やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序にかえて―「PMTC」その後

 前著『PMTC』を世に送り出してから,早いもので4年数カ月が過ぎ去ろうとしています.いまは,当時の情熱を懐かしく思い起こす一方で,浅学も顧みずに,思いの丈をあからさまに書き連ねたことへの気恥ずかしさも感じています.
 その後,PMTCの分野には,私たちの予想をはるかに超える目ざましい変化がありました.
 その筆頭は,器材の充実です.PMTC用の各種プラスチックチップやラバーカップ&ブラシに,各社から次々と新製品が追加されました.低速コントラやプロフィンハンドピースも使いやすく改良され,研磨ペースト,フッ化物入りジェル,各種洗口剤にも,味や香りのよい新製品が加わりました.
 わずかなケア用品から始まった当初の私たちのクリーニングシステムと比較すると,まさに隔世の感があります.この分野にかけるメーカーや販売店の熱意に接すると,ここ数年の間に起こった社会的なケアの潮流のなかで,プロが行う口腔清掃は,もはや歯科の常識になろうとしているかのようです.
 一方,病因論の分野でも新しい進展がありました.いわゆるハイリスク患者の口腔に見られるプラークは,その大半が細菌バイオフィルムであり,それを取り除くには,機械的には・が・し・取・る・方法,つまりPMTCが不可欠であることが細菌学者らの研究によって明らかにされました(第2章参照).
 歯科医療関係者の意識も大きく変わり始めました.かつては周縁に位置する感のあった予防やケアの話題が専門誌に積極的に取り上げられ,歯科医師会などの学術講演会のテーマとして,いまも頻繁に企画され続けています.
 前著が出版された後,私たち自身も多くの方たちの前で何度もお話させていただく機会を得ました.そして,どの会場もこちらが戸惑うほどの熱気に包まれました.
 長い間に培われた治療技術の大切さを否定するものではありませんが,時代は確実にキュアからケアへ向かって大きくうねり始めています.歯科医療が治療行為だけで成り立つものではなく,「その背景につねにケアの視点がともなってこそ長期的に安定した経過が期待できる」ということに,多くの臨床家が目を向け始めたということでしょうか.
 一律の治療基準から,患者さん一人ひとりに目を向けた治療そしてケアへ……,そのような発想が,あたかも“時代の意志”ででもあるかのように歯科界を包み込もうとしている……,そんな印象を受けています.
 * * *
 その後,当院のPMTCもずいぶんとパワーアップしました.次々と開発される新しい器材を取り入れただけではなく,長期的な口腔ケアを通して,「よりきめ細やかに患者さんをみる」ということが,とても自然に行えるようになりました.個々の患者さんが抱える齲7,歯周病のリスクに加えて,たとえば「口腔乾燥症」など,それまで見えなかったものが急にはっきり見えてくる瞬間にも,たびたび遭遇しました.新たな工夫が診療室全体に活力を与え,それが同時に患者さんの笑顔につながっていく……,それは,いままで以上の確かな手ごたえでした.
 編集氏からの「続編」執筆のご依頼に,多少のためらいもありましたが,映画の世界でも,パート2まではなんとか前作の熱気を維持できるケースが多いため,再び気力を振り絞ってチャレンジすることにしました.
 第1章ではPMTCの背景となるプライマリケアの考え方,第2章では病因論を中心とするPMTC最近の話題,そして,第3章,第4章では,2001年1月から12月まで医歯薬出版『デンタルハイジーン』に1年間連載された『やってみようPMTC』(波多野著)の内容に一部手を加え,より実践的で具体的なPMTCのテクニックを中心にまとめてあります.
 多くの方々からご指摘いただいたご意見を参考に,新しく工夫したシステム,当院で取り入れた最新の器材などについても網羅してあります.
 前著『PMTC』で好評だったコラム欄も再び設けました.また,前著をお読みいただいた方や,講演をお聴きいただいた方から寄せられたさまざまな質問に対するお答えを第5章にまとめてみました.
 なお,臨床例に関しては,意識的に前著との重複を避けてありますので,あわせてお読みいただければ幸いです.
 それではPMTC第2幕の始まりです.その新たな展開と,そこから始まる大いなる口腔ケアの可能性の旅へぜひごいっしょにお出かけください.
 2003年1月
 内山 茂
 序にかえて―「PMTC」その後

第1章 プライマリケアと歯科医療
 ■プライマリケアとは
 ■歯科疾患は生活習慣病
 ■多くの歯科医師はプライマリケア医
 ■プライマリケアはチームで行う
 ■PMTCは口腔ケアの実践テクニック
 ■口腔ケアから全身のプライマリケアへ

第2章 PMTCの新たなる展開
 ■バイオフィルム
 ■PMTCが必要な理由
 ■3DSの登場

第3章 やってみようPMTC
 ■PMTCを始める前に
 ■PMTCの基本
 ■プロフィーカップを使いこなす
 ■プロフィンハンドピースとエバチップ
 ■研磨剤を選ぶ
 ■口腔内の洗浄(歯周ポケットの洗浄)
 ■フッ化物塗布
 ■ワンタフト系ブラシとその他の器材

第4章 PMTCの実際
 ■初診時のPMTC
 ■歯周治療にPMTCを活かす(1)
 ■歯周治療にPMTCを活かす(2)
 ■補綴物のメインテナンス
 ■矯正治療中や幼若永久歯のPMTC
 ■有病者・障害者の口腔ケア

第5章 PMTC Q&A
 ■歯周ポケットの洗浄には強酸性電解水を使うべきか?
 ■強酸性電解水とガムCHXを混合してもよいか?
 ■粘膜疾患における抗真菌薬の具体的な使用法は?
 ■PMTCを採算面も含めてうまく臨床に取り入れるには?
 ■口腔乾燥症を訴える義歯患者への対応は?
 ■若年者への対応は?
 ■リコールシステムを定着させるための秘訣は?
 ■PMTCやリコールの大切さについて上手な説明をするには?
 ■PMTCについてのモチベートはどうするか?
 ■口腔乾燥症患者へのPMTCで注意すべきことは?
 ■PMTCに用いる小器具類の滅菌法は?

第6章 Essay,s―PMTCのかたわらで
 ■「一生恨んでやる……」という話
 ■手遅れの患者さん
 ■ケアが必要とされるとき
 ■父の遺言―患者様を大切に
 ■PMTCの風景
 ■好顔と厚顔

 文献
 おわりに

コラム
 Column PとCが大切
 Information ホームページが新しくなりました
 Addition PMTCはとてもバラエティーに富んでいる
 Column 戦う
 Opinion MI―すべての道はリスクに通ず
 Point of View 逆転の発想? いきいきと生きること
 Suggestion PMTCは過保護行為?
 Column 口の中の景色が変わったみたい
 Suggestion 人まねじゃつまらない
 Column 検索結果
 Experience Sさんへの手紙―PMTCリーフレットのこと
 Topics オン・デマンド歯科医療 Dentistry on Demand
 Close up 待合室用掲示板
 Point of View 根面はどこまできれいにするべきなのか?
 Point of View PMTCの原点―ディプラーキング
 Point of View 歯周治療の戦略―ディプラーキングで外堀を埋める
 Column ブラキシズムとエスカレーター
 Close up 包括医療とドベネックの要素樽
 Suggestion マウス・ウェット
 Column そんなはずはない
 Opinion 削るばかりが能じゃない
 Column なが〜くお世話するということ