やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

監訳にあたって
 医療施設における感染の予防・管理は重要な課題の1つで,多くの国で検討がなされてきました.米国のCDC(Centers for Disease Control and Prevention:疾病管理予防センター)は,世界のリーダー的役割を担って感染対策に関するガイドラインを発表してきました.HIV感染症が急増した際は,1985 年に感染予防の基本となるユニバーサルプレコーション(Universal Precautions:一般的予防策)が提唱されました.1996 年には,その概念を拡大してスタンダードプレコーション(StandardPrecautions:標準予防策)を提唱し,現在にいたっています.歯科医療従事者にとって,処置や器具を介して発生する職業曝露の管理(Exposure Control)が重要な使命で,スタンダードプレコーション,器機の工学的管理(Engineering Control) や作業手順の管理(WorkPractice Control)などに関して,工夫が重ねられてきました.このような歴史的背景を基に,2003 年にCDCが発表した「歯科臨床における院内感染対策ガイドライン」は,現在の歯科臨床における感染予防の原則といえます.2004 年には,院内感染や病院感染に代えて,病院内だけではなく在宅医療などを含めた医療を行うすべての施設で生じる感染という意味で,HAI(HealthcareAssociated Infection:医療関連感染)という用語を提唱しています.したがって,どのような施設においても安全・安心な歯科医療へ向けての感染予防・管理が求められ,その内容はますます多岐にわたるようになってきました.2017 年に発表された厚生労働省科学研究班のアンケート結果によると,わが国では歯科用ハンドピースを患者ごとに滅菌交換するという基本的な感染管理が,未だ約半数の施設でしか行われていないことが明らかになりました.この結果から,すべての歯科医療人が感染対策の重要性を認識するために,一層の周知が必要であることを痛感しています.
 本ガイドラインは,先述の歯科に関するガイドラインから13 年経過した2016 年にCDCから再び提唱されたもので,最新の情報や新たな項目が追加掲載され,関連論文も豊富に掲載されています.各項目には遵守すべき原則または主な提言がまとめられ,基本的なスタンダードプレコーションが再確認されるように記載されています.巻末には,遵守すべき感染対策概要の手引きとして歯科診療における感染予防のためのチェックリスト(付録A),CDCから出版された関連ある提言(付録B),参考文献および追加資料(付録C)が掲載され,頭の整理に有用です.特に,付録Aは診療における感染管理のチェックに大いに役立つと思います.医歯薬出版のHP(https://www.ishiyaku.co.jp/r/422510/) からもダウンロードが可能ですので,ご活用いただければ幸いです.
 臨床現場における感染管理を理解され,より安全な歯科医療を実現していただくよう切にお願いします.
 平成30 年4 月20 日
 福岡歯科大学客員教授 樋口勝規
 福岡看護大学教授 岡田賢司
 監訳者・翻訳者
 監訳にあたって
 読者への注釈
 推奨される引用表記
 略語一覧
 緒言
目的
歯科医療施設における感染性物質の伝播予防に必要な基本要素
 管理法
 感染予防教育とトレーニング
 歯科医療従事者の安全
 プログラムの評価
 スタンダードプレコーション
 手指衛生
 個人防護具
 呼吸器系衛生/ 咳エチケット
 鋭利な器具の安全使用
 安全な注射法
 患者治療用器具の滅菌と消毒
 環境感染の予防と管理
 歯科用ユニットの水質基準
リスク評価
まとめ
 参考文献
 付録A;歯科医療施設における感染予防チェックリスト:安全な診療のための基本的心構え
  セクションI:指針と実施
  セクションII:個人および診療の直接的な観察
 付録B;2003 年以降にCDCから出版された関連のある提言
 付録C;話題の領域での抽出参考文献と追加資料
 参考写真