やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 2017年7月に上梓させていただいた前作,『内科医から伝えたい歯科医院に知ってほしい糖尿病のこと』は,私が初めて執筆した医歯学系専門書です.歯科界のみなさまが広く受け入れてくださったおかげで,2018年8月には医科に向けて『糖尿病療養指導士に知ってほしい歯科のこと』を発刊することができました.
 地方の一開業医に過ぎないこの私が,全国の糖尿病療養指導士に向けて歯科啓発書を上梓できるなど,つい数年前には予想もできないことでした.私の夢を醸成させる源泉となったものは,日本中から講演に招いてくださる地域の歯科医師会,歯科衛生士会のみなさま,そして読者の方々からいただいた,限りない支援の真心です.
 今回,続編として新たに本書をお届けさせていただきます.前作は,糖尿病のことが中心でしたが,私なりに歯科を学び続ける間に,もっと大切なテーマが存在することに気づきました.それが慢性微小炎症です.
 人生100年時代が到来した今,医科と歯科に課せられた最も大きな課題は,慢性炎症制御になると私は確信しています.そして,この慢性微小炎症を引き起こす原因の1つが,歯肉炎と歯周炎なのです.糖尿病治療薬をはじめとして,いくら高価な薬を使おうとも,口腔から全身に蔓延する炎症が存在する限り,医科の治療は十分な力を発揮できません.
 加えて,医療従事者も含め日本国民は,お口からやって来る慢性炎症の恐ろしさに,ほとんど気づいておりません.このために,歯科定期通院と定期清掃を疎かにし,かけがえのない歯を失っていくのです.第III編には,華々しく紹介される8020運動の裏に潜む,日本人の悲しき姿が記されています.
 本書には,糖尿病という枠を超え,私たち日本人が口腔への覚醒を通して,清らかな人生100年を歩むために必要となる知識を書き記しました.この知識を読者のみなさまの手で患者さんとその家族,地域の人々,そして日本国民のために役立つ智慧へと昇華していただければ,著者としてこれ以上の喜びはありません.
 2019 年4 月
 にしだわたる糖尿病内科 院長 西田 亙
第I編 「歯周炎分類2018」が語る新しき歯科医療の姿
 1 EuroPerio9 での衝撃的発表
 2 なぜ歯周炎分類が“全身”に言及するようになったのか?
 3 口腔の向こうに全身を見据える時代
第II編 糖尿病と歯周病は“不治の病”
 1 医科の糖尿病へのアプローチに学ぶ
 2 歯周病もまた治癒する病気ではない
 3 予防から治療まで,歯科は生涯にわたり寄り添うことができる
第III編 日本人の口腔の闇と光
 1 8020達成者率は本当に5 割を超えたのか?
 2 8020 データバンク調査が明らかにした日本人の口腔の真実
 3 咬合支持域と咀嚼能力
 4 なぜ日本人は歯を失い続けるのか?
 5 日本の歯科医師が明らかにした口腔と全身のかかわり
 6 8020達成者の素晴らしき歯並び
第IV編 慢性微小炎症を制するものが健康長寿を手にできる
 1 ぎんさんの若々しい血管が私たちに教えてくれること
 2 百寿者研究が明らかにした健康長寿の決め手は“炎症”
 3 久山町研究が明らかにした微小炎症の恐ろしさ
 4 ドイツの出生コホート研究が明らかにした歯肉炎の恐ろしさ
 5 百寿者研究,久山町研究,出生コホート研究は語る
第V編 歯科だからこそ介入できる“早期糖代謝異常”
 1 糖尿病診断の限界
 2 未病という捉え方
 3 糖尿病診断のための“閾値”はどこから生まれたのか?
 4 糖尿病の未病段階は“前糖尿病”
 5 久山町研究が明らかにした日本人の前糖尿病状態
 6 日本糖尿病学会が定める境界型の問題
 7 未病の段階から脳心血管疾患は増えはじめる
 8 HAPOスタディが明らかにした極早期糖代謝異常の恐ろしさ
 9 妊娠糖尿病の診断基準
 10 日本における妊娠糖尿病の実態
 11 歯周病が妊娠糖尿病を誘発する?
 12 早期糖代謝異常に関わる糖尿病予防認定歯科衛生士
第VI編 歯科医科連携がこの国を変える
 1 医科から歯科への期待
 2 内閣府から歯科への期待
 3 厚生労働省から歯科への期待
 4 日本糖尿病協会から歯科への期待
 5 なぜ日本糖尿病協会は歯科を重視するようになったのか?
 6 読者のみなさまにできること