やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 インプラント治療は通院可能な患者,ある程度健康な患者を対象に行われてきた.しかし,超高齢社会を迎えた日本において立ち遅れている問題として,「高齢者に対するインプラント治療」と「インプラント治療を受けた患者さんが高齢(有病)化して来院が不可能になった場合の対応」の二つを挙げることができる.一言で高齢者といっても個々の状態はさまざまに異なり,インプラント治療を行った時は健康であったとしても,その後どのような経過をたどるかも不明である.
 平成23 年度歯科疾患実態調査によると35 歳以上のインプラント治療率は2.06%であり,この数字は日本人成人の100 人に2 人前後がインプラント治療を受けていることを意味している.一方,平成25 年時点で65 歳以上の高齢者は3,186 万人で(うち,要介護認定者等は554 万人),この数字はこれから増えることはあっても減ることはない.今後,中・長期的にインプラントが口腔内に存在する要介護者が増加することで,さまざまな問題が起こることは明らかである.
 インプラント治療は,従来の補綴治療による口腔環境変化のスキーム(健全歯列→少数歯欠損→多数歯欠損→無歯顎,という流れ)に大きな影響を与えたが,その結果,『高齢者(要介護者)の口腔内に自然界では存在することのないインプラントが存在する』という状況に直面しつつある.こうした問題に対して我々歯科医師がどのように対処すべきかを,「内科学」(第1 章 インプラント医が知っておくべき全身管理),「補綴学」(第2 章 患者の高齢化・有病化を見据えた補綴設計),「口腔ケア」(第3 章 インプラント受療患者の口腔ケア)という三つの視点に立ち,共通認識を持って考えるきっかけになることを期待して企画されたのが本書である.
 超高齢社会を迎えた今,歯科医師にはホームドクターとしての視点から患者さんの全身的および心理的な変化にも対応しつつ,自分が行ったインプラント治療に対して患者さんと共に歳を重ねていく姿勢が求められよう.本書が高齢者や要介護者への歯科的対応の一助になれば幸いである.
 日本大学歯学部歯科インプラント科 科長
 萩原芳幸
 日本歯科大学生命歯学部内科学講座 教授
 佐々木裕芳
 米山歯科クリニック 院長
 米山武義
 序

Opening Graph I 老年インプラント学のススメ
 ──患者の高齢化・有病化・要介護化を見据えた基本概念(萩原芳幸)
Opening Graph II 加齢・歯の喪失に伴う上顎骨と下顎骨の形態変化
 ──口腔・顎顔面領域の老化(松永 智・阿部伸一)
第1章 インプラント医が知っておくべき全身管理
 1.インプラント医に必要な内科知見
  (1) 問診(佐々木裕芳)
  (2) 検査(志水秀郎)
  (3) 薬(佐々木裕芳)
  (4) 麻酔(長谷川正午)
 2.高齢者の骨の処置(瀬戸一郎)
 3.BP製剤とBRONJ(山縣憲司)
 4.術中の危機管理と救急処置(柳川 徹)
 5.インプラント治療の中止診断(生木俊輔)
第2章 患者の高齢化・有病化を見据えた補綴設計
 1.高齢者へのインプラント治療計画と上部構造の改造(萩原芳幸)
 2.固定性補綴装置の選択基準と設計・操作上の留意点(寺西邦彦)
 3.可撤性補綴装置の選択基準と設計・操作上の留意点(前田芳信・和田誠大)
第3章 インプラント受療患者の口腔ケア
 1.通院可能な患者への対応(清水智幸・渡辺由佳)
 2.通院できなくなった患者への対応(米山武義・鈴木里保・鈴木奈津子)
付章 臨床例報告
 高齢者のインプラント周囲に問題が生じた症例(生田 稔・原田浩之)
 80 歳代の顔面麻痺を有する患者へのインプラント治療(萩原芳幸)

 編著者・執筆者一覧