序にかえて
“このパーシャルの設計はどうしたらいいのでしょうか“,と学生が模型をもってくる. 指導教官はちょっと模型を見て, “これとこれにレスト付き2腕鉤, これに双子鉤でいこう“. “なぜレスト付き2腕鉤なのですか“ と学生が問えば,“こことここにアンダーカットがあるでしょう”と答えが返ってくる.このように, 従来からのクラスプ設計は, “アンダーカットによって決める” 傾向が強かった.
クラスプは維持装置であるから,義歯の構成要素として担うべき役割がある.いうまでもなく,支持・把持・維持であり,この機能を発揮するにはクラスプの各部が,鉤歯の適切な位置に設定されていなければならない.主としてアンダーカットの有無によって決められたクラスプが,このような条件を満たすであろうか.多くの場合,“否”であろう.つまり,設定されたクラスプが,本来もっているべき役割を果たさないことになる.これでは診断を反映した設計とはならず,きわめて矛盾したパーシャルデンチャーの設計となってしまう.
このように従来のクラスプ設計に不都合を感じていたが,昭和48年秋,松元 誠助教授が UCLAの F.J.Kratochvil教授のもとでの研修から戻られ,同教授のテキストの輪読会が始められた.そしてクラスプの機能と構造とを,それぞれ独立してとらえる Kratochvil教授のIバーシステムに,強い共感をいだき,この考えを積極的に導入してクラスプデンチャーの設計を行うようになった.
ほぼ時を同じくして,リジッド・サポートの導入ならびにコーヌス・テレスコープの臨床応用が始まった.義歯の設計原則の具体化には,コーヌス・テレスコープが最適な補綴方法であったため,われわれの関心は,もっぱらコーヌスの臨床応用の確立へ向けられた.
非緩圧的な義歯設計の考え方である,リジッド・サポートは,コーヌス・テレスコープの良好な長期経過からも,その妥当性が強く確信され,欠損歯列の基本的処置方針として,受け入れられている.そこで,臨床応用の頻度が圧倒的に高い,クラスプデンチャーにおいて,テレスコープと同等の状況は無理であっても,かなり近似したリジッド・サポートの設計が行えないか,が新たな課題となってきた.
診断に基づいてそれぞれの鉤歯は,維持装置の役割を分担することになる.“この役割の達成を第一として設計を検討する”,これは当然のことであり,また合理的な設計の考え方でもある.そこで,クラスプを機能的にとらえ,クラスプ単独ではなく義歯全体の構成のなかで設計を検討し,鉤歯に要求される機能を発揮するためのクラスプ各部の構造を求めてゆく.そしてこれらの構造の組み合わせによって,1つの維持装置が構成される.このような考えで,クラスプデンチャーの設計を行うようになった.
この考え方は,Kratochvil教授によるパーシャルデンチャー設計が大きな背景となっており,同教授のIバークラスプの考案に心からの敬意を表するものである.さらに松元 誠助教授はじめ第1歯科補綴学教室の先輩諸兄ならびに後輩各位の所産でもあり,ここに諸先生各位に厚くお礼申しあげます.
“クラスピング“という言葉は,なじみがなく奇異に思われるかもしれない.機能に応じた構造の組み合わせによって1つのクラスプを構成する,という機能的な考え方を表現するために,“何々クラスプ“ではなく設計方法を含めた意味で“クラスピング”としたものである.
第1歯科補綴学教室 藍 稔教授には,ご多忙のところご校閲ならびにご指導をいただき,厚くお礼申しあげます.東京医科歯科大学 中沢 勇名誉教授ならびに鶴見大学 尾花甚一教授には,つねに有意義なご教示をいただき,深く感謝いたしております.
日ごろからわれわれの臨床を,力強く支えてくれている,本学付属病院歯科技工部 加賀谷忠樹副部長,土平和秀主任ならびに職員各位および付属歯科技工士学校各位に感謝いたします.メタルフレームの製作は,そのほとんどを三金ラボラトリーへ依頼した.種々な要望に応じてくれた,加納 隆氏ならびに所員各位に深謝いたします.
おわりに,このような機会を与えていただいた医歯薬出版株式会社,ならびにお骨折りいただいた編集担当諸氏に,お礼申しあげます.
1990年1月31日 後藤忠正
“このパーシャルの設計はどうしたらいいのでしょうか“,と学生が模型をもってくる. 指導教官はちょっと模型を見て, “これとこれにレスト付き2腕鉤, これに双子鉤でいこう“. “なぜレスト付き2腕鉤なのですか“ と学生が問えば,“こことここにアンダーカットがあるでしょう”と答えが返ってくる.このように, 従来からのクラスプ設計は, “アンダーカットによって決める” 傾向が強かった.
クラスプは維持装置であるから,義歯の構成要素として担うべき役割がある.いうまでもなく,支持・把持・維持であり,この機能を発揮するにはクラスプの各部が,鉤歯の適切な位置に設定されていなければならない.主としてアンダーカットの有無によって決められたクラスプが,このような条件を満たすであろうか.多くの場合,“否”であろう.つまり,設定されたクラスプが,本来もっているべき役割を果たさないことになる.これでは診断を反映した設計とはならず,きわめて矛盾したパーシャルデンチャーの設計となってしまう.
このように従来のクラスプ設計に不都合を感じていたが,昭和48年秋,松元 誠助教授が UCLAの F.J.Kratochvil教授のもとでの研修から戻られ,同教授のテキストの輪読会が始められた.そしてクラスプの機能と構造とを,それぞれ独立してとらえる Kratochvil教授のIバーシステムに,強い共感をいだき,この考えを積極的に導入してクラスプデンチャーの設計を行うようになった.
ほぼ時を同じくして,リジッド・サポートの導入ならびにコーヌス・テレスコープの臨床応用が始まった.義歯の設計原則の具体化には,コーヌス・テレスコープが最適な補綴方法であったため,われわれの関心は,もっぱらコーヌスの臨床応用の確立へ向けられた.
非緩圧的な義歯設計の考え方である,リジッド・サポートは,コーヌス・テレスコープの良好な長期経過からも,その妥当性が強く確信され,欠損歯列の基本的処置方針として,受け入れられている.そこで,臨床応用の頻度が圧倒的に高い,クラスプデンチャーにおいて,テレスコープと同等の状況は無理であっても,かなり近似したリジッド・サポートの設計が行えないか,が新たな課題となってきた.
診断に基づいてそれぞれの鉤歯は,維持装置の役割を分担することになる.“この役割の達成を第一として設計を検討する”,これは当然のことであり,また合理的な設計の考え方でもある.そこで,クラスプを機能的にとらえ,クラスプ単独ではなく義歯全体の構成のなかで設計を検討し,鉤歯に要求される機能を発揮するためのクラスプ各部の構造を求めてゆく.そしてこれらの構造の組み合わせによって,1つの維持装置が構成される.このような考えで,クラスプデンチャーの設計を行うようになった.
この考え方は,Kratochvil教授によるパーシャルデンチャー設計が大きな背景となっており,同教授のIバークラスプの考案に心からの敬意を表するものである.さらに松元 誠助教授はじめ第1歯科補綴学教室の先輩諸兄ならびに後輩各位の所産でもあり,ここに諸先生各位に厚くお礼申しあげます.
“クラスピング“という言葉は,なじみがなく奇異に思われるかもしれない.機能に応じた構造の組み合わせによって1つのクラスプを構成する,という機能的な考え方を表現するために,“何々クラスプ“ではなく設計方法を含めた意味で“クラスピング”としたものである.
第1歯科補綴学教室 藍 稔教授には,ご多忙のところご校閲ならびにご指導をいただき,厚くお礼申しあげます.東京医科歯科大学 中沢 勇名誉教授ならびに鶴見大学 尾花甚一教授には,つねに有意義なご教示をいただき,深く感謝いたしております.
日ごろからわれわれの臨床を,力強く支えてくれている,本学付属病院歯科技工部 加賀谷忠樹副部長,土平和秀主任ならびに職員各位および付属歯科技工士学校各位に感謝いたします.メタルフレームの製作は,そのほとんどを三金ラボラトリーへ依頼した.種々な要望に応じてくれた,加納 隆氏ならびに所員各位に深謝いたします.
おわりに,このような機会を与えていただいた医歯薬出版株式会社,ならびにお骨折りいただいた編集担当諸氏に,お礼申しあげます.
1990年1月31日 後藤忠正
序にかえて
1章 パーシャルデンチャーの設計原則
A パーシャルデンチャーの経過から
1.義歯の破損への対応
2.義歯の不適合への対応
3.鉤歯の障害への対応
1)機能力負担に対して
2)口腔汚染に対して
a)プラークの除去
b)補綴的プラークコントロール
B パーシャルデンチャーの設計原則
2章 クラスプの考え方
A 形態的立場からみたクラスプ
1.環状型クラスプ
2.バー型クラスプ
B 機能的立場からみたクラスプ
3章 クラスプデンチャーの設計
A 設計原則の具体化
1.“義歯の動揺”の最小化――レスト,ガイドプレーンの設定
2.予防歯学的配慮――補綴的プラークコントロール
3.破損の防止――義歯の強化
B クラスプデンチャー設計の実際
1.維持歯(鉤歯)の選択
1)生物学的立場から
2)補綴学的立場から
a)鉤歯の数と配置
b)鉤歯の役割
2.仮設計と前処置
3.クラスプデンチャーの設計
4.クラスプの設計例
4章 クラスプデンチャーの臨床
症例1
症例2
症例3
症例4
症例5
5章 ワンポイントアドバイス
A 鉤歯の歯冠修復
B 前歯部での支持の確保
C 前歯部での維持鉤腕
D アンレーレストの活用
E 辺縁歯肉の健康のために
F 装着後のホームケア
G クラスプに合わせた歯冠修復
H 破損したクラスプの修理
I アタッチメント・テレスコープの応用
J 鉤歯の動揺度変化
文献
索引
1章 パーシャルデンチャーの設計原則
A パーシャルデンチャーの経過から
1.義歯の破損への対応
2.義歯の不適合への対応
3.鉤歯の障害への対応
1)機能力負担に対して
2)口腔汚染に対して
a)プラークの除去
b)補綴的プラークコントロール
B パーシャルデンチャーの設計原則
2章 クラスプの考え方
A 形態的立場からみたクラスプ
1.環状型クラスプ
2.バー型クラスプ
B 機能的立場からみたクラスプ
3章 クラスプデンチャーの設計
A 設計原則の具体化
1.“義歯の動揺”の最小化――レスト,ガイドプレーンの設定
2.予防歯学的配慮――補綴的プラークコントロール
3.破損の防止――義歯の強化
B クラスプデンチャー設計の実際
1.維持歯(鉤歯)の選択
1)生物学的立場から
2)補綴学的立場から
a)鉤歯の数と配置
b)鉤歯の役割
2.仮設計と前処置
3.クラスプデンチャーの設計
4.クラスプの設計例
4章 クラスプデンチャーの臨床
症例1
症例2
症例3
症例4
症例5
5章 ワンポイントアドバイス
A 鉤歯の歯冠修復
B 前歯部での支持の確保
C 前歯部での維持鉤腕
D アンレーレストの活用
E 辺縁歯肉の健康のために
F 装着後のホームケア
G クラスプに合わせた歯冠修復
H 破損したクラスプの修理
I アタッチメント・テレスコープの応用
J 鉤歯の動揺度変化
文献
索引