やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 平成23年9月に報告された日本学術会議歯学委員会歯学教育分科会報告「歯学教育改善に向けて」において,歯科医師の具体的な専門的知識・技術の到達目標として,次の点が提言されている.
 1.高齢者・障がい者の心身的特性,あるいは循環器疾患,呼吸器疾患,脳血管障害,糖尿病などの全身疾患に関する基本的知識を有し,これらの疾患を有する患者の状態を的確に把握したうえで,医科との連携の下で適切な対応ができること
 2.咀嚼・嚥下機能に係わる口腔疾患,心理的側面を有する口腔疾患,口腔粘膜疾患や味覚障害,唾液分泌障害などの口腔疾患の診断が的確に行えるとともに,必要に応じて,医科や他の医療職・専門職とのチーム医療により効果的な治療を選択・実践できること
 3.救命救急処置や感染予防に関して基本的な知識と技術を有し,安全かつ適切な歯科医療を提供できること
 4.在宅(訪問)歯科診療に関する基本的知識・技術を有するとともに,医師,看護師をはじめとした保健・医療・福祉・介護専門職と協働した地域包括ケアの一員として歯科保健医療を実践できること
 このように,リスクファクターの評価を基盤として適切な予防管理・指導と治療を選択・実践できる能力とともに,高齢者・障がい者の特性や全身性疾患に関する基本的知識を有し,医科との連携の下で適切な対応や治療を実践できる能力が求められている.
 また,内藤らの「歯学部における隣接医学教育の重要性に関するWeb調査」(日本歯科医学教育学会雑誌.2012;28(1):12-17)(全国8大学の歯学教育に関わる教員を対象)において,回答者の96.5%が,歯学部では従来よりも高度な医学知識が必要との回答および歯科診療に必要な医学一般の知識として,「高血圧・糖尿病などの生活習慣病」,「口腔症状と関連する全身疾患」,「救急救命の対応」,「薬剤の効能と副作用」,「出血傾向」,「がん・心臓病・脳卒中などの3大疾患」,「院内感染防止対策」,「精神・神経性の疾患」,「易感染性・免疫抑制状態」,「妊娠中の管理」の順で必要であるとの回答が報告されている.
 このため,本別冊は歯科医師のみならず,歯学部学生・歯科研修医,歯科衛生士にも大いに役立つこと,最新の医学情報を含めて記載すること,内科疾患に限らず広範囲の疾患を対象とすることを目標とした.執筆者は徳島大学で医学・歯学の教育・診療に携わっている医師・歯科医師にお願いし,オール徳島大学で対応した.最初に巻頭アトラスとして口腔顎顔面に現れる全身性疾患の口腔病変を,Chapter1においては重要な症候の解説を,Chapter 2〜13では最初に全身性疾患のそれぞれの器官系の生理学と疾患の概説を行い,引き続き重要な疾患を取り上げた.また,できるかぎり平成26年版歯科医師国家試験出題基準をふまえた疾患を対象としている.さらに,歯科診療上の注意点があれば,それについても言及することとした.Chapter 14〜16においては,歯科医師に必要な検査値の読み方・活かし方,医科への照会の仕方,歯科治療時の緊急事態とその対応について,歯科の立場から言及した.紙幅の都合上,本編においてはできるかぎり医学英語のフルスペリングを割愛している.英語フルスペリングおよびその日本語訳例は,巻末の用語・略語一覧を参照していただきたい.また,この用語・略語一覧には,本編には取り上げられていないが,医科臨床で頻度高く用いられるものを加えている.
 最後に,ご多忙中,ご執筆いただいた先生方,ならびに本別冊の出版に尽力していただいた医歯薬出版の諸氏に敬意を表する.
 2014年4月 編者を代表して
 吉本勝彦
Color Atlas
 口腔顎顔面に現れる全身性疾患
Chapter 1 症候
 全身倦怠感
 発熱
 意識障害・失神
 頭痛
 筋痙攣
 めまい
 摂食・嚥下障害
 構音障害・言語障害
 血圧上昇・ショック
 チアノーゼ
 胸痛
 動悸(頻脈・徐脈・脈の乱れなど)
 咳嗽・痰
 呼吸困難・息切れ・喘鳴
 食欲低下・脱水
 悪心・嘔吐・下痢
 浮腫
 体重減少・体重増加
 不眠
Chapter 2 循環器疾患
 循環器疾患とは
 心不全
 虚血性心疾患
 心臓弁膜症・感染性心内膜炎
 高血圧症
 心筋症
 不整脈
Chapter 3 呼吸器疾患
 呼吸器疾患とは
 気管支喘息
 慢性閉塞性肺疾患・間質性肺炎
 肺炎
 睡眠時無呼吸症候群
 過換気症候群
 肺がん・禁煙指導・禁煙支援
Chapter 4 消化器疾患
 消化器疾患とは
 胃食道逆流症・食道炎
 胃・十二指腸潰瘍
 胃がん・大腸がん
 炎症性腸疾患
 急性肝炎・慢性肝炎・肝硬変症・肝がん
Chapter 5 腎疾患
 腎疾患とは
 CKD(慢性腎臓病)
 ネフローゼ症候群ほか
 腎不全
Chapter 6 血液疾患
 血液疾患とは
 貧血
 白血病・悪性リンパ腫・多発性骨髄腫
 血小板減少症
 凝固因子異常症・抗凝固療法・抗血小板療法
 抗凝固療法・抗血小板療法時の歯科治療
Chapter 7 神経・筋・運動器疾患
 神経・筋疾患とは
 脳出血・脳梗塞・くも膜下出血
 てんかん
 パーキンソン病(Parkinson's disease)
 筋ジストロフィー・重症筋無力症
 三叉神経痛
 顔面神経麻痺
 腰部脊柱管狭窄症
Chapter 8 精神・心療内科疾患
 精神・心療内科疾患とは
 認知症
 うつ病・双極性障害
 統合失調症
 不安障害
 アルコール・薬物依存症
 発達障害
Chapter 9 膠原病・免疫疾患・アレルギー疾患
 膠原病・免疫疾患・アレルギー疾患とは
 関節リウマチ
 全身性エリテマトーデス・多発性筋炎/皮膚筋炎・全身性強皮症
 シェーグレン症候群・ベーチェット病
 アレルギー性紫斑病(Henoch-Schonlein紫斑病)
 金属アレルギー
 アナフィラキシー・血管浮腫
Chapter 10 内分泌疾患
 内分泌疾患とは
 甲状腺機能亢進症・甲状腺機能低下症
 副甲状腺機能亢進症・副甲状腺機能低下症
 先端巨大症・下垂体前葉機能低下症
 アジソン病・急性副腎不全
 クッシング病・クッシング症候群
 原発性アルドステロン症・褐色細胞腫
Chapter 11 代謝疾患
 代謝疾患とは
 糖尿病
 脂質異常症・高尿酸血症
 骨粗鬆症
Chapter 12 感染症
 感染症とは
 発疹性ウイルス疾患
 結核
 後天性免疫不全症候群
 性感染症
 口腔真菌症
Chapter 13 その他の疾患
 妊娠・授乳と薬物投与
 染色体異常症
 気道・食道異物
 薬疹
 高齢者の生活機能障害
 悪性腫瘍治療時の口腔ケア
 臓器移植後の歯科治療
Chapter 14 歯科医師に必要な検査値の読み方・活かし方
Chapter 15 医科への照会の仕方
Chapter 16 歯科治療時の緊急事態とその対応

 用語・略語一覧