やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 数年前まで,「歯が抜けて入れ歯になっちゃうのは,歳のせいだから仕方がないんだよなあ」という患者さんのつぶやきをよく耳にしました.そのたびに「そんなことはありませんよ.きちんと治療すれば,歯はずっと永く,一生もたせることができますよ」と口角に泡を溜めながら熱弁していた自分の姿が思い出されます.
 最近は,成人の8割以上が歯周病に罹患しているという報告もあり,歯周病が生活習慣病であることが広く認識される時代になりました.患者さん自らが,「自分は歯周病かもしれないので診てほしい」と言って来院することも多くなりました.
 このような意識の変化は,歯科医療に従事する者にとって大変喜ばしいことですが,その反面,そのような患者さんを受け入れる医院は,初診からメインテナンスに至るまでの診療システム全体のレベルアップを求められています.
 しかし,現在確立されている診療システムのなかに歯周治療を取り入れることは,そんなに簡単なことではありません.まず,歯科医師は歯周病に関する専門的な知識をもたなくてはなりません.さらに,歯周治療の中心的役割を果たす歯科衛生士にも,豊富な知識と確かな技術が必要です.また,歯科技工士・歯科助手・受付のサポートも重要な戦力として欠くことはできません.つまり,歯周治療を行うためには,スタッフ全員の連携によるチームアプローチと,医院全体の総合力が必要なのです.
 私たちは,その方法を「臨床家のための実践ペリオセミナー・ベーシックコース」を通して,多くの歯科医師・歯科衛生士に伝えてきました.本書では,そのセミナーの内容を4つの章に分けて,わかりやすくまとめています.
 第1章では,歯周治療を行うために知っておきたい基本的な知識を再確認しています.第2章では,病態の把握と治療計画を立案するための基本資料の収集の方法と活用法を提示しています.第3章では,歯周治療を中心とした診療システムの実際を紹介しています.第4章では歯周治療のなかでも特に難しいとされている根分岐部病変について解説しています.
 来院した患者さんに「一生涯自分の歯でおいしく食事ができて,質の高いすばらしい人生を送るためのお手伝いをさせていただきます」と胸を張って言える歯科医師,歯科衛生士でありたいとつねに思いたいものです.
 本書の内容は決して難解なものではありません.できるだけ多くの図を取り入れ,目で見て理解していただけるように編集しました.皆さんも,まずは基本的なことからはじめてみてはいかがでしょうか.
 本書を,歯周治療を実践するための参考書としてご活用いただければ幸いです.
 2006年4月 若林健史
はじめに
第1章 これだけは知っておきたい基礎知識
 (1)歯周組織を理解しよう
 (2)歯周病は感染症?
 (3)AAP(アメリカ歯周病学会)による歯周疾患の分類
 (4)歯周病の病因論と進行過程
 (5)骨欠損の形態を診る
 (6)歯肉の性状を診る
 (7)歯周病の治癒形態
 DHコラム「臨床に役立った歯周組織についての知識」
第2章 基本資料の収集と活用
 (1)歯周治療への患者さんの導入
 (2)診査・診断・治療計画の流れ
 (3)問診
 (4)プロービング
 (5)歯・歯肉・軟組織の視診と触診
 (6)歯の動揺
 (7)X線診査
 (8)細菌検査
 (9)口腔内写真の撮影に活かすデジタルカメラ
 DHコラム「患者さんに共感し,患者さんといっしょに治す」
第3章 やってみよう! 実践歯周治療
 (1)ハイジーンシステム
 (2)カウンセリング
 (3)ブラッシング指導
 (4)シャープニング
 (5)スケーリング・ルートプレーニング(SRP)
 (6)MTM
 (7)咬合調整・暫間固定
 (8)再評価
 (9)消えない炎症―歯肉縁下カリエス
 (10)消えない炎症―歯周外科処置
 (11)消えない炎症―再生療法
 (12)歯周補綴
 (13)メインテナンス
 (14)重度歯肉炎をSRPまでで改善できた症例
 (15)根分岐部病変への対応
 (16)再生療法を行った症例
 (17)侵襲性歯周炎から脱却した症例
 DHコラム「『ありがとうございます』と言っていますか?」
第4章 根分岐部病変は難しい
 (1)なぜ根分岐部病変は難しいのか?
 (2)根分岐部の診査
 (3)根分岐部病変へのアプローチとメインテナンス
 DHコラム「節目に思うこと」

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編集後記