やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 我々歯科技工士は長い間,白く壊れない歯科用修復材料を求めていた.これまでにメタルセラミックスやハイブリッドセラミックス,ガラス系セラミックスなどが開発され,数多くの「白い歯」が臨床に応用されてきた.
 それらは前歯部領域の審美的要素については十分に満たせるものであったが,一方で臼歯部の咬合圧に対する強度に対してはその耐用性に疑問が残っていた.臼歯部にレイヤリングしたセラミックスの長期経過症例を見ることはあるが,「咬合接触点に生じるマイクロクラックによるざらつきは対合歯に悪影響を及ぼさないのだろうか」「レイヤリングセラミックスが破折・チッピングする症例はどのくらいあるのか」と,不安は尽きなかった.また,ハイブリッドセラミック材料に関しては,咬耗度合いや,ガラス系の粒子が表面に出てきた時の対合歯への影響などに疑問があり,これらを払拭するより良い材料を求めていた.
 そこに新しい材料として登場したジルコニアは,十分な曲げ強さ,高い破壊靱性があり,モース硬度が高く傷付きにくく,歯周組織への親和性が高く,プラークが付きにくいといった,多くの長所が存在した.初期の白いジルコニアはレイヤリングのフレーム材料として使われていたが,昨今では透光性のあるものや,着色済みの材料,浸透カラーリングシステムの開発により,モノリシック材料として使われるようになってきている.モノリシックというデザインはCAD/CAMシステムや今後普及が見込まれる口腔内スキャナーとも相性が良く,効率的に応用し機械化すれば,生産性の向上に貢献できるのではないかと予想される.
 また,口腔内スキャナーを含めてこれらをデジタル「ソリューション」と呼ぶ人もいるが,行われているのは従来通りの手法で「やり方」を変えているに過ぎない.本当の革新的な,これまでにない手法は,現状の機器,システムがすべてデジタルに置き換わって初めて登場しうるものであり,その時モノリシックというデザインはますます需要を増すと思われる.
 モノリシックジルコニアクラウンは透光性や強度,色調など,まだまだ進歩していく材料と思われるが,ジルコニアの物性や特徴をよく理解しなければ,適材適所の材料選択や補綴設計は不可能である.モノリシックデザインの普及が進む昨今にあって,その立ち位置を一度整理する必要があると考え,本書を発行した.数多く存在するジルコニア材料の利点を活かし,より正しく臨床に活かすための一助となれば幸いである.
 2018 年5 月吉日
 白石大典 湘南セラミック
 土屋雅一 クレストデンタルアート
Part 1 モノリシックジルコニアの補綴的立ち位置と材料学的特徴
 1.デジタル歯科の全体像と構造設計の多様性(土屋雅一)
 2.CAD/CAMシステムとジルコニア材料の相性(白石大典)
 3.ジルコニアの物性値と臨床技工との関連性(山添正稔)
 4.接着に関わる表面処理(辻 知宏・竹中宗平)
Part 2 座談会:メーカーに聞くジルコニア材料の特性と取扱い
 (植田邦義・田中朝見・清水孝二・村上由利子・坂本美鈴・新美洋平/村田直文・渡辺俊介・白石大典・土屋雅一・山本 眞)
 1.ジルコニアパウダーと物性値について
 2.ジルコニアディスクの成形と特徴について
 3.マルチレイヤードディスクについて
 4.シンタリングの工程について
 5.キャラクタライズとジルコニアの将来展望について
Part 3 モノリシックジルコニアの臨床技工への応用
 1.ジルコニア材料の補綴設計への適用(1) 構造設計の立場から(土屋雅一)
 2.ジルコニア材料の補綴設計への適用(2) 機能構築の立場から(片山貴博・南雲淳平)
 3.ジルコニアの研磨とグレージング(白石大典)
 4.スキャン及び加工における再現性を考慮した支台歯形状の観察ポイント(菅原克彦)
 5.CAMソフトウェアによる加工設定の注意点(中島清史)
 6.ジルコニアインレーの有用性(白石大典)
Others
 Column (1) モノリシックジルコニア補綴装置に対するラボ経営の視点からの評価(石澤亮一)
 Column (2) ジルコニアの接着力を上げるプラズマ処理(白石大典)
 Column (3) ライトレイヤリングテクニックの優位性(上林 健)
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