まえがき
日本人の寿命が延び,高齢化社会を迎えようとしている現在,生きがいのひとつでもある食べる(食生活)楽しみは,なんといっても歯が丈夫でなければなりません.
丈夫な歯にするには,子どものころからの心がけが大事です.また,いったん生えたおとなの歯は二度と生えてきませんので,一生を通じて使うことのできるように管理していくことが必要です.
人の歯には乳歯と永久歯の二種類ありますが,乳歯はどちらかというと,抜け替わり寿命が短いことから軽視されがちです.ところが,強い丈夫な永久歯をつくるには乳歯の時期が基盤になっていることを忘れてはなりません.
口の中の二大疾患はう蝕(むし歯)と歯周疾患(歯槽膿漏)ですが,最近では歯列不正(歯ならびや咬合の異常)についても知っておかなければなりません.また,唇顎口蓋裂や癌の患者も少なくありません.
厚生省が六年ごとに行う「歯科疾患実態調査」における一九八七年(昭62)度のデータでは,一〜十五歳までの乳歯のむし歯の有病者率は五九%,五歳以上の永久歯のむし歯の有病者率は八五%,五〜十五歳の乳歯と永久歯のむし歯の有病者率は九四%です.そのうち,処置を完了している人はそれぞれ二三%,三六%,二九%にすぎません.
また,歯周疾患は五〜十四歳で三三%,十五〜二十四歳で五九%,二十五〜三十四歳で七六%,三十五〜四十四歳で八〇%,四十五〜五十四歳で八三%,五十五〜六十四歳で七五%,六十五〜七十四歳で五三%,七十五歳以上では三〇%です.全体的にみてみますと六四%の罹患率になります.このように,歯科疾患の罹患率は他の身体の疾患に比べ非常に高くなっています.
しかし,最近の歯科医学の進歩には目を見張るものがあります.とくに,治療面では病気に対する診査・診断も確立され,歯を抜いたりせず,できるだけ歯を保存する治療に徹しています.また,欠損部に対しては見た目にも機能的にも精巧かつ精密に処置できるようになってきました.
とはいっても,歯や口の中の病気は初期のものほど治療によって完治することができますので,早期発見・早期治療が大切です.また,予防歯学の発達により,病気にならないよう,ある程度予防することもできます.
本書は,歯と口の中の病気の予防や治療について,小児から成人,老人にいたるまで,それぞれの専門医によってわかりやすく解説してあります.正しい知識のもとに,よりいっそう歯と口の中の健康管理を実践してほしいと思います.
今回,国立大学共同利用機関である放送教育開発センターの委嘱を受けて,広島大学が地域社会に開かれた大学を目指し,その一環として公開講座の充実を図り,地域社会と大学とを結ぼうとするものです.本書はそのための広島大学放送公開講座のテキストとしてRCCラジオ放送でも利用されるものです.
本書の発刊に際し医歯薬出版の今田喬士会長をはじめ須田隆雄取締役にご協力いただきました.お礼申し上げます.
一九八九年八月
長坂信夫
日本人の寿命が延び,高齢化社会を迎えようとしている現在,生きがいのひとつでもある食べる(食生活)楽しみは,なんといっても歯が丈夫でなければなりません.
丈夫な歯にするには,子どものころからの心がけが大事です.また,いったん生えたおとなの歯は二度と生えてきませんので,一生を通じて使うことのできるように管理していくことが必要です.
人の歯には乳歯と永久歯の二種類ありますが,乳歯はどちらかというと,抜け替わり寿命が短いことから軽視されがちです.ところが,強い丈夫な永久歯をつくるには乳歯の時期が基盤になっていることを忘れてはなりません.
口の中の二大疾患はう蝕(むし歯)と歯周疾患(歯槽膿漏)ですが,最近では歯列不正(歯ならびや咬合の異常)についても知っておかなければなりません.また,唇顎口蓋裂や癌の患者も少なくありません.
厚生省が六年ごとに行う「歯科疾患実態調査」における一九八七年(昭62)度のデータでは,一〜十五歳までの乳歯のむし歯の有病者率は五九%,五歳以上の永久歯のむし歯の有病者率は八五%,五〜十五歳の乳歯と永久歯のむし歯の有病者率は九四%です.そのうち,処置を完了している人はそれぞれ二三%,三六%,二九%にすぎません.
また,歯周疾患は五〜十四歳で三三%,十五〜二十四歳で五九%,二十五〜三十四歳で七六%,三十五〜四十四歳で八〇%,四十五〜五十四歳で八三%,五十五〜六十四歳で七五%,六十五〜七十四歳で五三%,七十五歳以上では三〇%です.全体的にみてみますと六四%の罹患率になります.このように,歯科疾患の罹患率は他の身体の疾患に比べ非常に高くなっています.
しかし,最近の歯科医学の進歩には目を見張るものがあります.とくに,治療面では病気に対する診査・診断も確立され,歯を抜いたりせず,できるだけ歯を保存する治療に徹しています.また,欠損部に対しては見た目にも機能的にも精巧かつ精密に処置できるようになってきました.
とはいっても,歯や口の中の病気は初期のものほど治療によって完治することができますので,早期発見・早期治療が大切です.また,予防歯学の発達により,病気にならないよう,ある程度予防することもできます.
本書は,歯と口の中の病気の予防や治療について,小児から成人,老人にいたるまで,それぞれの専門医によってわかりやすく解説してあります.正しい知識のもとに,よりいっそう歯と口の中の健康管理を実践してほしいと思います.
今回,国立大学共同利用機関である放送教育開発センターの委嘱を受けて,広島大学が地域社会に開かれた大学を目指し,その一環として公開講座の充実を図り,地域社会と大学とを結ぼうとするものです.本書はそのための広島大学放送公開講座のテキストとしてRCCラジオ放送でも利用されるものです.
本書の発刊に際し医歯薬出版の今田喬士会長をはじめ須田隆雄取締役にご協力いただきました.お礼申し上げます.
一九八九年八月
長坂信夫
1 歯の健康とは――歯と歯列と咬合の再認識―― 山内和夫
歯の役割
歯の健康
歯列と咬合
不正咬合の問題点
2 小児のむし歯と歯ならび 長坂信夫
小児期のむし歯の発生
1 乳歯がむし歯にかかりやすい理由
2 むし歯の発生しやすい部位
3 むし歯の成因
むし歯の予防
1 むし歯の予防時期
2 むし歯の予防方法
小児の歯ならび
1 遺伝的な問題
2 環境的な問題
3 異常な歯列と咬合の治療 山内和夫
異常の種類
1 歯ならび(歯列)の異常
2 咬み合わせの異常(異常咬合)
矯正治療の開始時期について
矯正治療に要する期間について
矯正装置について
4 むし歯,歯周疾患,口臭の予防 岩本義史
むし歯の予防
1 むし歯の流行病としての特徴
2 むし歯予防法のいろいろ
歯周疾患の予防
1 人間はなぜ歯を失うか
2 歯槽膿漏は防げるか
3 じょうずな歯の磨き方
口臭の予防
1 口臭とは
2 口臭の原因
3 口臭の予防
5 むし歯の治療と修復材料 新谷英章
むし歯とは
むし歯の治療方法と材料の選択
窩洞形成
修復の方法
1 成形修復法
2 インレー修復法
3 直接金修復法
6 歯槽膿漏の原因と処置 岡本 莫
歯槽膿漏は古くて新しい病気
歯槽膿漏とはどんな病気?
歯槽膿漏の原因は?
歯槽膿漏の治療
1 プラークコントロール
2 スケーリングとルートプレーニング
3 歯周外科治療
7 唇顎口蓋裂の治療 高田和彰
口の中のいろいろな病気と口腔外科
唇顎口蓋裂とはどんな病気?
1 唇顎口蓋裂はどうして起こる?
2 原因は?
唇顎口蓋裂の治療は?
1 手術前の治療とは? なぜ必要なのか?
2 手術はいつごろが最適か?
3 手術のあとはどんな治療が必要か?
4 仕上げの治療とは?
予防法は?
8 口の癌 下里常弘
癌とは
癌の発生
口の癌の発生率と分類
口の癌の診断
1 現病歴
2 現症(現在の口の中の状態)
3 検査
口の癌の症状
癌の治療
1 外科手術による治療法
2 放射線による治療法
3 抗癌剤による治療法
4 免疫力を高める治療法
口の癌の予後
9 歯やあごの病気のレントゲン検査 和田卓郎
歯やあごの骨の病気はレントゲン検査でどのようにわかるか
1 むし歯(う蝕)
2 歯槽膿漏など
3 あごの骨の中へ広がる炎症
4 顎骨嚢胞
5 歯原性腫瘍など
6 悪性腫瘍
どのようなレントゲン検査があるか
特殊なレントゲン検査
レントゲン検査時の被曝について
10 義歯(入れ歯)のつくり方と日常の手入れ 津留宏道
義歯とは何か,どんなことに役立つか
型どり(印象)と咬み合わせ
1 印象
2 咬み合わせ
人工歯の並べ方と顔の美しさ
仮義歯のチェックと合成樹脂への置き換え
1 仮義歯のチェック
2 合成樹脂への置き換え
患者への義歯の装着
定期診査(リコール)の必要性
義歯に付着する歯垢とその清掃法
11 クラウン・ブリッジ 浜田泰三
クラウン・ブリッジ補綴とは
なぜ歯を削るか
ポストクラウン(つぎ歯,継続歯)と支台築造
印象
金属冠
金属とポーセレンやレジンのクラウン
金属を用いないクラウン
ブリッジ
接着ブリッジ
クラウン・ブリッジとメインテナンス
歯の役割
歯の健康
歯列と咬合
不正咬合の問題点
2 小児のむし歯と歯ならび 長坂信夫
小児期のむし歯の発生
1 乳歯がむし歯にかかりやすい理由
2 むし歯の発生しやすい部位
3 むし歯の成因
むし歯の予防
1 むし歯の予防時期
2 むし歯の予防方法
小児の歯ならび
1 遺伝的な問題
2 環境的な問題
3 異常な歯列と咬合の治療 山内和夫
異常の種類
1 歯ならび(歯列)の異常
2 咬み合わせの異常(異常咬合)
矯正治療の開始時期について
矯正治療に要する期間について
矯正装置について
4 むし歯,歯周疾患,口臭の予防 岩本義史
むし歯の予防
1 むし歯の流行病としての特徴
2 むし歯予防法のいろいろ
歯周疾患の予防
1 人間はなぜ歯を失うか
2 歯槽膿漏は防げるか
3 じょうずな歯の磨き方
口臭の予防
1 口臭とは
2 口臭の原因
3 口臭の予防
5 むし歯の治療と修復材料 新谷英章
むし歯とは
むし歯の治療方法と材料の選択
窩洞形成
修復の方法
1 成形修復法
2 インレー修復法
3 直接金修復法
6 歯槽膿漏の原因と処置 岡本 莫
歯槽膿漏は古くて新しい病気
歯槽膿漏とはどんな病気?
歯槽膿漏の原因は?
歯槽膿漏の治療
1 プラークコントロール
2 スケーリングとルートプレーニング
3 歯周外科治療
7 唇顎口蓋裂の治療 高田和彰
口の中のいろいろな病気と口腔外科
唇顎口蓋裂とはどんな病気?
1 唇顎口蓋裂はどうして起こる?
2 原因は?
唇顎口蓋裂の治療は?
1 手術前の治療とは? なぜ必要なのか?
2 手術はいつごろが最適か?
3 手術のあとはどんな治療が必要か?
4 仕上げの治療とは?
予防法は?
8 口の癌 下里常弘
癌とは
癌の発生
口の癌の発生率と分類
口の癌の診断
1 現病歴
2 現症(現在の口の中の状態)
3 検査
口の癌の症状
癌の治療
1 外科手術による治療法
2 放射線による治療法
3 抗癌剤による治療法
4 免疫力を高める治療法
口の癌の予後
9 歯やあごの病気のレントゲン検査 和田卓郎
歯やあごの骨の病気はレントゲン検査でどのようにわかるか
1 むし歯(う蝕)
2 歯槽膿漏など
3 あごの骨の中へ広がる炎症
4 顎骨嚢胞
5 歯原性腫瘍など
6 悪性腫瘍
どのようなレントゲン検査があるか
特殊なレントゲン検査
レントゲン検査時の被曝について
10 義歯(入れ歯)のつくり方と日常の手入れ 津留宏道
義歯とは何か,どんなことに役立つか
型どり(印象)と咬み合わせ
1 印象
2 咬み合わせ
人工歯の並べ方と顔の美しさ
仮義歯のチェックと合成樹脂への置き換え
1 仮義歯のチェック
2 合成樹脂への置き換え
患者への義歯の装着
定期診査(リコール)の必要性
義歯に付着する歯垢とその清掃法
11 クラウン・ブリッジ 浜田泰三
クラウン・ブリッジ補綴とは
なぜ歯を削るか
ポストクラウン(つぎ歯,継続歯)と支台築造
印象
金属冠
金属とポーセレンやレジンのクラウン
金属を用いないクラウン
ブリッジ
接着ブリッジ
クラウン・ブリッジとメインテナンス