やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第1版の序

 看護教育でかなり長い間,歯科についての講義や看護実習をお手伝いしたが,いつでもどのようにすすめてよいか困ることが多かった.
 それは,看護教育の中で,歯科のことがかなり特異な位置を占めていることによるものであると気がついた.まず講義にしても,歯科の領域にはふつうの医療のカテゴリーにあてはまらない部分がいくつかある.そうかといって,それを詳しくやっていては先にすすめないし,大部分の看護婦たちにとってはあまり意味がないことになってしまう.
 そこで,この中からどんなことをえり分け伝えるか,ということを第一にしなければならない.
 看護の立場で歯科の患者を考えてみると,もちろん他に共通することが多い点はあるが,
 1.患部がいつも食物を摂り入れる口にあること
 2.患者の中で幼児や小児の占める比重が比較的多いこと
 などの特徴があることに気づく.さらに,一般的な問題として,どうしても私たちの立場から看護教育の中で強調しておきたいこととして,たえずよごれる方向を向いている口の中の清掃ということに対しどのように患者を指導していったらよいかということである.
 このように多様な,しかもある意味ではきわめて限定的であるかもしれないことが看護教育における歯科ではもとめらられるようである.
 こうしたことをふまえて,何度かお互いに話合いを続けて,たくさんの人にも意見を聞きながら,ひとまず形を整えることができた.
 私たちとしては,望外のことであったと思っている.
 しかし,まだまだ考えても及ばなかったところもあるし,被わなければならないこともあると思う.
 ただ実際の私たちの看護教育の体験の上でこれをまとめたことは秘かにほこりに思っている.お役に立てば幸いである.
 本書を執筆するにあたっては,多くの方々の御協力をいただいた.とくに,愛知学院大学原学郎教授,深谷昌彦教授,服部孝範助教授,高井克憙助教授,向井正視教授,稲本浩講師,本学付属病院各科,看護部,歯科衛生部に御助言や資料の提供をいただき,ここに心から謝意を表したい.また,手間のかかる仕事をひき受けてくださった医歯薬出版株式会社にも心からお礼を申しあげておきたい.
 なお,執筆は第1章を榊原悠紀田郎,第2,3,4章と付を中垣晴男,第5章を山中恵美子が担当した.
 昭和56年10月14日 榊原悠紀田郎 中垣晴男 山中恵美子

第2版の序

 昭和56年にこの本を出してから,たくさんの人がこれを使って,いろいろな意見を寄せていただいた.
 それらをもとにして,第2版ではつぎの点を改訂した.
 (1) その後の新しい情報を入れたこと.
 (2) 看護婦国家試験の問題を,科目別に整理し,さらに新しい問題を加えて,学生の勉学の便に供した.
 (3) ブラッシング実習の項目を加えて,より看護教育の実際に役立てようとした.
 その他,文章をなるたけ図表化するようにした.
 以上のことを踏まえて,今後共の叱正をお願いする.
 1987年12月16日 榊原悠紀田郎 中垣晴男 山中恵美子
第1章 歯科医療とは
 医療と歯科医療
 歯科医療の特異性
 歯科診療の内容
  1.歯科保存治療
  2.歯科補綴治療
  3.口腔外科治療
  4.矯正歯科治療
  5.小児歯科治療
  6.歯科予防処置
 歯科診療室の特徴
 歯科診療の補助の特徴
 歯科患者の看護の特徴

第2章 口腔および歯の知識
 口腔の構造
  1.口腔
  2.上顎骨
  3.下顎骨
  4.顎関節
  5.咀嚼に関与する筋
 口腔の機能
  1.咀嚼
  2.消化
  3.発音
  4.味覚
  5.嚥下
  6.審美観(表情)
 歯の知識
  1.歯種
  2.歯の外形
  3.歯の内部構造
  4.歯の周囲の組織(歯周組織,歯周)
  5.歯の微細構造
  6.歯の物理的性質
  7.歯の化学的性質およびエナメル質表層の性質
 歯の成長・発育
  1.歯の発生
  2.歯胚の発生時期と石灰化開始期
  3.歯の萌出
 歯科保健の水準
  1.う蝕有病(経験)
  2.歯肉の炎症および歯石沈着
  3.喪失歯数
  4.補綴状況
  5.不正咬合の状態
  6.歯をみがく者
  7.フッ化物塗布
口腔の衛生
  1.乳歯萌出期における衛生
  2.乳歯列期の衛生
  3.混合歯列期の衛生
  4.永久歯列期の衛生
  5.間食食品とう蝕
  6.歯口清掃
  7.歯垢(プラーク)の染め出し法
  8.歯ブラシ
  9.歯磨剤
  10.フロッシング(線掃法)
  11.義歯の清掃

第3章 歯および口腔の疾患
 歯の疾患
  1.う蝕
  2.歯髄炎
  3.歯根膜炎(根尖性歯周炎)
 歯周疾患
  1.歯肉炎
  2.歯周炎
  3.歯周疾患の原因
  4.歯周疾患の治療
  5.歯周疾患の予防
 口腔軟組織の疾患
  1.炎症
  2.嚢胞
  3.腫瘍
 顎骨の疾患
  1.顎骨骨折
  2.顎骨の炎症
  3.嚢胞
  4.腫瘍
 顎関節の疾患
  1.顎関節炎
  2.顎関節脱臼
  3.顎関節強直症
  4.顎関節症
 顔面や顎の奇形
  1.口唇裂
  2.口蓋裂
 不正咬合
 AIDSと口腔内症状と歯科における予防対策
  1.AIDS患者の口腔・顔面・頚部症状
  2.歯科診療におけるAIDS予防対策
  3.AIDSウイルスの消毒法

第4章 歯科的処置およびその介補
 歯科診療の流れ
 歯科診療の介補
  1.前準備
  2.患者の誘導および受診態勢のつくり方
  3.各治療の介補
  4.患者への必要な注意と退出誘導
  5.使用器械および器具・材料のかたづけ
 歯科治療の概要
 歯冠修復
  1.修復処置とその手順
  2.修復に使用する器具・材料
  3.修復法の概要
 歯内療法
  1.歯髄の鎮静療法
  2.覆髄(歯髄覆罩)法
  3.歯髄切断法(断髄法)
  4.抜髄・根管充填法
  5.根管治療・根管充填法
 歯周治療
  1.歯石除去(スケーリング)
  2.ポケット貼薬
  3.ポケット掻爬
  4.歯肉切除(ECT)
  5.歯肉剥離掻爬(FLAP)
  6.咬合調整法
  7.固定法
  8.全身療法
 床義歯
  1.床義歯の分類
  2.全部床義歯(フルデンチャー)
  3.部分床義歯(パーシャルデンチャー)
  4.小児義歯
  5.即時義歯
 口腔外科的処置
  1.抜歯
  2.膿瘍切開
  3.歯槽骨整形
  4.根尖(端)切除
  5.嚢胞摘出
  6.外傷の処置
 麻酔
  1.局所麻酔
  2.局所麻酔の器具・薬剤
  3.NLA麻酔および全身麻酔
 矯正歯科的処置
  1.矯正治療に用いられる器具・材料
  2.矯正装置の種類
  3.矯正的処置の手順
 小児歯科的処置
  1.小児歯科的処置の内容
  2.小児の歯科的取り扱い
  3.小児歯科で用いられる器械・器具および材料
  4.咬合誘導のための処置
  5.小児歯科的処置介補に必要な知識
 歯科予防処置
  1.う蝕予防処置
  2.歯周疾患の予防処置
 歯科臨床における消毒法

第5章 口腔外科患者の看護
 はじめに
 口腔外科患者の看護
  1.栄養の補給
  2.口腔内清潔保持
  3.口腔外科患者の精神面への援助
 疾患別看護
  1.顎骨外傷患者の看護
  2.炎症性疾患患者の看護
  3.良性腫瘍患者の看護
  4.嚢胞性疾患患者の看護
  5.悪性腫瘍患者の看護
  6.末期患者の看護
  7.口唇裂児の看護
  8.口唇修正術患者の看護
  9.口蓋裂児の看護
  10.口唇・口蓋裂児をもつ両親への援助指導
  11.顎骨変形症患者の看護
  12.顎関節強直症患者の看護
 包帯法
  1.使用材料
  2.包帯の巻き方
 入院患者の診療介助
  1.処置の実際
  2.患者サイドに立った援助
  3.含嗽剤の選択
 看護学生におけるブラッシング実習
 参考図書

付・講議のすすめ方
 試験問題
 索引