やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文

 生理学は,古くから医学の根幹をなす学問として重要視されてきた.それは,ノーベル賞の医学関係の賞が医学・生理学賞と名づけられていることからもうなずけよう.ヒトの身体はさまざまな器官や組織から構成されているが,それらがどのようなはたらきをしているのか,また,そのはたらきの仕組みはどのようになっているのかを明らかにする学問が生理学である.
 子どもが日常のさまざまな現象に“なぜ?“を繰り返すことからもわかるように,人は生まれながらに好奇心をもっている.生理学は身体のはたらきについて“なぜ?”という疑問に答える学問なので,よく理解すると大変興味深い.それだけではなく,病気を理解するためにも生理学の知識は基本となる.なぜなら,病気とは身体の正常なはたらきを保つことができなくなった状態をいうからである.したがって,生理学を知らなければ,病気の本体も知ることができないといえよう.
 今日,生理学の発展はめざましく,身体の仕組みについては,大変詳しく理解されるようになった.しかし,基本となる知識が変化したわけではないので,この基本知識を,まずしっかり理解することが大切である.また,生理学から生化学や薬理学が生まれてきたので,これらの学問を理解するためにも生理学の知識は基本となる.
 本書は,広範な生理学の内容から,必要最小限の事項を取りだして解説したものである.歯科医とともに医療に参加する歯科衛生士にとっては,本書に解説した生理学の事項を理解して,患者に対応することが大切である.
 本書では,I編で一般の生理学の概要を解説し,II編では口腔の機能を取り上げて口腔生理学として解説している.各章の担当者は次のようになっている.I編1章を森本,2章を鈴木,3章を笠原・森本,4章を笠原,5章を真貝,6章を森本,7章を鈴木,8章を堀内,9章を松尾,10章を笠原・森本,11章を鈴木,12章・13章を真貝が,また,II編1章を森本,2章を堀内,3章を森本,4章を真貝,5章I・IIを堀内,IIIを笠原,6章を鈴木,7章を真貝が,それぞれ執筆した.
 おわりに,本書の出版にあたってご尽力いただいた医歯薬出版株式会社に対して,深く感謝する.
 1995年2月
 著者一同
I編 人体生理の概要
1章 生理学を学ぶことの大切さ/3
 I 生理学とはなにか……3
 II 生理学のあゆみ……4
 III 生理学を学ぶことはなぜ必要か……4
  1.生命現象とはなにか……4
  2.ホメオスタシス(生体の恒常性)……5
  3.生理学を学ぶことはなぜ大切か……6
2章 細胞/7
 I 細胞の構造……7
 II 細胞の基本的機能……8
  1.細胞膜の透過性……8
  2.物質代謝……9
  3.細胞分裂……9
  4.電気現象……11
  5.細胞内カルシウムイオンと細胞内過程……12
   〈イオンチャネルは架空の存在ではない〉……12
   〈カフェインと細胞内信号〉……13
3章 血液/14
 I 血液の成分……14
  1.赤血球……14
  2.白血球……16
  3.血小板……16
  4.血漿……16
 II 血液のはたらき(機能)……17
   〈血液にまつわるエピソード〉……17
 III 止血と血液の凝固……18
 IV 線溶……19
 V 出血傾向(出血性素因)……19
 VI 血液型と輸血……20
  1.ABO型血液型……20
   〈血友病〉……20
  2.Rh型血液型……21
  3.輸血……21
4章 循環/22
 I 心臓の構造とはたらき……22
 II 心臓の自動能……24
 III 心電図……26
 IV 血管の機能……26
   〈循環にまつわるエピソード〉……27
 V リンパ循環……28
 VI ショック……28
5章 呼吸/29
 I 呼吸運動……29
 II 呼吸器の構成……29
 III 換気の仕組み……30
 IV 肺気量と換気量……31
  1.肺気量の区分と肺活量……31
  2.換気量と死腔……32
   〈過換気症候群〉……32
 V 肺胞および組織細胞におけるガス交換……33
 VI 血液中のO2の運搬……34
 VII 呼吸の調節……35
  1.呼吸中枢……35
  2.呼吸数と呼吸の深さの調節……35
6章 筋/37
 I 筋の種類と機能……37
 II 骨格筋……38
 III 骨格筋の収縮様式……38
  1.単収縮……38
  2.強縮……40
 IV 筋電図……40
 V 筋収縮の仕組み(メカニズム)……41
  1.筋の微細構造……41
  2.筋小胞体とT系……42
  3.興奮収縮連関……44
 VI 筋の疲労……44
 VII 心筋……44
 VIII 平滑筋……45
  1.内臓平滑筋……45
  2.多元平滑筋……45
7章 神経/46
 I 神経系の分布の概要……46
 II 神経系の基本的機能……46
  1.ニューロン……46
  2.シナプス……47
   〈シナプス小胞の宅配便〉……48
  3.神経線維と興奮伝導の機序……49
  4.神経線維の種類と機能……50
 III 体性神経……50
  1.脊髄神経……50
  2.脳神経……50
 IV 自律神経……51
  1.交感神経とその伝達物質……52
  2.副交感神経とその伝達物質……52
  3.自律神経の分布と機能……52
  4.自律神経系と脳……53
 V 中枢神経系……54
  1.脊髄……56
  2.延髄,橋,中脳……57
  3.小脳……57
  4.間脳……57
  5.大脳……58
   〈肩のこりを除く肩こりの話〉……58
  6.脳波……61
8章 感覚/62
 I 感覚の基本的性質……62
  1.感覚受容器と適当刺激……62
  2.感覚神経と脳……62
  3.閾値……62
 II 特殊感覚……63
  1.視覚……63
  2.聴覚……64
  3.平衡感覚……65
  4.嗅覚……66
 III 体性・内臓感覚……66
  1.痛覚……67
  2.二点弁別域……67
9章 消化と吸収/68
 I 消化と吸収の意味……68
 II 胃のはたらき……70
  1.胃の運動……70
  2.胃液……70
  3.胃液の分泌……70
 III 小腸のはたらき……71
  1.膵液……71
  2.胆汁……72
  3.小腸の運動……72
  4.小腸での吸収……72
 IV 大腸のはたらき……73
  1.大腸での吸収……73
  2.大腸の運動……73
   〈消化吸収にまつわるエピソード〉……73
10章 排泄/74
 I 排便……74
 II 皮膚からの排泄(発汗)……75
   〈排泄にまつわるエピソード〉……75
 III 排尿……76
  1.排尿の意義……76
  2.尿の性質……76
  3.腎臓での尿の生成……76
  4.尿量の調節……77
  5.膀胱からの排尿の仕組み(排尿反射)……77
   〈人工腎臓〉……78
11章 体温/80
 I 体熱の生産……80
 II 体熱の放散……81
 III 体温の調節……81
 IV 体温の変動……83
12章 内分泌/84
 I 内分泌器官とホルモン……84
  1.内分泌とは……84
  2.内分泌器官の種類……84
 II 甲状腺と上皮小体……85
  1.甲状腺,上皮小体ホルモン……86
  2.チロキシンの作用と分泌異常による病態……86
  3.カルシトニン,パラトルモン,およびビタミンD3 によるカルシウム代謝の調節……86
 III 下垂体と視床下部……87
  1.下垂体ホルモン……87   2.視床下部ホルモン……88
 IV 副腎……89
  1.副腎皮質ホルモン……89
  2.副腎髄質ホルモン……89
  3.ストレスとホルモン……89
  4.分泌異常による病態……90
 V 膵臓……90
  1.インスリンの作用……90
  2.グルカゴン……90
 VI 唾液腺……90
 VII その他のホルモン……91
 VIII 歯とホルモン……91
13章 生殖/92
 I 女性の生殖機能……92
 II 性周期……92
  1.卵巣周期と排卵……93
  2.月経周期……93
  3.基礎体温……94
  4.性周期関連ホルモン……94
 III 受精と妊娠……95
 IV 分娩と乳汁分泌……95
  1.分娩……95
  2.乳汁分泌……96

II編 口腔生理学
1章 口腔生理学はなぜ必要か/99
 I 口腔生理学とはなにか……99
 II 口腔生理学の必要性……100
2章 歯と歯周組織の生理/101
 I 歯の硬組織の生理……101
  1.歯式……101
  2.歯の機能……102
 II 歯の化学的性質……102
  1.歯の無機質……102
  2.歯の硬さ……103
  3.歯の有機質……103
  4.歯の代謝……103
 III 歯髄の生理……104
  1.歯髄の機能……104
  2.歯髄の血流……104
 IV 歯周組織の生理……105
  1.歯肉……105
  2.歯槽骨……105
  3.歯根膜……106
  4.セメント質……106
 V 歯の動揺度……106
 VI 歯間離開度……106
3章 咬合と咀嚼/108
 I 咬合(オクルージョン)……109
 II 下顎位……110
  1.下顎安静位……110
  2.中心位(靭帯位),中心咬合位(筋肉位)……111
 III 下顎の運動……112
  1.咀嚼筋と下顎運動……112
  2.咀嚼筋の性質……113
  3.顎運動の調節に働く神経系……113
  4.顎関節の構造と下顎運動……114
 IV 限界運動……116
 V 顎反射……118
  1.開口反射……118
  2.下顎張反射……118
  3.歯根膜咀嚼筋反射……118
  4.閉口反射……118
 VI 咀嚼……118
  1.咀嚼の役割……119
  2.咀嚼運動……119
  3.咀嚼と中枢神経のはたらき……120
  4.舌の役割と運動……122
  5.口唇・頬・口蓋の役割……123
 VII 咬合力と咀嚼力……124
 VIII 咀嚼の能力……126
  1.自己評価法……126
  2.客観的評価法……126
4章 吸引・嚥下・嘔吐・口呼吸・口臭/129
 I 吸引……129
  1.吸引反射……129
  2.吸乳……129
  3.指しゃぶり……130
 II 嚥下……130
  1.嚥下の特徴……130
  2.嚥下運動……131
  3.異常嚥下と不正咬合……132
 III 嘔吐……132
 IV 口呼吸……133
  1.口呼吸の特徴……133
  2.口呼吸による障害……133
 V 口臭……134
5章 歯と口腔の感覚/135
 I 歯の感覚……136
  1.圧覚(触覚)……136
  2.咬合感覚……136
  3.位置感覚……136
  4.歯髄感覚……137
  5.関連痛……137
  6.有効刺激……137
  7.象牙質知覚過敏症……138
  8.歯痛と鎮痛……138
  9.象牙質知覚過敏症の鎮痛……138
  10.歯髄炎の鎮痛……138
 II 口腔粘膜の感覚……139
  1.感覚受容器……139
   〈感覚障害〉……139
  2.口腔粘膜感覚の機能……140
 III 味覚……140
  1.味蕾……141
  2.味覚の神経機構……141
  3.味と関係した化学構造……142
  4.味覚異常と味盲およびその検査……143
   〈味覚にまつわるエピソード〉……144
6章 唾液/146
 I 唾液の分泌機構……147
  1.腺房部の分泌機序……147
  2.原唾液を変える導管部の機序……148
  3.原唾液の流れに速度を与える機序……148
  4.唾液腺血流の調節機序……148
  5.唾液分泌の神経機序……149
 II 唾液の性状と成分……151
  1.唾液分泌量……151
  2.物理的性状……151
  3.唾液のpH……152
  4.唾液の成分……152
 III 唾液のはたらき……153
  1.消化作用……153
  2.潤滑作用……153
  3.粘膜の保護作用……153
  4.緩衝作用……154
  5.脱灰作用と成熟・再石灰化作用……154
  6.清浄作用……154
  7.抗菌作用……154
  8.排泄作用……155
  9.体液量調節作用……155
  10.内分泌作用……155
 IV 唾液と疾患……155
  1.唾液とう蝕症……155
  2.唾液と歯周疾患……155
  3.唾液と全身性疾患……156
7章 発声/157
 I 発声機構の概略……157
 II 喉頭の機構……158
  1.喉頭軟骨……158
  2.声帯……159
  3.喉頭筋の種類とそのはたらき……159
 III 音声の生成……159
  1.声帯の振動……159
  2.声帯以外の発音……159
  3.音声の性質……160
 IV 言語音の形成……160
  1.母音……160
  2.子音……160
  3.パラトグラム……162
 V 歯・口腔と発音……162
  1.口蓋裂と発音……163
   〈言葉は左脳で話す〉……163
  2.歯の欠損と発音……164
  3.義歯と発音……164
  4.不正咬合と発音……164

参考図書……165
用語解説……166
さくいん……169