やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 中央社会保険医療協議会の2年ごとに行う医療経済実態調査(2003年6月)によると,全国の歯科診療所の8割強を占める個人立歯科診療所の1カ月あたりの医業収入は3,689,000円で,前回の同報告と比べ3.7%減,医業費用との収支差額は3.8%減となっている.特に,自費診療収入は15.8%減となっており,歯科医院経営全般の不況傾向が語られがちである.
 しかし,個人立の診療所の中にも院長の「創意・工夫・熱意」といったもので地域住民からの信頼を得て一定の成功を収めているところも多いと思われる.したがって歯科市場のこれからの10年は,飽和状態から淘汰へ,さらに二極化へと進むと考えられる.現在,コンビニエンスストアを上回る数の歯科医院にもはや空白地域はないといってもよく,設備・サービスとも充実し,治療法の豊富な医院が勝ち残ると思われる.
 また,来年度から臨床研修制度が法制化のもと,大学関係者を中心に「根拠に基づいた治療」を実施できるように,臨床教育の設備にも努力が払われており,1歯単位の治療法については歯科医師のレベルアップにつながり望ましいことであるが,こうした治療法をマスターしても,開業医として生き残れるという保障はなく,そのうえ,臨床の現場では一口腔単位での治療を必須とするケースに対応する必要も多い.
 MIという概念が導入されてかなり時間がたち,その効果が現れているのか,厚生労働省の歯科疾患実態調査の結果からも確実に残存歯が増え,無歯顎は減少してきている.21世紀において,確かに欠損歯列は減少するが,有床義歯を含む補綴治療の需要は減らないという状況のなかで,患者の失われた口腔機能の回復と,QOLの向上ということには今後も変化はない.
 そこで,本企画では,各スタディグループのメンバーにより,診断,処置方針の根拠やインプラントの応用も含めて補綴治療の位置づけを見直し,われわれの興味深いと感じた五つのテーマについて座談会を行った.この別冊が,読者にとって少しでも歯科界のなかで「勝ち組み」として生き残れるような一助になれば幸いである.
 2005年5月吉日
 伊藤 公二(東京都千代田区開業)
 西原 英志(東京都中野区開業)
 野嶋 昌彦(東京都千代田区開業)
 法花堂 治(千葉市稲毛区開業)
・序
・編集委員 PROFILE

Part1 可撤性か?固定性か?
 可撤性か?固定性か?●法花堂 治,西原英志
  はじめに/欠損歯列を見る時の物差し・宮地の咬合三角/加圧因子と受圧条件/すれ違い咬合傾向の症例に対する処置方針と設計例
 固定性補綴物での対応●土屋賢司
  インプラント治療がもたらす利益/症例1 バーティカルストップの確立/症例2 咬合力の増加/症例3 顎堤の保護/症例4 残存歯の保護/症例5 1歯欠損への適用/土屋先生の症例をめぐって
 可撤性補綴物での対応●永田省蔵
  14歯欠損の歯列/症例1 対顎の条件に恵まれて安定経過した上下の遊離端義歯/症例2 強い加圧因子に耐えた下顎遊離端義歯/症例3 経過不良例のフォローアップと欠損拡大防止策としてのインプラント/犬歯残存の意味/症例4 前後的すれ違い咬合の症例/症例5 可撤性での対応策・加圧因子を減らす/症例6 リスクの高い左右的なすれ違いへのインプラントの試みと課題/永田先生の症例をめぐって
Part2 インプラントの視座
 インプラントの最適応症とは●西原英志
 臨床におけるインプラントの位置●西堀雅一,武内謙典
  多数歯欠損/単独歯欠損/歯周病とインプラント
 インプラント埋入時の考慮点●赤野弘明
  前歯部へのインプラント/臼歯部へのインプラント/即時荷重について/臼歯部咬合崩壊ケースへのインプラントの利用
 欠損補綴におけるMIとしてのインプラント修復●日高豊彦
  症例1 前歯部症例/症例2 臼歯部症例/症例3 イミディエート症例/まとめ
 インプラントの適応症をめぐって
  最適応症とは/審美性について/即時埋入・即時荷重/機能か審美か/多数歯欠損に対する設計/インプラントに付与する咬合/咬合調整
Part3 多数歯欠損の治療方針
 受圧条件の改善と可撤性補綴物による修復●法花堂 治
 少数歯残存症例への対応●服部夏雄
  症例1 すれ違い一歩手前の症例/症例2 前後的すれ違い傾向の症例/服部先生の症例をめぐって
 欠損歯列の改変と可撤性補綴処置●松井宏榮
  症例の位置づけ/欠損歯列の改変/欠損補綴の処置方針/症例1 上顎遊離端欠損が崩壊の一歩となる症例/症例2 前歯を遊離端欠損の改変に利用した症例/まとめ/松井先生の症例をめぐって
 可撤性局部義歯の中のインプラント●松田光正
  はじめに/受圧条件の改善/適応の二つのシークエンス/症例1 遊離端支台のフォローアップのインプラント/症例2 支台装置の選択に悩んだ症例/考察/松田先生の症例をめぐって
Part4 歯周組織と補綴物の調和
 歯周組織と補綴物の調和●伊藤公二
  企画の意図/まとめ
 歯周組織と補綴物の調和のための診査・診断●豊田真基
  はじめに/診査で注目すべきこと/症例の概要/診査評価に基づく診断と治療方針の決定/まとめ/豊田先生の症例をめぐって
 審美修復の要件●行田克則
  審美修復の到達目標/補綴物の形態―将来の安定性から―/審美修復の治療計画について/行田先生の症例をめぐって
 クラウンカントウアと歯周組織の調和●大村祐進
  はじめに/クラウンカントゥアと辺縁歯肉の関係/臨床において注意すべき事項/症例1 歯冠長延長術で対応/症例2補綴物マージンの露出/症例3 ブラックトライアングルの解消/症例4 歯頸ラインをそろえる/おわりに/大村先生の症例をめぐって
Part5 多数歯のクラウン・ブリッジ修復
 多数歯修復には歯科医療の総合力が問われる●野嶋昌彦
  多数歯修復の難しさ/多数歯修復の問題点
 はじめての多数歯修復症例●日高大次郎
  症例の概要/口腔内の状態/処置の概要
 問題点をめぐって●野嶋昌彦,日高大次郎,榊 恭範,森本達也
  日高先生からの五つの質問/この処置を行う根拠をめぐって・初診時の診査/この患者さんの状態/既存の顎位の評価/顎位の決定/テンポラリーで何を見るのか/咬合の挙上/印象/咬合接触/補綴物の材質と仮着の問題/まとめ
 顎位変更の考え方●森本達也
  はじめに/術前診査/基準となる下顎位の設定/術前診査の評価と模型上のトライアル/治療による診査・診断と顎位の決定/効果判定後のトランスファー/おわりに