やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序――本別冊の発行にあたって
 「患者さん中心の歯科医療」が叫ばれ久しく時が経ちます.しかし,何をもって「患者さんのため」なのかについては,いまだ議論が尽きたとは言えないことも事実でしょう.
 われわれ3人の編集委員はこれまで,10年,20年と経過を追うことではじめて,行った歯科医療の妥当性を評価することができるということを一貫して訴えてきました.そこでは当然,患者さんと「長くかかわる」ことが大前提であり,その医療姿勢こそが「患者さんのため」の医療に結びつくと考え臨床に取り組んできました.
 もちろん,すべての患者さんが,あるいはすべての歯科疾患が「長くかかわる」ことを必要としているわけではないでしょう.しかし,少なくとも生活習慣病として,また慢性疾患としての捉え方が定着してきている疾病領域においては,長くかかわってこそ対応できることがあることも確かです.
 また,昨今の保険制度の改定においても,「患者中心」との言葉が謳われ,「かかりつけ」や「メインテナンス」の導入など,継続的な患者さんとの関係が評価対象とされるようになってきました.もちろん,単純に言えることではありませんが,「長くかかわる」という医療姿勢が,患者さん中心の医療の実践へのキーワードとして認識されつつあることの現れと考えられるのではないでしょうか.さらに裏を返せば,長くかかわっていただけているということは,そこに何らかの患者満足が存在しているということの一つの評価と考えられるかもしれません.
 そこで本別冊では,われわれ編集委員と同様に,患者さんとの長いかかわりを重ねてこられた臨床家の先生方にご協力いただき,これからの歯科医療の方向性を展望しつつ,「長くかかわる」ことの意味を見つめ直すこととしました.
 本別冊は,以下の5章より構成しました.
 まず第1章では,これまでの患者さんとのかかわりを振り返り,長くかかわることの意味と,新たに浮かび上がってきた課題について,編集委員による鼎談を行いました.
 第2章では,広く社会学的視点より,望まれる歯科医療の方向性を整理し,患者さんとのかかわりのあるべき姿についてご提言をいただきました.
 第3章では,われわれ編集委員と同じく30年前後の患者さんとのかかわりを続けてこられている臨床家の方々に,実際のかかわりをご提示いただき,長くかかわるなかでみえてきたこと,長くかかわらなければみえてこなかったであろうことについて整理していただきました.
 第4章では,開業後6年から20年までの若手の歯科医師に登場いただき,それぞれの置かれた環境のなかでの,患者さんとの長いかかわりへの試行錯誤を紹介していただきました.
 第5章では,長いかかわりは継続的な記録があってはじめて成り立つものであるとの考えから,患者データの管理と活用の実際について,特にデジタル時代に対応したツールを紹介しながら,患者さんと長くかかわることを可能にする医院システムについてご紹介いただきました.
 再生医療などの先端医療への期待が過度に強調される昨今ですが,患者さんとのかかわりという,科学の進歩の裏に隠れてしまいがちな非常に人間的な要素こそ医療の一つの本質であるということが,われわれ編集委員が30年前後の臨床から得た結論です.
 読者の先生方には,ご自身の毎日の臨床,目の前の患者さんとのかかわりと照らし合わせてお読みいただき,共感していただける部分が多くあることを願うばかりです.
 編集委員
 黒田昌彦(東京都千代田区開業)
 宮地建夫(東京都千代田区開業)
 北川原 健(長野県長野市開業)
歯界展望別冊 長くかかわる歯科医療の実践―患者さんのための「かかりつけ歯科医」 CONTENTS
 DENTAL OUTLOOK Extra Issue/Practices of Patient-centred Dental Health Care

・序―本別冊の発行にあたって
・目次
・編者・執筆者一覧

第1章 巻頭鼎談/「長くかかわる」とは?(北川原 健・宮地建夫・黒田昌彦)
 ・はじめに―それぞれの「長いかかわり」
 ・なぜ「長くかかわる」ことが大事なのか?
 ・「長くかかわる」ために必要なことは?
 ・「長くかかわる」ことのこれからの課題
第2章 これからの歯科医療と患者さんとの「かかわり」
 ・これからの歯科医療の方向性―かかりつけ歯科医に求められる医療姿勢―(石井拓男)
 ・患者は今の歯科医療に満足しているのか?(広多 勤)
 [Column]「かかりつけ」って何だろう?(宮地建夫)
第3章 「長くかかわる」なかからみえてきたこと
 ・患者の主体性とその物語(押見 一)
 ・みえてきた「力」の威力(鈴木 尚)
 ・患者さんとの長いかかわりから得られたもの(鈴木祐司)
 ・「物語」を紡ぐ臨床を目指して(丸森英史)
 ・小児とのかかわりのなかでみえてきたこと(丸山文孝・戸谷田智恵美)
 ・プロフェッショナルケアを通してみえてきたもの(波多野映子)
 ・20年のかかわりから気づいたこと(品田和美)
第4章 若手歯科医師の「長いかかわり」への試行錯誤
 ・長くかかわる歯科医療の理想と限界(斎藤純一)
 ・地域に根差した歯科医療を考える(丸山文孝)
 ・ホームドクターとしての小児患者へのかかわり(須貝昭弘)
 ・健康な歯肉と良い入れ歯を目指して―機能回復と継続的なメインテナンスへの試み―(廣瀬和人)
 ・かかわりは「慢性疾患」としての認識から―口腔内の崩壊の過程を目の当たりにして―(山本英之)
 ・「知識」から「実感」に支えられた治療方針へ(壬生秀明)
第5章 継続管理のための患者データの保存・活用
 ・個別対応のための医院システム(鷹岡竜一)
 ・定期健診データの管理と活用(北川原 健)
 ・患者データの管理・活用―患者管理データベースの構築から―(河井 聡)
 ・患者データの管理・活用―かかりつけhelperシステムの構築から―(鷲沢直也)
 ・患者説明・情報提供システム(村井雅彦)
 ・画像の管理―Macintosh編(金子 純)
 ・画像の管理―Windows編(眞田浩一)
 ・X線写真の規格化―経過観察を中心とした診療―(奥平紳一郎)