やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社



 歯科の臨床において,毎日多くの歯冠修復が行われているにもかかわらず,その理想とする歯冠の形態についての考え方は,従来いろいろの立場からの報告をみるものの,統一された見解は見当たらない.そのなかの珠玉のようなすばらしい研究も,断片的で総括的なところまで言及しておらず,またいくばくかのまとめられた内外の図書にしても,そのほとんどが学問的な論拠に乏しく,観念的な臨床経験から述べられているにすぎない.
 歯周疾患,顎口腔機能異常の症例の多くが,補綴物ことに歯冠修復物の歯冠形態に起因していることを考えれば,基本的な歯冠形態はいかにあるべきか,基礎的な研究に基づき,正しい論拠の上に立脚した考え方を総括することは不可欠であり,急務である.
 本書は,先人の多くの貴重な文献と,われわれがこれまで発表してきた基礎的研究から到達した,修復における理想的な歯冠形態のあり方について,理論と実際を多くの臨床例を通じて述ベたものである.
 それぞれに異なる口腔内の環境において,多くの因子を有する生体に,すべてを画一的に満足させる解答を出すことはきわめて困難であり,著者自身もこの問題についてのすべてに正解を出すことは現在不可能かもしれない.しかし本書により,日ごろなんとなく見なれている歯冠形態の重要さを改めて知り,または確認し,そして内容が読者諸兄姉の臨床の一助となり,患者の口腔内の健康保持に末永く寄与することを願うものである.本書は,歯科医師,技工士の方々,歯学生にいたるまで理解していただくため,参考文献を豊富に掲載し,またカラーアトラス風の体裁で平易な文章とした.
 本書の内容は著者の研究,臨床におけるライフワークであることから,著者にとって念願の著書であり,このように一冊にまとめあげられたことは,まだ不十分とはいえ,著者自身,興奮覚めやらぬものがある.このように本書出版の機会を与えてくださった医歯薬出版株式会社の方々に心から感謝の意を表する次第である.
 また本書をまとめるために寝食を忘れて精力を傾注してくれた嶋倉道郎助教授,北村伸講師に深甚なる謝意を表する.さらに新潟大学歯学部第2補綴において,これまで研究を行い,また臨床における確認に努力してくれた旧教室員および現教室員,また新潟大学歯学部附属病院技工室の皆様の協力なくしての出版は不可能であったことを付記し,感謝する次第である.
 1985年11月1日 草刈 玄
 序

1.歯冠形態
  I.歯冠形態とは
  II.歯冠形態がもつ意義
  III.不良補綴物の害
2.隣接面形態
  I.隣接面形態の有する重要性
  II.食片圧入と歯周疾患
  III.隣接面の齲蝕
  IV.歯列および咬合関係と隣接接触状態のかかわり合い
   <レーザホログラフィとは>
  V.接触点(面)の解剖学
    1)接触点および面の出現率
    2)接触点(面)の位置
    3)接触点(面)の形
    4)接触点(面)の大きさ
    5)接触点(面)の表面状態
    6)接触点下の隣接面形態
  VI.理想的な隣接面形態とは
  VII.機能的にみた理想的な隣接接触関係
   1.持続的歯間離開を有する接触関係は論外
   2.一時的歯間離開に注目
    1)歯の動揺度の増加
    2)歯列全体としての歯間接触機構の減退
    3)歯間を離開させるように作用する咬合関係
     <歯間離開の客観的判定法――歯間離開度>
     <歯間離開度と食片圧入――コンタクトゲージ>
  VIII.形態的にみた理想的な隣接接触関係
   1.鼓形空隙の形状から
    1)上部鼓形空隙のいろいろの形
    2)頬舌的鼓形空隙についての考え方――点接触か,面接触か
    3)下部鼓形空隙のあり方
   2.咬合関係から
    1)咬頭の歯間部への嵌入
    2)歯間離開を引き起こす咬合関係
    3)近遠心辺縁隆線の咬耗による喪失
  IX.適正な接触点を得るための臨床術式
  X.食片圧入――診断と治療方針の立て方
   1.食片圧入の種類
   2.食片圧入の原因
   3.診査の進め方
   4.治療方針
  XI.食片圧入――症例の検討
   <食片圧入症例についてのポイント>
3.頬舌面形態
  I.頬舌面形態の有する重要性
  II.頬舌面の解剖学
   1.豊隆の位置,程度および周囲組織
   2.成書にみられる頬舌面形熊……6O
  III.頬舌面形態はいかにあるべきか――諸家の意見
   1.overcontourに対する考え方
   2.normalcontourを支持する考え方
   3.undercontourを支持する考え方
  IV.食物の流れとの関連
  V.筋肉との関係……7O
  VI.歯垢沈着との関連
  VII.清掃性の良し悪し
  VIII.食物による歯肉への刺激
  IX.理想的な頬舌面形態の要件
  X.適正な頬舌面形態を得るための臨床術式
   1.診査および診療計画
   2.前処置
   3.支台歯形成
   4.暫間冠
   5.一次印象採得
   6.歯型製作
   7.メタルコーピング製作
   8.二次印象採得
   9.シリコーンガム模型の製作
    <シリコーンガム模型の意義と応用法>
   10.ワックスアップ
   11.完成,口腔内試適,仮着
   12.合着,予後観察
  XI.特殊な症例における頬舌面形態
   1.歯根露出歯
    1)歯冠形態修正法
    2)歯周外科的処置
    3)歯冠修復
   2.歯根分割処置歯
    1)歯根分割保存法
    2)歯根分離抜去法
   3.捻転歯
   4.複雑な歯頸部断面形態を有する歯
    <食物の流れとその自浄性>
    <清掃性>
   5.異常な歯肉形態を有する歯
   6.反対咬合
    <食物の流れとその自浄性>
    <清掃性>
   7.鉤歯
   8.錯視を必要とする症例
    1)shapingあるいはcontouring(歯冠形態形成法)
    2)arrangement(配列法)
    3)staining(着色法)
4.咬合面形態
  I.咬合面形態の有する重要性
  II.諸家の著書にみられる咬合面形態
  III.理想的な上下歯の接触関係
   1.咬頭嵌合位のとき
   2.基本運動を行ったとき
    1)前方運動時の歯の接触
    2)後方運動時の歯の接触
    3)側方運動時の歯の接触
  IV.咬合器について
   1.咬合器の分類
    1)平線咬合器
    2)解剖的咬合器
   2.咬合器の選択
  V.咬合面形態の再現精度と顎口腔機能に与える影響
  VI.咬合関係の診査と調整法
    1)咬合関係の診査方法
    2)咬合調整の術式
  VII.咬合面形態の付与法
    1)FGPテクニックの特徴
    2)FGPテクニックの適用条件
    3)FGPテクニックの寸法精度
    4)FGPテクニックによる咬合面形態製作の術式
5.歯冠修復術式
  I.診査,治療方針の決定
  II.支台歯形成
  III.作業摸型製作
  IV.臼歯部における歯冠修復
  V.前歯部における歯冠修復

 文献
 索引