やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序/インプラント治療を導入するということ
 インプラント治療に,どのようなイメージをおもちでしょうか?
 「難しいもの」でしょうか?「誰にでもできる簡単なもの」でしょうか?
 「身近なもの」でしょうか?「自分には関係のない遠い存在」でしょうか?
 ――インプラント治療を学び,実践していくなかでは,それらの感覚の間を行ったり来たりすることになると思います.
 昨今の歯科事情を考えるに,はじめてインプラント治療を導入する際の環境は,われわれ編集委員がインプラント治療に取り組み始めた10〜20年前に比べると,非常に恵まれてきていると感じます.インプラント体の素材・形態はある程度成熟したものとなり,どのメーカーのシステムを選択しても,一定の安全性が確保されていると考えます.各社のハンズオンセミナーも安価になりました.
 しかし,いざインプラント治療を導入するとなると,諸問題を抱えてしまう先生方も多くいらっしゃるのが現状ではないでしょうか.
 「セミナーでは顎模型で実習したけれど,実際はどうなのだろう?」「埋入キットは買ったけれど,外科器具はどれくらい用意すればよいのか?」「診査・診断にあたっては,特別に何をしたらよいのか?」「自院の外来で手術を行っても大丈夫なのだろうか?」「補綴の部分はしっかりとできるだろうか?」「とにかく,最初に何から揃えようか?」……不安をあげ始めたら際限がないかもしれません.
 では,はじめてインプラント治療に取り組んでいこうとする方のために必要不可欠となる事項を考えてみましょう.
 インプラント治療とは,緻密な作業の連続です.診査・診断のための資料の採取からはじまり,X線写真・CT画像の読像,治療計画の立案,患者への説明……,ここまででも一苦労です.その後,埋入手術(一次手術,二次手術),印象採得,補綴処置……,ここまでで終わりではなく,メインテナンスという重要なステージが続いていきます.これらの一つひとつを確認し理解していくことが,インプラント治療導入の近道であるかもしれません.
 本書では,それらの項目を順序立てて編集してありますので,実習書となりうる構成と考えています.
 インプラント治療は,歯科医師としての知識・技術の集大成と言えるかもしれません.知識・技術の体得には「確認・理解・実践」が必要です.はじめてインプラント治療にトライする方,また経験があるが知識・技術の再確認をなさりたい方にとって,必ずやお役に立てる一冊になっていると考えています.
 さて,知識・技術の体得はもちろんですが,もうひとつ大切なことを強調させていただきます.
 それは,「インプラント治療の特殊性」を十分に理解するということです.そして,そのことを患者に十分に伝えていただきたいと考えます.
 昨今,歯科医療はトラブルが隣り合わせと言ってもよい時代になってきました.「患者さんに最良のホスピタリティをもって一生懸命に治療した結果」がトラブルになれば,われわれも患者も不愉快な思いをしなくてはなりません.それを防止するのは,「術者が十分な深い知識をもち,それを患者に的確に伝える」という過程の徹底しかないのかもしれません.まさに,インプラント治療はその際たる領域なのではないでしょうか?「インプラントって何?」という問いかけに自分自身で十分な答えを見出し,そして導入をしていただければ幸いです.
 本書は,東京歯科大学同窓会卒研セミナーのインプラントコースの内容をベースに構成されています.出版にあたりましては,同会学術部委員会および卒研セミナー関係者の方々よりたいへんなご協力をいただきました.また,東京歯科大学千葉病院・水道橋病院の各口腔インプラント科,さらに同学解剖学講座の先生方にも多大なるご協力を賜りました.この場をお借りして,御礼申し上げます.
 2008年4月
 編者を代表して 牧野 寛
 序 インプラント治療を導入するということ(牧野 寛)
 編者・執筆者一覧
SECTION.1 インプラント治療導入にあたって
 ・座談会 インプラント治療を正しく導入しよう!(牧野 寛 山口雅史 花井淳一郎 木暮隆司 小林慶太 藤関雅嗣)
  インプラント導入のメリット――何のためのインプラントか?
  インプラント導入の際の不安・疑問
  これだけは押さえておこう!
SECTION.2 インプラント治療導入の前に
 ・揃えるべき器材・薬剤(伊藤太一 矢島安朝)
  数多くの種類と,複雑なパーツからなるインプラント器材
  インプラント手術時
  上部構造作製時
  メインテナンス時
  安全で確実なインプラント治療の提供のために
 ・構築すべき院内感染予防システム(矢島安朝)
  スタンダードプリコーションによる感染防止対策を
  「滅菌」「消毒」「殺菌」の概念を使い分ける!
  手術環境の条件――「広い」「隔離」「空気感染対策」がキーワード!
 ・インプラント治療のための解剖の基本(阿部伸一 井出吉信)
  インプラント治療を成功に導く解剖学的知識とは?
  下顎骨および下顎骨周囲の神経,脈管
  下顎骨の歯牙喪失後の形態変化
  上顎骨周囲を走行する神経,脈管
  上顎骨の外部形態とその変化
  解剖学的理解が医療事故を防ぐ!
 ・もっておくべき医療姿勢(矢島安朝)
  インプラント医療を取り巻く社会の状況
  インプラントトラブル症例の共通点とメディカルインタビュー
  インプラントの概念――常態を病態に変える治療という認識を!
SECTION.3 インプラント治療の実際
 ・診査・治療計画(関根秀志)
  インプラント治療における治療計画とは?
  インプラント治療の説明と一般診査
   インプラント治療の概要説明:初診時の医療面接/全身的診査項目と局所的診査項目
  治療計画の立案
  インプラント埋入計画
   骨質と骨量/埋入部位・位置/埋入方向/本数/直径/長径/形態/表面性状/埋入術式
  上部構造の設計
   インプラントを用いた咬合の再構成/咬合力の支持機構/歯の欠損の様相/上部構造の固定/上部構造の構成/アバットメントの種類
  術後管理計画
   術後管理の要点
 ・画像診断の実際(関根秀志 田口達夫)
  各種X線診査
  診断用ステントの利用
  外科用ステントの利用
 ・COLUMN 歯科用コーンビーム CTの有用性(矢島安朝)
 ・欠損歯列の診断をふまえたインプラント治療計画(藤関雅嗣)
  欠損歯列の診断と治療計画
  咬合支持,受圧要素(条件),加圧要素(因子)
  欠損歯列の診断に基づいたインプラント治療の実際
 ・外科基本手技(矢島安朝 古谷義隆)
  炎症総論とインプラント外科治療
   急性炎症からまっすぐ治癒へ!/インプラント周囲は常に慢性炎症の状態にある―「組織の壊死」を防止すること!
  手術前準備の基本
   スタッフとテーブルの配置/術者・助手の服装,術衣の着用,手袋の着用/器具の準備/患者の術前処置,布かけ
  切開線の設定と切開法
   切開線の設定/切開法
  粘膜骨膜弁の設計と剥離の方法
   粘膜骨膜弁設計のポイント/骨膜剥離子の選択と使用方法
  インプラント床の形成
   火傷を起こさせない
  縫合
   器具の使い方/運針/抜糸の原則
 ・インプラント治療に伴う医療事故とその対応(矢島安朝)
  インプラント埋入手術に伴う重大な医療事故
   神経損傷/血管損傷
  重大な事故を起こさないために
 ・補綴基本手技(藤関雅嗣)
  インプラント治療における補綴手技概論
   免荷期間はどう設定するか/免荷期間後の補綴処置の流れ
  治癒期間の設定とプロビジョナルレストレーションの基本
   一歯欠損症例でのプロビジョナルレストレーション/多数歯欠損症例でのプロビジョナルレストレーション
  インプラントの印象採得の基本
   一歯欠損症例での印象採得/複数歯欠損症例での印象採得/多数歯欠損症例での印象採得
  インプラントの咬合採得の基本
   複数歯欠損症例での咬合採得/多数歯欠損症例(咬合再構成が必要な症例)での咬合採得
  セメント合着,スクリュー固定の基本
   複数歯欠損症例でのセメント合着/多数歯欠損症例でのスクリュー固定
 ・メインテナンスの基本(関根秀志 松崎文頼)
  インプラント治療におけるメインテナンスの意味
  炎症に対するメインテナンス
  咬合接触に対するメインテナンス
  モチベーションの維持・向上のためのポイント
  メインテナンスにおける歯科衛生士との情報共有
SECTION.4 これからインプラント治療に取り組むためのQ&A
 ・Q&A for Beginners(矢島安朝 関根秀志 藤関雅嗣)
  診査・診断
  器材,設備
  外科,補綴手技
  メインテナンス
  患者さんへの説明など