やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社



 局部床義歯を必要とする1人の患者をある歯科医のグループに診せると,歯科医はそれぞれ異なった設計を行うであろう.これは局部床義歯の設計に必要な多くの要素が互いに相容れないものであり,その設計の過程はまさに妥協の迷路をさまよい歩くようなものだからである.本書の目的は歯科学生ならびに一般歯科臨床家に局部床義歯の設計理論を十分に理解してもらい,この妥協の迷路から抜け出して自らの設計方法を見いだせるようにすることである.
 局部床義歯を製作する場合,歯科医はきわめて当然のように,喪失した組織の修復と残存組織の保存に重点を置くけれども,患者側の観点からみれば局部床義歯には3つの質的要素が備わっていなければならない.すなわち,審美性の良好なこと,装着感の良好なこと,ならびに残存歯と支持組織に為害作用のないことの3点である.通常は患者の要求を優先させる.さもなければ,義歯の審美性や装着感が不良であった場合,患者は義歯を装着しないであろう.いくつかの研究によれば,局部床義歯が装着されない比率はきわめて高く,また義歯により口腔組織が破壊されている場合の多いことが示されている.本書ではこれらの問題の原因のいくつかを追求し,審美的に良好,かつ快適に装着できると同時に,残存組織に損傷を与えないような義歯の設計について言及する.
 最初の4つの章においては,局部欠損患者の診査,歯牙喪失後の口腔内変化ならびにこれらの変化が局部床義歯の設計にどのような影響を及ぼすかについて考察する.次に,クラスプならびに既製アタッチメントによる維持について考察し,連結子とその設計理論について述べる.次の5つの章においては,局部床義歯の特殊な設計について述べ,最後の章においては審美性に影響を及ぼす要素についてふれる.本書の全体を通じて,われわれは患者の快適さを高める'流線形'設計の重要性を強調し,患者が装着しなくなるような設計について指摘する.なお,読者はすでに技工や臨床術式についての知識を備えていると思われるので,局部床義歯製作における一般的技法の多くについては省略した.本書を理解するうえで役立つと思われる術式については補遺に記載してあるので,本書の表題の意味はなんら損なわれることはない.補遺には局部床義歯の口腔内前処置,口腔衛生の保持,サベーイングの順序ならびに局部床義歯の分類についての歴史的考察が含まれている.また,本書に使用されている用語の意味についても記載してある.
 われわれは原稿のタイプと校正を担当していただいた Josephine Buchanan 氏にとくに感謝の意を表したい.また,多くの写真を担当していただいた John Davies, Anne Harrow, Gail Drake, Robert Renton,ならびに Ian Goddard の各氏に対し大いに感謝の意を表する.臨床写真を担当していただいた Paul Geiss1er 氏にも感謝したい.また,図 2-3 と10-7 を担当した Ruth Swan 氏ならびに図 9-12〜 9-14までを担当したAnne Hughes 氏に感謝する.また,Edinburgh 大学と G1asgow 大学のわれわれの教室の多くのスタッフが協力してくれた.とくに,われわれは Arthur Graig,Grant Mi11er,Ian Mack,Harry Howie ならびに Ronald McCarron の各氏に感謝の意を表したい.また,他の多くの人びとから臨床上・技工上の協力をいただいたことを記し,その方々に心より感謝する.
 DMW AR
 訳者のことば
 序

1章 局部欠損患者の診査
 挺出歯と転位歯
 咬合
 機能的不正咬合

2章 抜歯後の形態学的変化

歯肉縁の退縮
 骨吸収
 流線形局部床義歯

3章 支持組織
 支持の不足
 歯牙支持の性質
 荷重に対する歯根膜の反応
 粘膜支持の性質

4章 支持の利用法
 垂直圧に対する局部床義歯の支持
 側方圧に対する局部床義歯の支持
 'ガムストリッピング(歯肉剥離)'の実態
 支持と維持の関係
 支持と咬合の関係

5章 局部床義歯模型のサベーイング
 キャストサベーヤー
 サべーライン
 離脱方向
 一般的離脱方向
 着脱方向
 アンダーカット
 誘導面
 サベーイングの目的
 サベーイングの方法
 着脱方向の選択

6章 局部床義歯の維持
 局部床義歯の維持装置
 間接維持と間接支持
 維持と咬合の関係

7章 既製アタッチメント
 歯冠内アタッチメント
 歯冠外アタッチメント
 バーアタッチメント
 歯根アタッチメント
 スプリングアタッチメント
 スクリューアタッチメント
 自家製ミリングアタッチメント
 マグネット維持装置

8章 連結子
 非緩圧型連結子
 ねじり弾性
 緩圧型連結子
 緩圧型義歯の欠点
 緩圧型義歯の利点
 歯牙-粘膜混合負担床
 緩圧型義歯における維持部の役割

9章 設計
 設計の要素
 局部義歯の種類
 設計の選択
 局部床義歯の設計と製作の一般的手順

10章 遊離端局部床義歯
 非緩圧型設計
 緩圧型設計
 機械的緩圧設計
 ヒンジ型設計
 分離義歯

11章 分離義歯
 設計の指針
 分離義歯の利点
 下顎の分離義歯

12章 分割義歯
 分割義歯の適応症
 分割義歯の利点
 分割義歯の欠点
 分割義歯の種類

13章 複合局部床義歯
 複合局部床義歯の利点
 複合局部床義歯の欠点
 要約

14章 オーバーデンチャー
 定義
 オーバーデンチャーの利点
 オーバーデンチャーの適応症
 強度の咬耗がある患者
 オーバーデンチャーの維持歯の選択
 維持歯の形成法
 製作上の原則
 局部床義歯の管理

15章 局部床義歯の審美性
 人工歯の大きさ
 人工歯の排列位置
 人工歯の形態と表面形態
 人工歯のシェードと色
 歯肉部の形態,表面形態ならびに色
 前歯部にクラスプや金属部分がみえるのを避ける方法
 不正な顎関係を有する患者の局部床義歯

補遺I 口腔衛生
 デンタルプラーク
 義歯による損傷
 口腔ならびに義歯の衛生
 患者へのアドバイス

補遺II 可撤性局部義歯の口腔内前処置
 口腔衛生
 歯冠修復
 誘導面
 歯牙負担局部床義歯のレスト座
 臼歯のレスト座
 不正な咬合接触の修正

補遺III 模型のサベーイング
 アンダーカットの除去(ブロックアウト)
 アンダーカットの利用(維持)
 斜めの着脱方向の利用
 具体的考察
 ブリッジと複合局部床義歯におけるサベーヤーの利用

補遺IV 局部床義歯の分類
 要約

 用語
 文献
 索引