やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 金属を用いない,セラミックス,特にポーセレン(長石系材料)単身による修復治療は古くから行われてきた.ポーセレンは摩耗しにくく,光を透過させ屈折させる特性があり,褪色することもなく,歯周組織との親和性も良好である.また,比較的化学作用を起こしにくく,不溶解性で生体親和性に優れている.しかしながら金属に比べ,屈曲に弱く砕けやすいという脆さが問題であり,その弱点を補うためクラウンにおいてはPFMクラウン(ポーセレン焼き付け全部被覆冠)が考案され,長く修復治療の主役の座をメタルクラウンと二分してきた.
 そこに二つの大きな変革が起こった.一つは接着の進化である.1983年にHornがポーセレンの内面をフッ化水素酸でエッチングした後,シランカップリング剤で前処置し光重合型のコンポジットレジンセメントを用いて歯に接着する方法を紹介し,ポーセレンラミネートベニアが予知性の高い修復治療として世界に広がった.しかし,象牙質の面積が多いインレーやアンレーでは十分満足のいく結果は得られず,エナメル質が存在しないクラウンでは臨床に用いることができなかった.そこで,ポーセレンが属するシリカ系材料(Silicate ceramics)から,より破折強度の高い材料が考案され,ある程度の解決がなされたが,臼歯部のクラウンやブリッジには問題が残された.
 この問題を解決するための二つめの変革が酸化セラミックス(Oxide ceramics)による修復治療への実用化であり,その製作のため歯科用CAD/CAMが急速に進歩したことである.高密度アルミナやジルコニアの医学への応用は,骨への置換材として股関節インプラントで最初に確立されたもので,歯冠修復材料にCAD/CAMを応用する試みは1970年代にDuretにより提案された.一般には1980年代に始まるM?rmannによるCEREC systemが有名であろう.筆者も1990年の中頃,故保母須弥也先生のお声がけで見学させていただき,修復物製作の変革期が到来したかと感じたが,修復物の出来映えは,まだまだこれからのものだとも感じた.2000年に入り所属する大学の中央技工室にNobelPharma(現Nobel Biocare)のModel-50が入り,見学したが,これもまだ満足に至るものとは感じなかった.しかし,わずか3年後の2003年に同社が発売したPiccoloによるコーピングはそれまでのものとは比較にならないほど精度の高いもので,お披露目の場であったラスベガスのカンファレンス会場で購入し,長く臨床に用いた.現在では各社の開発には目覚ましいものがあり,口腔内スキャナーや3Dの顔貌撮影と合わせると診断から,修復物の装着まで今までとは全く異なる臨床の流れとなる可能性も現実味を帯びてきた.
 以上のように,接着と酸化セラミックスの二つの変革でオールセラミックスによる修復が予知性の高いものになった.酸化セラミックスは許認可の問題で,本邦は諸外国から少し遅れてスタートすることになったが,10年以上が経過した.本書ではこの修復方法を整理し,長期経過を考察することでオールセラミックレストレーションを総括することを目的に企画された.歯科技工士,歯科医師がより高品位な歯科治療を国民に提供できる一助となることを期待している.
 神奈川県川崎市・日高歯科クリニック
 鶴見大学歯学部臨床教授
 日高豊彦 Toyohiko Hidaka
Opening Graph オールセラミックスの基本術式
 Inlay,Onlay,Composite resin(岡口守雄)
 Laminate Veneer(土屋賢司)
 All ceramic Crown(瀬戸延泰)
第1章 オールセラミックスの基礎知識
 セラミックスの分類(日高豊彦)
 オールセラミックスの接着理論と実際(構 義徳)
 支台歯環境を考慮したセラミックスの色調再現(山ア 治)
 支台築造の重要性と製作ステップ(天川由美子)
 ホワイトニングによって審美修復治療はどう変わるか?(北原信也)
第2章 オールセラミックスの治療ステップ
 審美修復治療の基本(中村茂人)
 診査・診断,治療計画とマテリアルセレクション(宇毛 玲)
 診断用ワックスアップ(松尾幸一)
 プロビジョナルレストレーション(西山英史)
 印象採得(栗原一雄)
 最終補綴物の作製(新藤有道)
 最終補綴物の仮着,装着(松本和久)
 メインテナンスプログラム(加部聡一)
 セラミックスの修理(日高豊彦)
 歯肉縁下形態のインプラント上部構造への移行(林 丈裕)
第3章 CAD/CAM
 CAD/CAMの現況(風間龍之輔)
 CAD/CAMの支台歯形成(植松厚夫)
 ジルコニアの臨床応用(羽田詩子)
 インプラントとCAD/CAM・光学印象(千葉豊和)
 公的医療保険下のCAD/CAM(坪田有史)