やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 超高齢社会の現在,歯科医院を受診する多くの患者さんは,高血圧,喘息,糖尿病などのよく耳にする病気ばかりでなく,脳梗塞や脊髄小脳変性症,肝硬変,腎不全さらには認知症など,さまざまな病気や病態を抱えながら来院されます.当然のことながら,どのような患者さんに対しても,質の高い医療を安心・安全な環境で提供することが私たち医療従事者の務めです.そのためには,患者さんの診療に携わる医療チームの構成員が,全員で患者さんの口と全身の状態についての情報を共有し,適切に役割を分担しながら協働して診療にあたっていくシステムづくりが大切です.歯科衛生士は,歯科医師とともに歯科医療の中核を成す職種であり,患者さんの全身の状態にも目を向け,歯科医師と情報を共有しながら安心・安全な歯科医療を提供することは,今後ますます重要となっていきます.
 このたび,『もっと知りたい!病気とくすりハンドブック』と題して,歯科衛生士が知っておきたい患者さんの全身に関するさまざまな知識をハンドブックとしてまとめました.従来の病気の解説を中心とした本ではなく,歯科衛生士向けに,(1)いろいろな情報を駆使して患者さんの全身のことをより詳しく知る,(2)病名から,患者さんの常用薬や歯科治療時の注意点を知る,(3)歯科衛生士として患者さんに医療行為を行うときに,何に注意しなければいけないかを知る,の3点をコンセプトとしてまとめました.第1章から第3章までは,日ごろから歯科衛生士が積極的に活動している歯科診療施設の歯科衛生士の方々が解説しており,そのほかの部分についても,できるかぎり歯科衛生士の視点に立って記述しています.
 第1章では,病歴聴取,いわゆる問診からどのような情報が得られるのかと得られた情報から何を推理するのかについてを,第2章では,バイタルサインで得られる情報の解釈についてを,そして第3章では,医科から提供される診療情報提供書の読み方についてをまとめました.第4章では,代表的な病気についての基本的な知識とよく使われるくすりおよび歯科治療時の注意点についてまとめ,第5章では,心肺蘇生についてふれました.いずれも日常臨床のなかではきわめて重要なことばかりです.
 ハンドブックとしてできるかぎり読みやすさを意識し,イラストを中心とした平易な表現による解説を心がけました.病気や病態ごとに項目を分け,まとめてありますので,必要な項目を必要なときに読み進めていただければ幸いです.
 本書が,安心・安全な歯科医療を提供できるワンランク上の歯科衛生士になるための参考となれば,編者としてこれに過ぎる喜びはありません.
 東京歯科大学歯科麻酔学講座
 一戸達也
 はじめに
 執筆者一覧
第1章 安心・安全な歯科医療のための病歴聴取
 (1) 病歴聴取とは何か?
 (2) 病歴聴取の方法とポイント
第2章 バイタルサインからわかる患者さんの身体の状態
 バイタルサインの測り方と読み解き方
第3章 診療情報提供書で知る患者さんのさまざまな情報
 診療情報提供書の読み方を知ろう!
第4章 病気別・くすりと歯科診療上の注意点
 循環器疾患
  (1)高血圧症 (2)虚血性心疾患 (3)心不全 (4)弁膜症 (5)心筋症 (6)先天性心疾患 (7)感染症心内膜炎 (8)不整脈
 呼吸器疾患
  (1)気管支喘息 (2)慢性閉塞性肺疾患(COPD) (3)間質性肺炎 (4)肺塞栓症 (5)慢性呼吸不全
 代謝・内分泌疾患
  (1)糖尿病 (2)甲状腺機能障害
 自己免疫疾患
  (1)関節リウマチ (2)ベーチェット病
 血液疾患
  (1)貧血 (2)白血病 (3) 血性素因
 肝疾患
  (1)ウイルス性肝炎 (2)肝硬変
 腎疾患
  (1)ネフローゼ症候群 (2)腎不全
 神経・筋疾患
  (1)脳梗塞 (2)脳出血・くも膜下出血 (3)パーキンソン病 (4)脊髄小脳変性症 (5)進行性筋ジストロフィー (6)重症筋無力症
 精神疾患
  (1)統合失調症 (2)大うつ病性障害 (3)認知症
 そのほか
  (1)妊娠 (2)HIV感染症
第5章 これだけは知っておきたい救急蘇生
 心肺蘇生とAED
 付録 健康調査票(A,B,C),歯科衛生士が知っておきたい検査データ一覧