看護は“なにを““だれのために”“なんのために““どのように”行うのか?……16
2 看護の定義……17
3 健康とは……17
4 看護の対象……18
5 看護の目標……18
6 看護の基本的役割……19
7 看護の実際……21
8 看護婦の活動場所……26
9 保健医療福祉活動の一環……30
3章 歯科衛生士が知っておくべき看護技術/31
I バイタルサインについて……31
1 体温……31
2 脈拍……33
3 呼吸……35
4 血圧……37
5 意識……37
6 心電図……38
II バイタルサイン測定の手技……39
1 体温測定……39
2 脈拍測定……42
3 呼吸測定……42
4 血圧測定……44
III 口腔のケア……46
1 口腔ケアの目的……46
2 口腔清掃の注意点……47
3 清掃方法……47
IV 摂食……49
1 栄養の補給……49
2 病人食の必要条件……49
3 摂取障害の食事選択……50
4 摂取方法……51
V 患者への支援……52
1 小児への接し方……52
2 高齢者への接し方……52
3 障害者への接し方……53
4 妊婦への対応……54
5 精神障害者および薬物・アルコール依存者への対応……54
6 患者の安全と安楽……55
VI その他の看護技術……58
1 与薬……58
2 罨法……60
3 包帯法……61
4 吸引および吸入……62
4章 歯科衛生士に必要な看護実務/65
I 患者の観察および治療経過の記録の作成……65
1 身体的問題と対応……65
2 心理的・社会的問題と対応……66
3 患者の観察と記録……67
II 病院歯科外来での業務……67
1 外来患者の特徴……67
2 滅菌と消毒……70
3 感染性疾患に対する対策……72
4 有病者の一般歯科治療における診療補助……73
5 外来診療における救急法……74
III 入院加療を要する患者の看護……76
1 口腔外科患者の基本的看護……76
2 入院患者の看護……79
3 おもな疾患とその看護……82
5章 地域医療活動における歯科衛生士の役割/91
I 地域社会における看護のあり方……91
1 在宅医療を必要とする社会的背景……91
2 高齢者保健福祉対策のあゆみ……93
3 制度とサービスの体系……94
II 訪問看護における歯科衛生士の役割……98
1 訪問看護の内容……98
2 訪問にあたっての歯科衛生士の心がまえ……99
3 訪問時の一般的な注意事項……100
4 訪問歯科診療・訪問口腔衛生指導の実際……100
III 保健医療行政機構・福祉チームとの連携……109
1 在宅ケアにかかわる職種(関係者)……109
2 チームワークの基本……109
3 老人保健福祉サービスネットワークの概要……111
4 保健・医療・福祉機関との連携……111
付章 関連法令/114
I 歯科衛生士法……114
II 歯科医師法……120
III 保健婦助産婦看護婦法(抄)……125
IV 医療法(抄)……128
V 医療法施行令(抜粋)……131
VI 地域保健法……132
VII 地域保健法施行令(抜粋)……134
VIII 介護保険法(抄)……135
参考図書……141
索引……143