やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

 患者さんの口の中を見ていると,過去から現在までの患者さんの状況が浮かびあがってくることがあります.そんなときは,いま患者さんに何を伝えたらよいか,どんなことをわかってもらったらよいかが,自然に理解できて,メッセージがスムーズに伝わるように思えます.
 また,ブラッシング指導をしている途中でも,指導がどう患者さんに理解されたか,そしてこれから何を伝えてもらいたいか,口の中の情報が教えてくれているように感じられるときがあります.
 臨床で,日ごろ注意深く歯肉を診て,そしてその病態が「なぜこうなっているのか」を読むことに努めていると,経験を重ねるうちに,いつしか「診ること」,「読むこと」が自然と身についてくるように思えます.
 私は一応,歯肉の状態・病態を観察して状況を判断することを「歯肉を診る」そしてその背景や原因となることを推察することを「歯肉を読む」と区別して考えてみることにしています.
 とはいえ,はっきり区別できないところもあるのですが,こんな見方のなかに歯科疾患や患者さんを理解する鍵があるように私には思えるのです.
 本書では,I章で「歯肉を診ること」,「歯肉を読むこと」を臨床でどのように活用しているのかの例を示し,II章ではそのべースとなる「歯肉の診方」,III章では「歯肉の読み方」をまとめてあります.そして,IV章では,歯肉から情報を得たうえで,どうブラッシング指導するかのポイントを簡単にまとめてみました.口の中をよくみて,患者さんをよくみて,理解することに挑戦してみてください.患者さんとの信頼の扉が,音をたてて開くはずです.
 1997年4月 三上直一郎
I.診ること・読むこと
 指導のポイントがみえてきます(I)
   この患者さんの問題点はどこにあるのでしょう?
   どのようなブラッシング指導をしますか?
    ●「診る」…問題点と注目点
    ●「読む」…推測と指導の展開
 指導のポイントがみえてきます(II)
   この患者さんの問題点はどこにあるのでしょう?
   どのようなブラッシング指導をしますか?
    ●「診る」…問題点と注目点
    ●「読む」…推測と指導の展開
II.歯肉を診る
 1.歯肉の質・性格を診る
    ●軟らかい歯肉
    ●硬い歯肉
    ●軟らかい歯肉の変化
    ●硬い歯肉の変化
 2.炎症を診る
  歯肉炎を診る
    ●炎症の程度,炎症の新しい・古いを診る
    ●炎症の原因を診る
    ●X線像との重ね合わせで診る
    ●ちょっと気にしておきたい(おもしろい)歯肉炎の変化,歯間乳頭の変化
    ●スティップリングの変化
  歯周炎を診る(I)・軟らかい歯肉の下の骨を診る
    ●水平性骨吸収症例の歯肉の変化
    ●垂直性骨吸収症例の歯肉の変化
  歯周炎を診る(II)・硬い歯肉の下の骨を診る
    ●水平性骨吸収症例の骨を診る
    ●垂直性骨吸収症例の骨を診る
    ●臼歯部垂直性骨吸収症例の歯肉の変化
  《ちょっとひとやすみ》
    ●歯周病患者のX線像の読影のポイント
  歯周炎を診る(III)
    ●こんなふうに治っていきます
    ●下顎前歯部の変化の過程
    ●臼歯部の変化
 3.プ□一ブで診る
    ●私の使っているプローブ
    ●深さを診る
    ●出血を診る
    ●どこを探るかで得られる情報が違います
 4.外傷を診る
    ●外傷の症状
    ●歯肉の質・性格による外傷の差
    ●外傷のある歯肉の変化
    ●クレフト状の外傷の変化
    ●傷めつけられた硬い歯肉の変化
  《ちょっとひとやすみ》
    ●歯肉の観察に,なくてはならない記録写真
III.歯肉を読む
 1.炎症を読む
    ●プラークと重ね合わせて読めること
    ●炎症の原因を読む
 2.外傷を読む
    ●ブラッシングテクニック・歯磨き圧などを読む
    ●磨き癖・磨く順序を読む
    ●気持・意欲・性格を読む
    ●外傷の背景を読む
 3.磨き方,磨き癖を読む
    ●使っている歯ブラシを読む
    ●歯ブラシの動きを読む
    ●磨き癖から読めること
 4.変化から読む
    ●順調な変化を読む
    ●変化しない歯肉を読む
    ●変化が遅い歯肉を読む
    ●後戻りを読む
    ●後戻りを繰り返す場合には
 5.全身状態を読む
    ●薬をチェックする
    ●疾患・既往症をチェックする
    ●自覚されていない慢性的な疾患をチェックする
    ●生活ストレスを考えてみる
    ●患者さんの気持を汲み取る
  《ホッとしましょう》
IV.ブラッシング指導のポイント
 1.効率よく磨ける磨き方
    ●毛先磨きの原則と練習法
 2.患者さんを意欲的にするワンポイント指導
    ●ワンポイント指導の一例
 3.どんなところをワンポイントにするか
    ●歯肉やプラークからワンポイントを選ぶ
    ●道具や使い方からワンポイントを選ぶ
 4.ブラッシング指導のヒント
    ●プラス志向の指導を
    ●より簡単に・より楽に
    ●磨けたことを確認する
    ●エンピツでもう一度
    ●わかりやすい目標を設定する
    ●見てもらう・感じてもらう
    ●患者さんにどう伝わったかを確認する
 5.ブラッシング用具アラカルト
    ●どんな歯ブラシがよいか?
    ●持ち方は指先で軽く
    ●歯磨き圧は歯ブラシの毛でチェック
    ●歯磨剤の量は?
    ●歯間ブラシも使いこなしを
    ●炎症があるとフロスは痛い
    ●インタースペースブラシ
    ●口の中はほんとうにおもしろい