やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 歯科衛生士にとってSRPは重要な業務の一つであり,現在の歯科衛生士教育のなかでもSRPに関するものは多大な時間を必要としています.しかし,私の学生時代は,グレーシーキュレットに関する模型実習はおろか,講義もありませんでした.しかし,歯周病科の臨床実習にいくと,初日に医局長からグレーシーキュレットのカッティングエッジの見分け方や使い方などについて30分ほど説明を受けただけで,できるだけ使用するようにと言われて実習が始まりました.そのとき,歯周病に罹患している口腔内を初めて見ただけでなく,それまではシックルタイプスケーラーで歯肉縁上を中心とした実習しか行っていなかったにもかかわらず,いきなり歯肉縁下にグレーシーキュレットを挿入してみました.すると,キュレットはおもしろいように歯肉縁下に入っていきました.今考えてみると,かなり恐ろしいことをしたものです.1週間の臨床実習はあっという間に終わり,キュレットを使用できる時期も終わってしまいました.その後,シックルタイプスケーラーでのSRPに物足りなさを感じたことを覚えています.
 卒業後は大学病院に勤務しましたが,最初の配属は矯正科で,グレーシーキュレットに1度も触れることはありませんでした.しかし,歯周病科へ異動してからは,多くの先生方のSRPを見させていただき,ポジション,患者の姿勢,ライティング,キュレットの使い方など,そのどれもが勉強となり,見ているだけでも楽しかったです.また同時に,多くの患者さんのSRPをさせていただく機会も得ました.先生方のやり方を思い出しながら,1人でさまざまなポジションをとってSRPをしている姿はさぞかし滑稽なことだったでしょう.そして,歯科衛生士学校の教員となり,在籍した10年間も「歯科予防処置」を担当していたため,ずっとグレーシーキュレットとともにあったような気がします.技術は感覚的な要素が多く,頭で理解していてもそれを行うことは難しいもので,教員時代はそれを言葉で伝えることの難しさを痛感した10年間でもありました.
 歯科衛生士教育はそのまま臨床へとつながらなければ意味がないと思います.本書では基本を押さえながらも,それらを臨床にどう対応させていくのかを考えながら書いてきたつもりです(授業をしていて,学生がどこで躓いていたのか,どのように説明すればよいのかを思い出しながら…).本書が皆さまのSRP技術の習得ならびに向上の一助となれば幸いです.
 最後になりましたが,歯周病科在籍時代から現在まで変わらずご指導いただいた藤川歯科医院の藤川謙次先生,快く写真を提供してくださった松本歯科大学の音琴淳一先生,そして最後まで励まし,支えてくださった編集の菅沼勉氏に心から感謝し,御礼申し上げます.
 2009年1月 立澤敦子
I編 歯周組織の状態把握
1 歯周組織についての基礎知識
 1.歯肉
 2.歯槽骨
 3.歯根膜
 4.セメント質
  SRPの目的は歯石除去?
2 歯周組織検査の基礎知識
 1.歯周組織検査の種類
 2.口腔内観察
 3.プロービング
 4.動揺度の検査
 5.根分岐部病変の検査
 6.口腔清掃状態の検査
 7.エックス線検査
  歯周組織検査とSRP
II編 基本となる設定とアプローチ
1 設定
 1.術者の基本姿勢
 2.ユニットの設定
 3.術者と患者の位置関係
 4.ライティング
 5.ミラー操作
2 基本アプローチ
 1.グレーシーキュレットの基礎知識
 2.把持法
 3.固 定
 4.キュレット操作
  キュレット選択時間の短縮
  左利きの人
3 シャープニング
 1.シャープニングの目的と時期
 2.鋭利度の確認方法
 3.シャープニングの方法
III編 各施術部位へのアプローチ
1 効果的なトレーニングを行うために
 1.トレーニングの段階
 2.トレーニングの目標と評価
2 上顎前歯部へのアプローチ
 1.歯の形態
 2.唇側での操作
 3.口蓋側での操作
3 下顎前歯部へのアプローチ
 1.歯の形態
 2.唇側での操作
 3.舌側での操作
4 下顎臼歯部へのアプローチ
 1.歯の形態
 2.頬側近心部での操作
 3.頬側中央部での操作
 4.頬側遠心部での操作
 5.舌側近心部での操作
 6.舌側中央部での操作
 7.舌側遠心部での操作
5 上顎臼歯部へのアプローチ
 1.歯の形態
 2.頬側近心部での操作
 3.頬側中央部での操作
 4.頬側遠心部での操作
 5.口蓋側近心部での操作
 6.口蓋側中央部での操作
 7.口蓋側遠心部での操作
6 患者への操作
 1.患者設定
 2.簡易防湿
 3.粘膜の排除
 4.鏡視
 5.キュレット操作
  補綴物マージン付近のストローク