やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 Per Ingvar Branemark教授が開発,臨床応用した近代の歯科インプラント治療が日本に導入されて40年を経過しようとしている.その間,関連する研究・開発が進み,治療の進め方はさまざまに変化してきている.当初の治療術式に対して,診断技術の精度が高まり,安全性が高まってきているのと同時に,高い審美性の要求に対応する技術や材料も著しいスピードで開発・進歩が続いている.
 この変化の源となり,またこの流れを今後も後押ししていく背景に「デジタル化」と「メタルフリー化」が考えられる.CTデータを用いた診断と治療計画立案を起点として,コンピュータシミュレーションデータを利用したサージカルガイドの臨床導入がきわめて容易になった.さらに,一部の歯科用金属の価格高騰を背景に,高い審美性と優れた機械的性質をもつセラミックス素材が開発され,補綴装置製作方法は,従来の金属鋳造を中心とする「ロストワックス法」から,CAD/CAM技術や積層造形などの「機械加工法」へと転換し,フルデジタル・メタルフリーのインプラント治療・技工が加速している.
 一方,インプラント治療を受ける患者さんの生体は40年前と不変であるばかりか,本邦では少子超高齢化の進展から,治療対象となる方がたの年齢層や基礎疾患の有病率などは上昇する傾向にある.歯科医療を提供する者にはより広い医療知識と高い技術が望まれることとなり,日々,進歩するインプラント治療に関連する「ハードウェア」・「ソフトウェア」双方のアップデートが求められている.
 本別冊は,これらのような今般のインプラント治療を取り巻く状況を踏まえ,デジタル化とメタルフリー化をメインストリームとする,いわゆる「今どき」のインプラント歯科治療・歯科技工の在り方を整理することを趣旨としている.あわせて,「アナログ」世代から現状までのインプラント治療・技工の変遷をたどる内容を盛り込み,「今どき」のインプラント治療・技工を,読者の方々が日々相対している現状に取り入れていく道しるべとなることを目標としている.経験豊富な執筆者が,多くの成功例とともに失敗に陥りやすい注意点を掲載し,一部,機器・材料の基礎的科学についても網羅した.
 経験の多少にかかわらず,多くの歯科技工士,そして歯科医師,コデンタルスタッフの各諸氏に本別冊を手に取っていただき,修得した知識を身近な患者さんたちに提供していただけることを希望している.
 2021年7月
 編集委員(掲載順)
  関根秀志(東京歯科大学クラウンブリッジ補綴学講座)
  萩原芳幸(日本大学歯学部歯科補綴学第III講座)
  陸 誠(コアデンタルラボ横浜)
 序(関根秀志,萩原芳幸,陸 誠)
Introduction 今日のインプラント治療/技工
 (関根秀志)
Part 1 今日のインプラント治療における基本的技工操作
 1.少数歯欠損症例のインプラント治療における技工操作(萩原芳幸,安田裕康,戸木 新,猪俣慧矩)
 2.多数歯欠損症例のインプラント治療における技工操作(本間慎也,住友將一,関根秀志)
Part 2 今日のインプラント技工
 1.従来のインプラント技工とCAD/CAMを用いたインプラント技工の違い(河村 昇)
 2.各純正アバットメントの特徴(木村健二,協和デンタル・ラボラトリー インプラント技工チーム一同)
 3.アバットメントの変遷と現在(山下恒彦)
 4.口腔内スキャナー/ラボ用スキャナーにおけるスキャニングのポイント(井出幹哉,滝沢琢也,陸 誠)
 5.3Dプリンターでのインプラント模型製作のポイント(滝沢琢也,田中文博,陸 誠)
 6.口腔内スキャナーによる臨床におけるインプラント技工(笹部雅大,一蜥ハ宣,宮崎恵子)
 7.上部構造としてのジルコニアの扱い(枝川智之)
 8.ステントの種類とラボワークの注意点(木村健二,協和デンタル・ラボラトリー インプラント技工チーム一同)
 9.デジタル化に伴う検査・診断・治療計画とプロビジョナルレストレーションの活用(植松厚夫)
 10.インプラントの咬合における臨床上の留意点(筒井祐介,増田長次郎)
Part 3 今日のインプラント治療/技工の実際
 1.前歯部審美修復症例への対応―プロビジョナルクラウンのカントゥア調整による保存的アプローチ(山田和伸)
 2.術後の口腔衛生管理に特に留意が必要な症例への対応―メインテナンスのしやすさを考慮した補綴形態と材料について)(木津康博,石井亮太,岩ア美和,吉村拓郎
 3.デジタル技工とアナログ技工の両方が必要になる症例への対応(河村 昇)
 4.口腔内スキャナーとガイデッドサージェリーによるフルデジタル治療症例への対応(志田健太郎)
 5.インプラントオーバーデンチャーによる無歯顎補綴症例への対応―バーアタッチメントを支台装置とした義歯の製作術式(邑田歳幸,大久保力廣)

 Column
  (1)インプラント上部構造の材料についてのトピックス(伴 清治)
  (2)3Dプリンター模型の精度の検証(滝沢琢也)
  (3)口腔内スキャナーの精度(田中晋平,馬場一美)
  (4)顎顔面インプラント治療の技工(大山哲生,戸木 新,納村伸弘,萩原芳幸)