やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文

 接着・合着は,完成した充填物やクラウンブリッジなどの補綴物を口腔内に接合するという,臨床で日常的に行われる操作である.
 しかし,「仮着」を行っていれば避けられたであろう,補綴物の早期接触や咬頭干渉による異常な咬耗や食片圧入などのトラブル,不適合な冠,二次齲蝕,補綴物の脱落などが現実の臨床の現場では起こっている.そこには,「仮着」や「被着面の処理」を軽視したり,「接着」に過度の期待をかけたり,ということがあるのではないだろうか.
 そこで本書においては,「接着材さえよければ当然くっつく」と考えるのではなく,「なぜ接着・合着はうまくいかないのか」「なぜくっつかないのか」という視点から,「接着・合着」を再考したい.
 無機物を有機体の一部にするためには,それぞれの被着面を考えたハード・ソフト両面の基本が大事であると考えられる.とりわけ接着材は,臨床応用されて十数年が経過し,当初理想としていた「削除せずになんでも補綴しよう」という夢は崩壊したものの,接着材の進歩は著しい.現在では,単に「接着する」という機能だけではなく,シール性による「切削面や歯髄の保護」という新しい側面での機能も期待され,その波及効果は大きいものと思われる.
 本書は,接着・合着に必要な基本事項からはじまって臨床における応用まで,特定の材料に偏することなく,それぞれの特長を生かした使用法の習慣を意図している.
 歯科医にとって,接着・合着は終わりであっても,患者さんや口腔内環境にとってははじまりである.この臨床における最終ステップを大切にしていきたい.
 1995年8月
 編集委員 広島県尾道市開業 中尾勝彦
 東京都大田区開業 飯島國好
接着・合着の前に知っておくべきこと
 接着と合着  中尾勝彦
 接着の目的・意義  安田 登・豊島義博
 接着性レジンセメントによる歯冠補綴物の二次齲蝕の防止  小林國彦・小玉尚伸・内山洋一
 歯髄を保護するための注意点  山本共夫
 接着材・合着材の管理はどのようにすればよいか  松下伸一
 接着性レジンセメントの流動性と操作時間  重頭直文・岩永博行・山田康道・モサド アリ エルガブロニー・浜田泰三
 実験データと臨床の実際  矢谷博文
 接着材・合着材の適切な使い分けができているか  冨士谷盛興
 テンポラリークラウンの仮着材は合着・接着にどのような影響を与えるか  五十嵐孝義

接着・合着の前に考えること
 根管充填材,仮封・仮着材がレジンセメントと象牙質との接着に及ぼす影響  吉田圭一・棚川美佳・熱田 充
 接着阻害因子  冨士谷盛興
 プロビジョナルレストレーションで将来を予測する  村上和彦
 光重合の特性を十分に引き出すために  日野浦光・小野瀬英雄
 歯頚部の適合をチェックする  根間英人・根間直人
 補綴物の仮着について  山崎長郎
 いま,歯面処理はどうすれば一番よいか  冨士谷盛興
 象牙質コーティングの効果  秋本尚武・河野 篤
 接着・合着前の支台歯の汚染防護対策  中尾勝彦
 曲げ試験による金属接着用プライマーの評価  重頭直文・モサド アリ エルガブロニー・浜田泰三

接着・合着の実際
 リン酸亜鉛セメント  塩沢育己・越後貫淳・山下潤朗
 合着用グラスアイオノマーセメント  藤井弁次・成川公一
 カルボキシレートセメント  月星光博
 パナビア21  近藤康弘
 ビスタイトレジンセメント  若林健史
 インパーバデュアル  日野浦光
 スーパーボンド C&B  真坂信夫

接着・合着の工夫・応用
 矯正に必要な接着  百瀬 保
 テンポラリークラウンのコーティング  飯島國好
 ラミネートベニア  佐藤 孝・佐藤由紀子・桑原 栄
 ポーセレンインレー  平田公成
 動揺歯をメッシュベニア板を用いて固定する  岡崎卓司
 IBコーティング法と接着性レジンセメントによるキャストコアの合着法  今井文彰
 ポストコアの除去  永野 忠
 合着時の圧の加え方  緒方和彦
 セメントの除去法  山本共夫
 接着性レジンセメントを使った修復物を撤去してみて考えたこと  諸星裕夫
 唾液の多い症例への対処法  岩田健男・中尾 均・門谷圭一郎
 出血と歯肉溝滲出液のコントロール  飯島國好
 歯科技工と接着  真鍋 顕
 埋伏智歯の抜歯に接着性レジンを応用する  高島 宏

接着・合着の将来
 接着の将来は?  飯島國好