やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社



 歯学教育問題調査会が定めた歯科理工学教授要綱によると,歯科理工学の講義ならびに実習は専門課程1年次前後に実施し,さらに3年または4年次において補講を行うことになっている.また,その内容は金属材料,無機材料,有機材料および歯科用機械,器具となっており,物理,化学的性質とその取り扱い法を理解,修得させることを目的としている.
 歯科理工学の講義内容は各大学とも多少の差はあっても,ほぼ上記の要綱に沿って行われている模様であるが,理工学実習に至ってはまちまちである.年間100時間以上を実習にかけている大学もあれば,その半分にも満たないところもある.
 歯学教育基準によれば,専門の課程における歯科理工学および実習は,全体の3%の時間数が標準とされるのである.1年を30週,1週間の授業時間は最低35時間とされているから,専門課程の4年間は4,200時間となり,理工学は126時間,実施することが標準とされるのである.このうち,実習にどの位の時間を割くかは定められていないから,各歯科大学の自由である.前記のように,各大学で理工学実習の内容,実施方法が大幅に異なっているのは,やむを得ぬ次のような理由が考えられる.すなわち,理工学実習は歯科材料全般を取り扱うため,項目の多い広範な実習となりがちであること,そのための設備,教育要員の確保がむずかしいこと,絶対時間数の不足,などである.実習に採り上げたい項目に必要日数を乗ずると,到底カリキュラムに組み入れられない数字となるし,同一テーマの実習を一時に行うことも,膨大な設備を非能率的に使用する結果となるに止どまる.このような考えから,限られた時間内で有効な実習を行うためにグループ別,数項目の実習の平行,同時進行方式が多く採られている.われわれは各歯科大学の理工学実習内容を十分に検討し,われわれの各教室で実施できる方策を協議した.この調査のなかには Michigan大学の “Dental Materials Laboratory Projects“,Northwestern大学の “Dental Materials:A Laboratory Manual” および Indiana大学の “Dental Materials-Reference Notes” も含められた.われわれ4校の実習指導責任者は,かつて共同で実習指導に従事したことがあり,現在でもこの4校の実習項目および方法は似通っている点がはなはだ多い.これまでは各校それぞれ独自に一時的な印刷物を作って指導書としていた.理工学実習は特に対象とする試験材料が多く,個々の取り扱いに細かい制約と基準があるため,詳細なプロセスを記した指導書がぜひ必要となるのである.
 今回,出版社のすすめもあってわれわれの理工学実習に直ちに使用できる指導書の作成を計画したが,4校はそれぞれ実習室の規模も異なるし,学生数も異なる.全く同一条件で実習することはやはり不可能である.したがって,本書は実習条件と方法のうち,最も共通点の多い,いわば最大公約数を重点的に記してある.各校では実際に実験を行ううえに,さらに本書の内容に追加,補足する必要があるであろう.また,4校以外の歯科大学で,本書の実習項目,実習方法に近い条件のところでは,活用していただけるものと信じている.
 年間を通じて実習を100時間近く実施することができれば,ほぼ必要にして十分と考えられるが,現実には実習期間は半ヵ年の大学が多いようである.詳細な指導書の助けにより,学生諸君が事前に実習内容を理解していれば,必要時間は半減する.少なくとも実習室で始めて説明を受けるよりも,はるかに効果的であろう.本書は実習の具体的内容を,使用器具の一つひとつについても細かく記載した.実際には実習を行っていない項目でも,実施することが望ましいものはその方法を掲載した.その反面,実習時間をこえて,長時間の計測をしなければならないような材料では,あえて測定基準にとらわれず,実習時間内に納まるよう,方法を変えた点もあることをお断りしておく.
 大方のご叱正と読者のご活用を願うしだいである.
 昭和51年9月

3版の序

 本書の初版発行は昭和51年である.2年後に不備を補い改訂を加えた第2版を送り出してから5年を経過した.この間,各歯科大学における歯学教育カリキュラムならびに教授要綱に若干の変化はみられたが,年間数十時間という制約された歯科理工学実習の枠は全く変更はなかった.一つのテキストを4歯科大学で共用するという試みは一応所期の目的を達し,実習効果,能率の向上と経費の節減に与って力があった,と私達は自画自賛しているしだいである.
 初版発行以来の執筆者の一人,相 三衞教授が逝去せられたのは痛恨に耐えないが,残る4人の執筆陣のご苦労によって,今回,第3版を上梓することとなった.この5年間に幾多の歯科材料の変遷があり,消滅しないまでも医用材料としての評価が低下したもの,あるいは逆に従来軽視されていたものであっても,これを重視しなければならないものが出現してきている.今回の改訂の主眼は,これら歯科材料の趨勢に忠実に対応し,ほとんど全項目にわたって手を入れ,加筆,削除を行った.また,実習方法や数値なども現状に即したものに改めた結果,全体としてかなりの増ページとなった.見出しの項目は従来の配列を変更し,新たに「ワックス」,「埋没材」の項を新設し,既存の項目も部分的にかなりの改訂が加えられた.たとえば「印象材」に“稠度試験“が追加され,「ろう付」においては新たに“ブリッジのろう付精度”を加え,“検鏡試験”が削除された.また付録には新たに国際単位系(SI)ならびに SI単位換算率表を追加して利用者の便を計った.
 第3版の出版により本書はさらに学習能率を高め得たと信ずるが,増補改訂によって利用価値が高まったとしても本書の完成を意味するものではない.真の完成には吾人のたゆまざる努力の下に,長い年月を要するものであることを改めて思うのである.
 昭和58年吉日 金竹哲也

4版の序

 平成への改元の年,4歯科大学の歯科理工学講座が共通した基盤から発足した実習書も初版刊行以来満13年を経過する.
 歯科材料についての基本的な概念は大きく変わるものではないが,実習方法はより臨床的に,より実際的に,と常に4つの歯科理工学講座がたゆむことなくその改善に努力してきた粋を第4版に纏める運びとなった.
 (1) 歯科材料の性状は扱い方によって大きく変わる.とくに最近台頭してきているレジン系の材料の場合にその影響が強く表れる
 (2) 歯科材料の評価は,口腔内により近い条件で,より実用に近い方法によってテストされる必要がある
 (3) 新しい歯科材料が開発され,多用される時期にあってはそれに対応する実習項目が必要となる
 などの理由から本実習書の改訂,ならびに一部の追加を行った.
 すなわち,レジン系材料の台頭に関連する硬質レジンの章の追加,多元化した歯科鋳造技術に関する実習方法の系統化,複雑に交錯する熱処理の理論と実際の単純化,その他,細目にわたりより理解されやすいよう改訂した.
 時あたかも,歯科医師国家試験に歯科医学・歯科医療総論の導入が諮られる時期にあたっての本書の改訂である.歯科医師により高い倫理観が,歯科基礎医学に立脚した歯科臨床の修得が,強く求められようとしている時期である.
 本書が歯科医療の向上に資する役割に,いささかでも貢献できればと期待するところである.
 平成元年9月 金竹哲也
1.石こう
 I.実習の目的
 II.基礎要項
  II-1.石こうの種類
  II-2.石こうの硬化反応
 III.実習方法
  III-1.練和法
  III-2.標準混水比
  III-3.硬化時間および発熱
  III-4.硬化時膨張
  III-5.顕微鏡組織の観察
  III-6.圧縮試験片の作製
2.印象材
 I.実習の目的
 II.基礎要項
 III.実習方法
  III-1.練和法
  III-2.硬化(ゲル化)時間
  III-3.稠度試験
  III-4.圧縮試験(ひずみ試験)
  III-5.印象精度試験
   A.寸法変化
    A-1.歯型による印象精度試験
    A-2.フルクラウン型の金型による印象精度試験
    A-3.各個トレーによる印象精度試験
    A-4.寒天印象材による印象精度試験
    A-5.複印象用寒天による印象精度試験
   B.細線再現性試験
3.ワックス
 I.実験の目的
 II.基礎要項
 III.実習方法
  III-1.ワックスの熱分析
  III-2.インレーワックスの熱膨張
  III-3.フロー試験
  III-4.ワックスの変形
4.埋没材
 I.実習の目的
 II.基礎要項
 III.実習方法
  III-1.練和法
  III-2.標準混水(液)比
  III-3.硬化時間および発熱
  III-4.硬化時膨張
  III-5.加熱膨張
  III-6.圧縮試験片の作製
5.鋳造
 I.実習の目的
 II.基礎要項
  II-1.鋳造性
  II-2.鋳造精度
 III.実習方法
  III-1.ワックスパターン作製法
   A.直接法によるワックスパターンの作製法
   B.間接法によるワックスパターンの作製法
   C.型毎埋没法(間接直接法)
  III-2.埋没操作
  III-3.鋳造操作
  III-4.鋳造精度
  III-5.鋳造性
  III-6.かたさ試験片用ワックスパターンの作製
6.加工と熱処理
 I.実習の目的
 II.基礎要項と実習方法
  II-1.加工硬化
  II-2.軟化熱処理
  II-3.熱処理硬化
  II-4.鋼の熱処理
7.ろう付
 I.実習の目的
 II.基礎要項
 III.実習方法
  III-1.流ろう性
  III-2.ろう付強さ
  III-3(1).ろう付精度
  III-3(2).ブリッジのろう付精度
  III-4.自在ろう付
8.床用レジン
 I.実習の目的
 II.基礎要項
 III.実習方法
  III-1.重合時の収縮
  III-2.たわみ試験
  III-3.重合発熱
9.歯冠用硬質レジン
 I.実習の目的
 II.基礎要項
 III.実習方法
  III-1.圧縮強さ試験
  III-2.かたさ試験
  III-3.接着試験
10.陶材
 I.実習の目的
 II.基礎要項
 III.実習方法
  III-1.陶材の焼成と性状
  III-2.陶材焼付金属冠の焼成と色彩測定
11.合(接)着材
 I.実習の目的
 II.基礎要項
 III.実習方法
  III-1.練和法
  III-2.標準稠度
  III-3.硬化時間(凝固時間)
  III-4.被膜厚さ
  III-5.合(接)着強さ試験
  III-6.圧縮試験片の作製
12.成形修復材
 I.実習の目的
 II.基礎要項
 III.実習方法
  III-1.練和方法と圧縮試験片および曲げ試験片の作製
   A.アマルガム
   B.コンポジットレジン
   C.グラスポリアルケノートセメント
   D.シリケートセメント
  III-2.硬化時の寸法変化
  III-3.かたさ
  III-4.漏洩試験
13.機械試験
13-A.かたさ試験
 I.概説
 II.試験方法
  II-1.ブリネルかたさ
  II-2.ビッカースかたさ
  II-3.ヌープかたさ
  II-4.ロックウェルかたさ
  II-5.その他のかたさ試験
13-B.引張試験
 I.概説
 II.試験方法
13-C.圧縮試験
 I.概説
 II.試験方法
13-D.Diametral(Tensile) Strength
13-E.各種万能試験機の取扱い方
 I.概説
 II.操作法
  II-1.島津 R-S 2 型万能試験機の取扱い方
  II-2.インストロン型万能試験機(1125型)の取扱い方
  II-3.島津オートグラフ IS-5000の取扱い方
13-F.その他の試験法
 I.曲げ試験
 II.衝撃試験
 III.摩耗試験
 IV.疲労試験
 V.クリープ試験
 VI.フロー
14.検鏡試験
 I.実習の目的
 II.基礎要項
 III.実習方法
15.金属の熱分析
 I.実習の目的
 II.基礎要項
 III.実習方法

付録
 1.元素周期律表
 2.基本単位ならびに換算表
 3.kgf/mm↑2↑→MPa換算表
 4.1 b/in↑2↑→kgf/mm↑2↑ 換算表
 5-1.ブリネルかたさ計算表(圧痕の直径から)
 5-2.ブリネルかたさ計算表(圧痕の深さから)
 6.←→℃換算表
 7.ゲージ No.と mm
 8.メッシュと粒度