やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文

 ここ10年余り,病理学の領域においても,新たな知見が次々に加わってきており,そうした時代の流れに即した教科書が必要とされる時期になった.
 現在,歯科衛生士の教育課程では,病理学,解剖学,生理学,微生物学,薬理学など基礎科目を修得することになっている.これらは相互に密接な関連をもっており,臨床における技術は各々の学問の成果を基盤として成り立っている.
 とくに病理学は,病気の本態,すなわち病気の原因や成り立ちを教えてくれるだけでなく,病気の診断,治療,ならびに予防に関する知識を与えてくれるものであり,その意味では,臨床に直接的に関わりのある,総合的な基礎科目ということができる.したがって,職業として患者に直接対面行為や保健指導を行う立場にある歯科衛生士にとって,大変重要な学科である.
 本書では,前の教科書と同じく,病理学を理解しやすいように,I編の「病理概説」とII編の「口腔病理」に分けて記述した.
 「病理概説」では,病気というものについての基本的事項を総論的に解説した.すなわち,ここでは種々の臓器や組織に現れる同じ種類の病変を総括し,その一般的概念について論述している.たとえば,炎症は口腔を含めた全身の各種臓器に発生するが,これを総合的に考察し,炎症とはどのようなものかを教えている.
 「口腔病理」では,口腔領域のいろいろな組織や臓器に発生した病変に関する事項を記述した.とくに口腔領域の疾病を治療する歯科医学においては,歯と歯周組織の病変は重要であることを強調したい.I,II編ともに口腔内写真,X線写真,および顕微鏡写真を可能なかぎり多く用い,病変をできるだけ理解しやすいようにした.章によっては,新しい知見が加わったために記述にやや詳細すぎるところもあるかと思われるが,それに関しては全国で実際に教育にあたられている諸先生に適切なご選択をお願いしたい.
 なお,本書は次のように分担して執筆された.I編「病理概説」については,1章・7章は内海,2章・5章・8章は亀山,3章・6章は下野,4章は亀山と渡辺がそれぞれ担当した.II編「口腔病理」は,1章・2章・4章・8章III・9章・11章・12章・15章は亀山,3章・5章・13章・14章・16章は下野,6章は亀山と渡辺,7章・8章I,II・10章は内海がそれぞれ担当した.
 最後に,本書のために重要な資料を提供して下さった方々に厚く御礼申し上げるとともに,全国歯科衛生士教育協議会の企画編集にあたっての労に深く感謝したい.本書が歯科衛生士の教育に大いに貢献することを願ってやまない.
 1995年3月 著者一同
I編 病理概説
1章 病理学序論/3
 I 病理学とは……3
 II 細胞と組織……5
  1.細胞質……7
  2.核……7
2章 病因論/9
 I 内因……9
  1.素因……10
  2.遺伝・染色体異常……11
  3.内分泌異常……11
  4.免疫・アレルギー……11
 II 外因……11
  1.栄養障害……11
  2.物理的因子による障害……12
  3.化学的因子による障害……12
  4.生物学的因子による障害……12
3章 遺伝性疾患ならびに奇形/14
 I 遺伝……14
  1.遺伝とは……14
  2.ヒトの染色体……14
 II 遺伝性疾患……15
  1.染色体異常……15
  2.染色体異常による疾患……15
  3.染色体の異常を伴わない遺伝性疾患……17
 III 奇形……17
  1.奇形とは……17
  2.奇形の種類……18
  3.奇形の原因……19
4章 代謝障害/21
 I 変性……21
  1.タンパク質変性(タンパク質代謝障害)……22
  2.脂肪変性(脂質代謝異常)……22
  3.糖原変性(糖代謝異常)……23
  4.石灰変性(カルシウム代謝異常)……25
  5.結晶体変性……25
  6.色素変性(色素代謝障害)……26
 II 萎縮……27
  1.原因による萎縮の分類……27
 III 壊死……29
  1.壊死の原因……29
  2.壊死の性状……29
  3.壊死部の転帰……30
5章 増殖と修復/31
 I 肥大と増生(過形成)……31
  1.生理的肥大……32
  2.病的肥大……32
  3.突発性肥大……32
 II 再生……32
  1.再生能力……32
 III 肉芽組織,創傷治治癒,器質化……34
  1.肉芽組織……34
  2.創傷治癒……34
  3.器質化……36
 IV 化生……36
 V 移植……37
6章 循環障害/38
 I 循環系の概要……38
  1.大循環系……38
  2.小循環系(肺循環系)……39
  3.門脈循環系……39
  4.リンパ循環系……39
  5.心臓……39
  6.終動脈と機能的終動脈……40
  7.微小循環……40
 II 循環血液量の障害……40
  1.局所貧血(虚血)……40
  2.充血……40
  3.うっ血……41
  4.出血……41
  5.ショック……43
 III 閉塞性の循環障害……44
  1.血栓症……44
  2.播種性血管内凝固(DIC,disseminated intervascular coagulation)……45
  3.塞栓症……45
  4.梗塞……46
  5.水腫(浮腫)……46
 IV 傍側循環(側副循環)……47
7章 炎症と免疫/48
 I 炎症……48
  1.炎症の症状……48
  2.炎症の病変……49
  3.炎症の原因……50
  4.炎症の種類(分類)……52
  5.炎症にかかわる細胞(炎症性細胞)……53
  6.炎症の経過と転帰……54
  7.炎症の各型……55
 II 免疫……59
  1.免疫反応……59
  2.自己免疫疾患……62
  3.移植免疫……62
8章 腫瘍/64
 I 腫瘍の概説……64
  1.腫瘍の定義……64
  2.腫瘍の良性と悪性……64
  3.腫瘍の形態……65
 II 腫瘍の発育進展……66
  1.腫瘍の発育の様式……66
  2.腫瘍の広がり方……66
  3.腫瘍の宿主におよぼす影響……67
 III 腫瘍の発生……69
  1.外因……69
  2.内因……71
 IV 腫瘍の疫学……72
 V 腫瘍の分類……73
 IV 腫瘍の各型……73
  1.良性上皮性腫瘍……73
  2.良性非上皮性腫瘍……74
  3.悪性上皮性腫瘍(癌腫)……74
  4.悪性非上皮性腫瘍(肉腫)……74
  5.特殊な腫瘍……76

II編 口腔病理
1章 口腔病理学とは/81
2章 歯の発育異常/83
 I 大きさの異常……83
  1.矮小歯……83
  2.巨大歯……84
 II 形の異常……84
  1.双生歯……84
  2.融合歯……84
  3.■着歯……84
  4.歯内歯……85
  5.エナメル滴……85
 III 数の異常……85
  1.無歯症……85
  2.過剰歯……86
 IV 構造の異常……86
  1.外傷……86
  2.炎症……87
  3.栄養障害や全身的疾患……87
  4.謫V梅毒……87
  5.フッ素……87
  6.遺伝……89
 V ■出の異常……89
  1.乳歯の早期萌出……89
  2.乳歯の萌出遅延……90
  3.永久歯の早期萌出……90
  4.永久歯の萌出遅延……90
  5.埋伏歯……90
 VI 位置の異常……91
  1.転位歯……91
  2.捻転歯……91
  3.傾斜歯……91
  4.高位歯,低位歯……91
  5.移転歯……91
  6.逆生歯……91
  7.正中離開……92
  8.叢生……92
 VII 咬合の異常……92
  1.上顎前突……92
  2.下顎前突……92
  3.切端(切縁)咬合……92
  4.開咬……92
  5.過蓋咬合……92
  6.交差咬合(交叉咬合)……92
3章 歯の機械的および化学的損傷/94
 I 機械的損傷……94
  1.咬耗……94
  2.磨耗……95
  3.歯の破折……96
 II 化学的損傷……97
  1.侵蝕症(酸蝕症)……97
4章 歯の付着物および沈着物/98
 I ペリクル(獲得薄膜,薄膜)……98
 II プラーク(歯垢)……98
 III 歯石……100
 IV 着色……101
  1.外因性(局所性)の着色……101
  2.内因性(全身性)の着色……101
5章 象牙質とセメント質の増生および歯髄と歯根膜の石灰化/102
  1.第二象牙質……102
  2.セメント質増生……103
  3.歯髄の石灰化……104
  4.セメント粒……104
6章 う蝕/105
 I 病因……106
  1.酸脱灰説(化学細菌説)……106
  2.タンパク溶解説……106
  3.タンパク溶解キレーション説……106
  4.原因菌……106
  5.プラーク(歯垢)……106
 II 誘因……107
  1.歯の形態,位置……107
  2.歯の構造……107
  3.唾液……107
  4.食物……108
  5.その他……108
 III う蝕の分類……108
  1.発現部位による分類……108
  2.う蝕病巣の広がり方による分類……109
  3.経過(進行速度)による分類……109
  4.一次う蝕(原発性う蝕)と二次う蝕(再発性う蝕)による分類……109
  5.臨床的分類……109
  6.組織学的分類(歯の硬組織による分類)……109
7章 歯髄の病変/115
 I 歯髄炎……115
  1.歯髄炎の特殊性……115
  2.原因……116
  3.分類……116
  4.歯髄炎の臨床病理所見……116
 II 歯髄の石灰化……120
  1.石灰変性……120
  2.象牙粒……121
8章 歯周組織の病変/122
 I 歯周組織……123
  1.歯肉……123
  2.歯根膜(歯周靭帯)……123
  3.歯槽骨……123
  4.セメント質……123
 II 根■性歯周炎……124
  1.分類……124
  2.原因……124
  3.急性根尖性歯周炎……125
  4.慢性根尖性化膿性歯周炎……125
  5.慢性根尖性肉芽性歯周炎……127
 III 歯周疾患……129
  1.歯肉炎……129
  2.辺縁性歯周炎……130
  3.急性壊死性潰■性歯肉炎……138
  4.フェニトイン歯肉増殖症……139
  5.歯肉線維腫症……140
  6.慢性剥離性歯肉炎……140
  7.若年性歯周炎……140
  8.Papillon-Lefe´vre症候群……142
  9.咬合性外傷……143
9章 抜歯創の治■/145
 I 抜歯創の治■……145
 II ドライ・ソケット……146
10章 口腔粘膜の病変/148
 I 色素沈着……148
 II 毛舌……149
 III 地図状舌……149
 IV 白板(斑)症……150
 V 再発性アフタ……151
 VI 義歯性口内炎……151
 VII 口角びらん……152
 VIII 口唇(単純)疱疹……152
 IX 急性疱疹性歯肉口内炎……153
 X 放線菌症……153
 XI カンジダ症……153
 XII 扁平苔癬……154
 XIII ベーチェット病……155
11章 エプーリス/156
 I 臨症的特徴……156
 II 組織学的特徴……156
 III 先天性エプーリス……160
12章 口腔領域の奇形/161
 I 口唇裂……161
 II 口蓋裂……162
 III 唇顎口蓋裂……162
13章 顎骨の病変/163
 I 顎骨骨髄炎……163
 II 歯性上顎洞炎……165
 III 線維性骨異形成症……165
 IV 原因不明の顎怩フ疾患……166
  1.ページェット骨病(変形性骨炎)……166
  2.大理石病(アルベルス・シェーンベルグ病)……166
  3.組織球症X……166
14章 口腔領域の嚢胞/167
 I 顎骨の嚢胞歯原性嚢胞……168
  1.歯根嚢胞……168
  2.残留(残存)嚢胞……168
  3.含歯性嚢胞(濾胞性歯嚢胞)……169
  4.原始性嚢胞……170
  5.歯原性角化嚢胞……170
  6.石灰化歯原性嚢胞……170
  7.歯肉嚢胞……171
 II 顎骨の嚢胞非歯原性嚢胞……171
  1.顔裂性嚢胞……171
  2.術後性上顎嚢胞……171
 III 顎骨の嚢胞その他(偽嚢胞)……171
  1.単純性骨嚢胞(外傷性骨嚢胞)……171
  2.脈瘤性骨嚢胞……172
  3.静止性骨空洞……172
 IV 軟組織の嚢胞……172
  1.類皮嚢胞,類表皮嚢胞……172
  2.鰓嚢胞(良性リンパ上皮性嚢胞)……172
  3.甲状舌管嚢胞……173
  4.粘液嚢胞(粘液停滞嚢胞)……173
  5.上顎洞内粘液嚢胞……174
15章 口腔領域の腫瘍/175
 I 歯原性腫瘍……175
  1.エナメル上皮腫……175
  2.腺様歯原性腫瘍……176
  3.歯牙腫……177
  4.セメント質腫……178
 II 非歯原性腫瘍……180
  1.良性腫瘍……180
  2.前癌病変……181
  3.悪性腫瘍……181
16章 口腔組織の加齢変化/185
 I 歯の硬組織の変化……185
  1.咬耗・磨耗による歯冠形態の変化……185
  2.エナメル質の性状の変化……185
  3.生理的第二象牙質および病的第二象牙質の形成……185
  4.象牙質の性状の変化……186
  5.セメント質の添加……186
 II 歯髄の変化……186
  1.歯髄腔の狭少化……186
  2.歯髄の退行性変化……186
 III 歯周組織の変化……187
  1.歯肉……187
  2.歯根膜……187
  3.歯槽骨……188
 IV 口腔粘膜の変化……188
 V 舌・味覚の変化……188
 VI 唾液腺の変化……188
  1.腺房の変化……188
  2.導管の変化……189
  3.間質の変化……189

参考図書……191
用語解説……192
さくいん……194