やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文

 補綴科に勤務していて楽しいことは,患者さんがいつまでも自分の名前を覚えていてくれることです.苦労して根管治療をした先生には申し訳ないことですけど,患者さんには口の中に残るものをつくった人が印象的なようです.それだけに恐ろしい気もします.
 補綴物はつくることも非常に大切ですが,どのように診断し,どのように設計するかはもっとむずかしく重要な事柄です.
 補綴は一昔前までは物をつくりあげることに精力を使ってきました.もちろん,義歯をつくることもおろそかにはできません.しかし,現在では歯や口腔領域の先天的,後天的な欠損や機能の回復をはかるのを主目的としています.
 クラウンブリッジではその一分野を受け持ち,単冠から口腔全体に及ぶものまで多岐にわたっています.
 今回,アトラスをつくるにあたって,補綴の診断および診療技術がたいへんむずかしく,また,方策が確立していないことをあらためて認識させられました.たとえば,ブリッジでAnte,DuChangeの指数のように支台歯に指数を与え,設計の参考にしますが,基本的な術式ですら経験の積み重ねの部分が多く,明解に割り切って設計する部分は少ないのが現状と思われます.
 本書は卒業直前・直後の方を対象にしたもので,各分野の経験豊富な先生方にお知恵を借りて補綴物の設計の要点をまとめ,できあがったものです.
 自分の遭遇している症例と同じものがあればその症例検討をみて,また,治療の流れを必要とされる方は総説から読まれることをお勧めします.また,本書とは異なった見方を有する方には,この症例検討を批判の対象として自分を高めてくださるようお使いいただければ,編集者の一人として喜ばしいかぎりです.
 おわりに,貴重な症例および解説を寄せてくださった諸先生方にお礼申し上げるとともに,紙面の都合上,一部変更させていただいたことをおわび致します.また,夜遅くまで原稿の整理に活躍してくれた編集諸氏に感謝します.
 1988年3月 編者一同
1章 クラウン作製に必要な診査,診断および治療計画…編者一同
 総説
 1.クラウン装着の目的
 2.クラウン作製のための審査,診断,治療計画について
 3.前処置
 4.症例
2章 前処置…石橋寛二,清野和夫
 総説
 1.口腔衛生指導
 2.口腔外科処置
 3.歯内治療
 4.歯周治療
 5.歯科矯正処置
 6.筋や顎関節に対する処置および適正な咬合関係の確保
 症例1 歯周に対する処置の必要な症例(歯周疾患処置後のクラウン)
 症例2 支台歯の根管処置を必要とする症例
 症例3 咬合の是正を必要とする症例
 症例4 歯列全体の咬合調整を必要とする症例
 症例5 抜歯時期の歯槽骨が安定する時期について
 症例6 欠損部顎堤の整形
 症例7 埋伏歯の処置を必要とする症例
3章 支台歯形成
 総説…川添堯彬
 1.クラウンの基本的支台歯形態(全部鋳造冠)
 2.支台歯形成時の注意点
 3.クラウンの支台歯形成と保持力について
 4.合釘(ポスト)の保持力について
 症例1 歯周疾患とマージンの位置について…川添堯彬,末瀬一彦
 症例2 形成と伝達麻酔(効果のある範囲)…天野秀雄,猪野照夫
 症例3 残存歯質と支台築造…川添堯彬,大塚潔
 症例4 マージンの形態と補綴物の書類について…天野秀雄,田端義雄
 症例5 マージンにベベルを付与する意味について…天野秀雄
 症例6 歯頸部の形と形成について…川添堯彬
 症例7 ポストの形成…川添堯彬,末瀬一彦
 症例8 3/4冠の形成…川添堯彬,末瀬一彦
 症例9 保持力不足で脱落した症例…川添堯彬
4章 印象材および印象採得
 総説…川和忠治
 1.理工学的特徴および臨床上の注意点
 2.印象法
 3.根管の印象法
 症例1 シリコーン印象材(疎水性印象材)を用いるのに適切な症例…川和忠治,割田研司
 症例2 歯肉縁下の印象がむずかしい症例…川和忠治,割田研司
 症例3 個歯トレーと印象材との接着に配慮が必要な症例…川和忠治,割田研司
5章 模型…畑 好昭
 総説
 1.模型作製の目的
 2.模型材の条件
 3.作業用模型の種類
 症例1 模型のトリミング
 症例2 作業用模型の特徴
 症例3 模型材の膨張とスペーサー
 症例4 咬合採得の材料と精度
6章 蝋形成,埋没,鋳造,研磨…竹花庄治,伊藤裕
 総説
 1.蝋形成
 2.埋没,鋳造
 3.鑞着
 症例1 咬合面のつくり方-FGPテクニックによる全部鋳造冠の作製-ワックスコーンテクニックを応用した症例
 症例2 軸面形態のあり方-鉤歯に陶材焼付鋳造冠を装着後,義歯修理を行った症例
 症例3 研磨
 症例4 ブリッジの熱処理
7章 合着,咬合調整
 総説…甘利光治
 1.合着
 2.咬合調整
 症例1 浮き上がりとセメント 甘利光治,宮崎晴朗
 症例2 浮き上がりと遁路…甘利光治,石原善和
8章 クラウン
 症例1 接触点不良と食片圧入…戸代原孝義
 症例2 クラウンの豊隆のつけ方…潤田和良,大友孝恒
 症例3 咬合面接触状態をどうする…青木英夫,山村雅章
 症例4 咬合と補綴物-咬合様式について…青木英夫,渡辺英男
 症例5 クラウンマージンの変化した症例…村田義純,妻鹿純一
 症例6 審美性を重んじる補綴物…坂口邦彦,紀田樹介
 症例7 部分被覆冠について…村田義純,妻鹿純一
 症例8 焼付冠セット時の不快事項…坂口邦彦,紀田樹介
 症例9 前装冠(硬質レジン)の適応症…潤田和好,大友孝恒
 症例10 ポストクラウンの根面形態と咬合…潤田和好,大友孝恒
 症例11 異種金属によるガルバニー電流…青山 繁
 症例12 クラウンの装着(あるいは支台構造)と歯肉の着色…青山 繁
 症例13 ポーセレンジャケットクラウン…坂口邦彦,紀田樹介
 症例14 補綴物の種類と金属種…戸代原孝義
 症例15 色見本の使い方…坂口邦彦,紀田樹介
 症例16 ポーセレンジャケットクラウンの形と色…坂口邦彦,紀田樹介
9章 ブリッジ
 総説…羽賀通夫
 1.適応症の判別
 2.支台歯の決定
 3.支台装置の決定
 4.ポンティックの種類と連結法
 症例1 支台歯,支台装置選択の理由…羽賀通夫,大平秀明
 症例2 支台歯数の決め方…羽賀通夫,小船邦夫
 症例3 支台歯が平行でないとき…羽賀通夫,谷 繁信
 症例4 ブリッジの適応症…羽賀通夫
 症例5 ポンティックについて考える…石橋寛二
 症例6 萌出不十分な歯の支台への利用…戸代原孝義
 症例7 補綴隙について…内田康也,小城辰郎
 症例8 延長ブリッジの効用-MTM後に片側性および両側性延長ブリッジを装着した症例…内田康也,村上繁樹
 症例9 ポンティック下の潰瘍とポンティックの圧迫…石橋寛二
 症例10 前歯部ポンティックと臼歯部ポンティックの形態と材料…石橋寛二
 症例11 半固定性ブリッジ…内田康也,楪 雅行
 症例12 仮封冠について…坂口邦彦,紀田樹介
 症例13 オーラルリハビリテーション(咬合再構成)…五十嵐孝義
10章 術後管理
 症例1 クラウンブリッジ装着後の不快事項について…村田義純,妻鹿純一
 症例2 ポストクラウンの不快事項について…村田義純,妻鹿純一
 症例3 部分被覆冠の不快事項について…村田義純,妻鹿純一
 症例4 ポーセレンジャケットクラウンおよび歯の破折の症例…横塚繁雄,亀沢範之
 症例5 補綴物装着後の問題点…横塚繁雄,丸茂義二
 症例6 焼付冠ブリッジのマージンが下がり,冷水痛,楔状欠損などの外観不良を生じた症例…横塚繁雄,川名孝義
 症例7 前装材料(レンジ前装冠)の経年的変化あるいは汚れが目立つときの対策…横塚繁雄,鈴木正直
11章 補綴物と顎関節症…五十嵐孝義
 総説
 1.診査
 2.症例
 3.治療の一般的流れのまとめ
 付1 パントグラフの読み方…古屋良一
 付2 MKGの診査と読み方…青木英夫,玉置勝司
 付3 EMGの読み方…森谷良彦,久保田幸生
 付4 半調節性咬合器…平井敏博

 索引