やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第2版 序文
 超高齢社会の進展に伴い地域包括ケアシステムが推進されるなか,高齢者の口から食べる機能の維持・管理がシームレスに必要とされています.歯科医療従事者,とくに口腔健康管理を担当する歯科衛生士の役割は高まっています.
 医科歯科連携と在宅医療の拡充のなか口腔の問題はより日常の高齢者の健康ニーズに直結する問題としてクローズアップされるようになっています.地域ケア会議に参画できる歯科衛生士の養成が唱えられてから数年経過し,さらに広範囲で深化した問題にも対応できる歯科衛生士が現場から求められるようになりました.今後ますます確かな実践に基づき現場で成果を出す必要があるなか,学ぶためのマニュアルも現場の進展とともに拡充していくことが必要となります.
 日本歯科衛生士会では,4年前に喫緊の対応としてマニュアルを発行しましたが,この間の経過も踏まえ,本書ではさらに発展した内容を取り込み,具体的な症例を追加して,より実践的な内容として構成しています.代表的な疾患の基礎知識を網羅し,歯科衛生士として注目すべき口腔の問題についてクローズアップするとともに,各資料をもとに何を助言すべきかのアドバイスを詳述しています.各職種からの助言内容も地域ケア会議に参加する歯科衛生士が多職種の性質を理解する手助けになるように,まとめて詳しく示しています.また,巻末には演習や資料も掲載し,歯科衛生士の研修にすぐに使用できるものとなっています.
 的確な助言を行うことができる歯科衛生士が多く世に出て活躍できるよう本書が役立つことを願ってやみません.
 2021年5月 公益社団法人日本歯科衛生士会


初版 序文
 超高齢社会を迎え,厚生労働省は,2025年を目途に,高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援を目的に,可能な限り住み慣れた地域で,自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう,地域における包括的な支援・サービス提供体制,すなわち地域包括ケアシステムの構築を推進しています.このような中,在宅療養者・要介護高齢者等の口から食べる機能を維持し,低栄養や誤嚥性肺炎を予防するなど,口腔健康管理を担当する歯科衛生士の役割に期待が高まっております.また,介護予防における口腔機能向上の推進が求められており,地域ケア会議等において高齢者の歯科医療および口腔の健康ニーズを把握し,サービス提供に繋げる等,多職種連携における支援の重要性が高まっています.
 地域ケア会議は,高齢者個人に対する支援の充実とそれを支える社会基盤の整備とを同時に進め,地域における個別課題の解決を通して地域包括ケアシステムの実現につなげる重要な情報共有の場です.
 介護予防のための地域ケア会議では,自立支援・介護予防の観点をふまえて地域ケア個別会議を活用し「要支援者等の生活行為の課題の解決等,状態の改善に導き,自立を促すこと」ひいては「高齢者のQOLの向上」を目指すことが大切です.そして,地域ケア会議における専門職(助言者)の役割は,助言者として対象者のニーズや生活行為の課題をふまえ,自立に資する助言をすることが求められており,多職種の視点に立って事例の課題をとらえ,その解決にあたることが極めて重要となります.
 現状では,市町村や地域包括支援センターにおける介護予防のための地域ケア会議が活発に実施されているのは一部の地域に限られています.しかし,介護予防のための地域ケア会議によって,多くの高齢者のQOLが向上するという成果が,厚生労働省の介護予防活動普及展開事業や市町村・地域包括支援センターの取組み等により確認されております.
 そこで,日本歯科衛生士会では,歯科衛生士が積極的に地域ケア会議に参画できるよう,本マニュアルを企画いたしました.本マニュアルは,地域ケア会議の理解のための背景,概要を示し,会議の実際の流れ,助言内容を模した具体例をあげ,即会議に役立つような構成となっています.また地域での歯科衛生士の研修にすぐに使用できる演習や資料も掲載し,人材育成のテキストとしても使用できる内容になっています.
 口腔に関する的確な助言を行うことができる歯科衛生士の育成に本書が役立ち,多くの歯科衛生士が地域で活躍し,ますます社会から求められることを願ってやみません.
 2017年10月 公益社団法人日本歯科衛生士会
 本書の使い方
第1章 地域包括ケアシステムと地域ケア会議
 1.地域包括ケアシステム
 2.平成30年度介護保険制度改正で改めて強く打ち出された「自立支援と重度化防止」
 3.地域ケア会議とは(種類・目的・機能)
 4.介護予防のための地域ケア会議
第2章 地域ケア個別会議における効果的な助言
 1.専門職として助言を行う時の心構え
 2.地域ケア個別会議の資料
  資料1-A 利用者基本情報(表)
  資料1-B 利用者基本情報(裏)
  資料2 基本チェックリスト
  資料3 課題整理統括表
  資料4 介護予防サービス・支援計画書(ケアプラン)
  その他の資料 主治医意見書/お薬手帳
 3.助言を行うためのステップについて
 4.実践につながる助言のポイント
第3章 地域ケア個別会議における効果的な助言
 1.脳卒中
  1.脳卒中とは
  2.脳卒中に伴う口腔の問題
  3.疾患による口腔の問題と生活への影響
  4.高次脳機能障害
  5.抗血栓薬について
 地域ケア個別会議での助言例
 2.がん
  1.がんの特徴
  2.がん治療に伴う口腔の問題
  3.疾患による口腔の問題と生活への影響
 地域ケア個別会議での助言例
 3.認知症
  1.認知症とは
  2.認知症の進行に伴う口腔の問題
  3.疾患による口腔の問題と生活への影響
  4.認知症に伴う口腔の問題(アルツハイマー型認知症の場合)
 地域ケア個別会議での助言例
 4.糖尿病
  1.糖尿病とは
  2.主な糖尿病合併症
  3.糖尿病の判定の基準値
  4.糖尿病の治療
  5.歯周病が糖尿病を引き起こすメカニズム
  参考資料
 地域ケア個別会議での助言例
 5.パーキンソン病・パーキンソン症候群
  1.パーキンソン病とは
  2.パーキンソン症候群とは
  3.口腔の問題
  4.疾患による口腔の問題と生活への影響
 地域ケア個別会議での助言例
 6.高齢者に多い整形疾患
  1.在宅高齢者に多い自立生活を阻害する整形疾患(腰部脊柱管狭窄症/変形性膝関節症/圧迫骨折/骨粗鬆症/関節リウマチ/サルコペニア/ロコモティブシンドローム/フレイル)
 地域ケア個別会議での助言例
第4章 地域ケア個別会議の事例
 1.認知症
 2.低栄養・下肢筋力低下
 3.糖尿病

 地域ケア個別会議の研修(演習)例
 資料集