やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに:やっぱり天然歯にこだわりたい
 時代は,天然歯にこだわる治療を重視する動きとインプラント治療を積極的に行う動きがあるように思われます.もちろん患者さん中心の治療として,それが両立していくのが理想でしょう.
 筆者は,保存系出身のせいか,天然歯にこだわる治療をしています.患者さんも「なんとか天然歯を残してほしい」という方が多く集まってきます.研究も,歯周病の原因になる細菌学,組織再生の分野に興味をもって進めています.本別冊の企画も,そもそもは天然歯にこだわりたいという思いから始めたものです.
 また筆者は,東京歯科大学の卒後研修プログラムで,本別冊の執筆者である山本英之先生,高橋潤一先生らとビギナーのフラップ手術実習のインストラクターをしてきました.素晴らしい症例が掲載された雑誌や成書がある一方で,なかなか歯周外科に踏み込めない方,毎年生まれてくる2千数百名の若手歯科医師というビギナーが多くいらっしゃることを実感しました.受講者と接するなかで痛感した「基本の大切さ」を主たるコンセプトに,「フラップ手術を始めたいが自信がない」といった方々に,できるだけわかりやすい形でまとめられたら,との思いが本別冊の最大の動機になっています.
 本別冊は,2003〜2004年に歯界展望に連載した高橋潤一先生,山本英之先生,筆者の原稿をもとに,新たに臨床医サイドから講習会で実技指導をされている吉野敏明先生,藤本浩平先生,若手代表として高井周太郎先生,田中真喜先生,研究者サイドから東京歯科大学の井上孝教授,石原和幸助教授,UCLAの山田将博先生,歯科衛生士サイドから土屋和子さん,杉本知寿子さんに執筆をお願いしました.さらに,インタビュー企画でご一緒させていただいた歯周病治療の先導者でいらっしゃる船越栄次先生にもご参加いただけたのは大変光栄なことです.
 全体の方向性を決めたほかは,それぞれの個性を活かして書いていただきましたので,繰り返しや一貫性の不足があるかもしれません.繰り返しは重要な点として,また,一貫性に関しては,それぞれの方の考え方としてご理解いただければ幸いです.
 この別冊が,フラップ手術を始めようとする方,それをアシストする方のガイドブックとして,また,もう一歩を踏み出してみたいと思っていらっしゃる方の読み物として楽しんでいただければありがたいと思っています.
 できるだけ安価で手に取りやすいものを,との私のわがままに,歯界展望の別冊という形でお応えいただき,発刊までお支えいただいた医歯薬出版に厚くお礼申し上げます.
 2007年4月
 編者 中川種昭
 はじめに:やっぱり天然歯にこだわりたい(中川種昭)
 目次
 執筆者一覧

Section0 フラップ手術を始める前に知っておくこと
 おさえておきたい解剖学(高橋潤一)
 歯周組織を三次元的に把握しよう(吉野敏明)
 まずSRPができるようになろう(高橋潤一)
 どこを,なぜ開けるのか(中川種昭)
Section1 フラップ手術をやってみよう
 <フラップ手術に必要な準備と器具>
  最低これだけはそろえよう(中川種昭)
  器具選択と取り扱いの基本(藤本浩平)
  さらにこれがあると便利(吉野敏明)
 <フラップ手術の実際>
  前歯部と臼歯部のフラップ手術の実際(中川種昭)
  臼歯部のフラップ手術のポイント(吉野敏明・高井周太郎)
  術前・術中・術後の患者さんケア(田中真喜)
  歯科衛生士がかかわるフラップ手術前後の歯周コントロール(土屋和子)
  歯周外科手術時のアシスタントワークの実際と練習法(杉本知寿子)
  ビギナーが陥りやすいピットフォール(高橋潤一)
Section2 フラップ手術から一歩前進
 エムドゲイン療法(中川種昭)
 骨移植材を再考する―その特性と適応(田中真喜・吉野敏明・山田将博)
Section3 フラップ手術を臨床にどう活かすか
 フラップ手術の「魔法」からの脱却を(山本英之)
 大学で学ぶ基礎・基本を臨床にどう活かすか(吉野敏明)
 “手術の原理原則”を学ぼう(藤本浩平)
 インタビュー「基本をしっかりやれば,誰でも同じ結果を得ることができる」(船越栄次)
Section4 Q&Aこんなときどうしたらいい?
 Q&A for beginners(中川種昭)
 もう一歩踏み込んでみよう(吉野敏明・中川種昭)
 フラップセミナー受講生とインストラクターの対話
コラム
 ドクター孝の基礎からの手紙
  フラップ手術後は“開放創による治癒”と考えよう(井上 孝)
  臨床家からの“よくある質問”(井上 孝)
 和幸博士の異常な選択
  なぜフラップ手術の前に菌のことを考えるにいたったか(石原和幸)
 ドクター真喜の解剖学を知ろう
  軟組織の温存は非常に大切(田中真喜)

 編集後記